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第236話『お願い』

「────レイブン、さっきはうちの参謀が世話になったな」


 平坦な声でそう告げるリーダーは氷のように冷え冷えとした眼差しをレイブンに向ける。

表情は相変わらずの無表情だが、彼の放つ雰囲気が少しだけピリピリしていた。


『お頭、お手柄だな』


「たまたまだ。恐らく、徳正にがっちりガードされていたラミエル達は倒せないと思って、俺を狙ったんだろう。格上だと分かっていながら」


「なるほど。一か八かの賭けに出た訳だね☆でも、狙った相手が悪かったようだ」


 えーっと、つまり話を整理すると……影移動の最大使用時間を切りそうになり、焦ったレイブンが護衛対象外のリーダーに襲い掛かったって訳ね。一応、ラルカさんを狙うっていう選択肢もあったけど、近場に居たのがリーダーだったから彼を狙ったのだろう。

まあ、どちらにせよ捕獲されていただろうけど……ラルカさんも相当の手練だからね。


 何とか状況を呑み込んだ私はリーダーの中で『カァーカァー!』と鳴くレイブンを眺める。

翼を動かし、バタバタ暴れるレイブンは逃げ出そうと必死だった。


「どうやら、スキルの最大使用時間は過ぎたみたいですね。さっきみたいに影移動を使って、逃げようとしませんから」


「そうみたいだな」


 無機質な瞳でレイブンを見下ろす銀髪の美丈夫はふと視線をあげる。

彼の視線の先には扉に寄りかかって、こちらの様子を見守る徳正さんの姿があった。


「徳正、これはお前にくれてやる。煮るなり焼くなり好きにしろ」


 そう言って、リーダーはレイブンの首を鷲掴みにしたまま差し出した。


「え?いいの〜?」


「ああ」


「やった〜!主君、ありがと〜!」


 両手を上げ、ぴょんぴょん跳ねる黒衣の忍びは嬉しそうに笑い、リーダーからレイブンを譲り受ける。

銀髪の美丈夫と同じようにレイブンの首を掴んだ徳正さんはニヤリと口角を上げた。

そして、何を思ったのかレイブンの羽根に手をかける。


「俺っちって、とっても親切だからさ────殺す前にちゃんと痛みを教えてあげるね〜」


 満面の笑みでそう言い放った徳正さんはブチブチブチブチ!と羽根を豪快に毟った。

そこに罪悪感や後悔といった感情は一切なく、ただただ楽しそうに笑っている。

ある意味シムナさんより残虐性が高い徳正さんは『反対もちゃんとやってあげるからね〜』と言って、もう一個の翼に目を向けた。

羽根を毟る度、レイブンの悲痛の叫び声……と言うか鳴き声が響き渡る。


 ダメだ、この人……拷問始めちゃったよ。不機嫌なのは分かっていたけど、普通そこまでする!?スパッと首を撥ねて、終わりだと思っていたのに……。


『お頭、あのまま放置していいのか?』


「構わない。たまにはストレスを発散させないといけないからな。それに今回はラミエルも居るし、直ぐに終わると思うぞ」


『確かにそうだな。ラミエルが一声掛ければ、直ぐに帰って来そうだ』


 大して驚きもせず、呑気に会話を交わすラルカさんとリーダーは傍観を決め込んでいる。

付き合いが長い分、こういうのに慣れているらしい。


 徳正さんが仲間以外に容赦がないのは知っていたけど、魔物(モンスター)相手にここまでするなんて……普段の彼からは想像もつかない。

────なんだか、徳正さんが知らない人みたいでちょっと怖い……かも。


 初めて見た徳正さんの残虐な一面に不安が膨らみ、ほぼ無意識に手を伸ばす。

彼が本当に私の知っている徳正さんなのか、確認したくて彼の袖口をキュッと掴んだ。

すると、徳正さんが驚いたようにこちらを振り返り、その瞳に私を映した。


「ラーちゃん?どうしたの?何かあった?凄く不安そうな顔してる……」


 死にかけのレイブンを即座に放り出した黒衣の忍びは心配そうに私の顔を覗き込み、私の頬を両手で包み込む。

その眼差しが、手つきが、表情があまりにも優しくて……嗚呼、いつもの徳正さんだと心底安心した。


「徳正さん」


「ん?どうしたの?ラーちゃん」


「一つお願いしてもいいですか?」


 セレンディバイトの瞳を見つめ、不安げにそう尋ねれば────彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。


「もちろん!ラーちゃんのお願いなら、何でも聞いてあげる!」


 一瞬の躊躇いもなく、そう言い切った黒衣の忍びに迷いは一切感じられなかった。

私にだけ異常なほど甘いこの人は親指の腹で私の頬を撫でる。

それが擽ったくて……でも、嬉しくて自然と笑みが零れた。


「あのですね……レイブンを早く消して欲しいんです。ダメですか?」


「ううん!ぜ〜んぜん!直ぐに殺すね!」


 あれほどレイブンの殺し方に拘っていたというのに、徳正さんは驚くほどあっさり頷いた。

そして、床に転がるレイブンを見もせず、愛刀の妖刀マサムネで首を刎ねる。

ただでさえ瀕死状態だったレイブンは即座に光の粒子と化した。

徳正さんを別人みたいに変えてしまったフロアボスが居なくなり、ホッと胸を撫で下ろす。


「お願いを聞いて下さり、ありがとうございます、徳正さん」


「どういたしまして〜!お礼はほっぺにチューでいいよ〜」


「……徳正さん、叩きますよ」


「ちょっ!冗談だって〜!」


 胸の前で手を振り、フルフルと首を振る徳正さんは『あははは〜』と乾いた笑みを漏らす。

普段と変わらない彼の姿に溜め息を零しつつ、私は両手を広げた。

そして、ギュッと徳正さんの体に抱きつく。


 こ、今回のお願いは完全に私のワガママだし、これくらいはね!うん!


「お、お礼はこれで我慢してください!」


「えっ……?」


「と、とりあえずお礼はしましたからね!」


 呆然とした表情で固まる徳正さんから、パッと体を離し、真っ赤な頬を隠す。

フイッと視線を逸らす私の前で、黒衣の忍びはハッと正気を取り戻した。


「俺っち、今ハグされた!?ラーちゃんに!?ちょっ、もう一回お願い!!ラーちゃんの柔らかい体をギュッて抱き締めたい!!」


 ガバッと両手を広げ、徳正さんは『ラーちゃん、カモン!』と叫ぶ。

完全に不審者と化した黒衣の忍びはとにかく必死で、変態にしか見えない。

ニールさん達が『大丈夫か?こいつ』という視線を向ける中、私は徳正さんの腕をペシッと叩き落とした。


「徳正さん、次はグーですからね」


「え〜!ラーちゃんのケチ〜!」


 不満そうに口先を尖らせる徳正さんに、私はクスクスと笑みを漏らす。

いつもと変わらない日常が嬉しくて、ついつい頬が緩んだ。

ストックが無くなってしまったので、更新が不定期になります。ご了承くださいませ。

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