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第238話『第五十階層』

 第四十二階層から第四十九階層まで一気に駆け抜けた私達は第五十階層────ダンジョンボスの部屋の前まで来ていた。

純白の扉を見上げる我々選抜メンバーは目前に迫ったボス戦に、ゴクリと喉を鳴らす。

後ろに控える他のメンバーも緊張しているのか、顔が強ばっていた。


 ついにここまで……ダンジョンボスの部屋の前まで来れた。これから、ラスボスと戦うのかと思うと、手汗が止まらない……。


 しっとりとした自身の手を見下ろし、表情を硬くした。

ダンジョンボスとの戦いは二回目だが、バハムートに殺されかけた経験がある以上、油断は出来ない。


「扉、開けるぞ」


「ああ」


 横一列に並んだ選抜メンバーの両端に佇むリーダーとニールさんは慎重な手つきで純白の扉を開ける。

観音開きの扉の向こうには前回と同様、真っ白な空間が広がっていた。

バハムートに蹴り飛ばされた時の光景が脳裏を過り、身を強ばらせる。

今の今まで何ともなかったのに、ダンジョンボスとの戦いが目前に迫った途端、急に怖くなった。

─────次は気絶じゃ済まないんじゃないか?と。


 落ち着け、私……怯えるな。恐怖に支配されたら、冷静な判断が出来ない。それに今回はリーダーや『紅蓮の夜叉』のメンバーが居るんだ、怖がる必要は無い。


 そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせていると────不意に横から抱き寄せられた。


「────ラーちゃんのことは俺っちが絶対守るから、大丈夫だよ〜。だから、安心して〜。ねっ?」


 そう言って、私の顔を覗き込んでくるのは“影の疾走者”の二つ名を持つ徳正さんだった。

拍子抜けするほど普段通りの彼に毒気を抜かれ、苦笑を浮かべる。

やはり、徳正さんからの『大丈夫』が一番安心出来た。


「ありがとうございます、徳正さん。おかげで冷静さを失わずに済みました」


「どういたしまして〜。ラーちゃんが安心出来たなら、良かったよ〜」


 ヘラリと笑う徳正さんは私の肩からパッと手を離し、改めて前を見据える。

緊張感を微塵も感じさせない態度は相変わらずだが、ボス戦に真面目に挑もうとする気概は感じられた。

彼の横顔を一瞥し、私もしっかりと前を向く。

 こちらの様子を伺っていた青髪の美丈夫は普段通りの私を見て、満足そうに頷いた。


「各自、心の準備は出来たみたいだな。それでは、早速ダンジョンボスの部屋へと入る。私の合図に合わせて、部屋の中へ飛び込んでくれ」


「「「了解」」」


 ニールさんの指示に即座に頷けば、後ろから『お気をつけて!』『頑張ってください!』と声を掛けられた。

初対面とはいえ、共に死線を潜り抜けた仲間として私達のことを心配してくれているのだろう。

たくさんのエールをくれる彼らに、私は前を向いたまま『ありがとう』とだけ呟いた。

しんみりした空気が漂う中、ニールさんが迷いを吹っ切るように声を張り上げる。


「────選抜メンバーよ、中へ飛び込め!」


 その言葉を合図に、我々選抜メンバーは後ろ髪を引かれる思いでボスフロアの中へ飛び込んだ。

皆の足音が重なる中、パタンッと扉の閉まる音が響く。

ボスフロアは防音処理がきちんとされているため、扉の向こうに居る仲間の声は一切聞こえなかった。


「1、2、3、4……8!よし、全員居るな」


 出遅れた者が居ないのかしっかり確認したニールさんはホッとしたように息を吐く。

が、『まだ安心は出来ない』と表情を引き締めた。


「へぇ〜。ダンジョンボスの部屋って、こんな風になってるんだ〜。普通のボスフロアと変わんないね〜」


『もっと豪華な部屋を期待していたんだがな。期待外れだった』


「無駄に豪華でも戦いに邪魔なだけだろ」


 気を引き締めるニールさんとは対照的に、うちのメンバーは緊張感の欠片もなかった。

ダンジョンボスの部屋をじっくり観察する余裕があるくらいには……。


 この人達は本当にマイペースだな……。


「お前ら、この状況でよくそんな事が言えるな……」


「でも、ある意味頼もしいですね」


「おお!君もついに彼らの魅力が分かってきたようだね☆」


 呆れ返るレオンさんとは対照的に、意外と順応性の高いセトは苦笑を浮かべている。

リアムさんに関しては腰に手を当てて、高笑いしていた。

無駄にテンションの高い白髪アシメの美男子を前に、苦笑を浮かべていると────視界の端に白い光が映る。


「────ダンジョンボスが顕現を始めた!各自、戦闘態勢に入れ!」


 ニールさんの焦った声につられ、慌てて前を向けば、部屋の中央に無数の光が集まっていた。

バハムート戦の時と同じ光景に、キュッと口を引き結び、アイテムボックスの中から純白の杖を取り出す。


 徳正さん達が私を庇うように前へ出る中、白い光の中から────ドラゴンが顕現した。

青緑色の鱗で全身を覆われたその魔物(モンスター)はバハムートより一回り大きく、薄緑の瞳を持っている。そして────翼がなかった。

いや、その言い方は適切ではないかもしれない。正確に言うと、翼のようなものはあるのだ。

でも、それは黒い靄のようなもので……ドラゴンの翼を形どっているが、酷く曖昧でゆらゆらと揺れている。

風に飛ばされそうなほど脆いそれを翼と呼んでいいものなのか分からなかった。


 同じドラゴンで、ダンジョンボスの筈なのにバハムートとは全然違う。このドラゴンも喋ったりするんだろうか?いや、それよりも────。


「────めちゃくちゃ臭いんだけど〜!!何これ〜!?」


 黒衣の忍者が堪らずといった様子でそう叫んだ。

鼻を押さえて蹲る彼に、誰もが共感するように頷く。だって、本当にめちゃくちゃ臭いから。


 多分、ダンジョンボスの体臭か何かだと思うけど、冗談抜きで凄く臭い。生ゴミが腐ったような臭いがする……。


『一体どれだけ風呂に入っていなかったんだ……』


「いや、風呂以前の問題だろ。ここまで酷い体臭持ちなら、風呂に入っても大して意味がない」


 当の本人が目の前に居るというのに、うちのメンバーはいつもの調子で失礼な発言を連発する。

このドラゴンがバハムートと同じように知能が高かったら、どうするんですか!と思いつつ、手で鼻を覆っていると────聞き慣れない声が耳を掠めた。


『────失礼な奴らじゃな。まあ、ワシの体臭がキツいのは事実ゆえ否定はしないが……』


 呆れを滲ませたこの声は渋く、年配の男性を連想させる。

この状況に既視感を感じながら、顔を上げればダンジョンボスのドラゴンと目が合った。

青緑色の鱗を輝かせるドラゴンはスッと目を細める。


『まずは自己紹介と行こうかのぉ。ワシはサウスダンジョンのダンジョンボスである────ファフニールじゃ』

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