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第227話『ラーナの討伐方法』

「徳正さんの影魔法で一掃するか────ラルカさんのクマのぬいぐるみ軍団で返り血をカバーしつつ、一網打尽にするかですね」


 長考の末、辿り着いた結論に、徳正さんとリーダーは「なるほど(ね〜)」と呟き、ラルカさんはピシッと固まった。

その傍で、私はゴーレム討伐イベントの時の記憶を手繰り寄せる。


 影魔法は言わずもがな、無機物のクマのぬいぐるみ軍団もまた人的被害を最小限に抑えることが出来る。

ゴーレムとの戦いで活躍したあのクマのぬいぐるみは普通に強かったし、無機物なので毒も効かない。

そのため、普通に接近戦が出来るし、プレイヤーが返り血を浴びないよう、盾代わりに活用することも出来た。

クマのぬいぐるみ軍団がカエルをリンチするという、シュールな絵面が広がるものの、それ以外に問題はない。


 徳正さんの影魔法はなるべく温存しておきたいし、やっぱりクマのぬいぐるみ軍団を使うのが妥当かな。


「あの、ラルカさん。クマのぬいぐるみ軍団って、今使えま……」


『絶対に嫌だ!!断固拒否する!!あのヌメヌメベトベトのカエルと可愛いクマさんを戦わせるなんて、絶対に許さない!!』


 ホワイトボードを両手で掲げ、ブンブンと勢いよく首を横に振るラルカさんは私の提案を跳ね除けた。

クマ愛に満ち溢れたラルカさんは妥協するつもりもなさそうだ。


 ラルカさんのクマ好きは理解していたけど、まさかここまでとは……。

確かに大好きなぬいぐるみが血や粘液でベトベトになるのは嫌だけど、普通そこまで嫌がる?


「じゃ、じゃあ!クマさんにレインコートを着せるのはどうですか?それなら、汚れをある程度防げますよ」


『ダメだ。確かに汚れる場所は減るが、汚れることに変わりはないだろう』


「うっ……!それはそうですけど……洗えば、問題ありませんよ!私も手伝うので、今回は……」


『ダメなものはダメだ』


 必死に知恵を振り絞り、解決策を幾つか提示してみるものの、尽く却下されてしまう。

『今回は絶対に譲らないぞ』とでも言うように、クマの着ぐるみは終始首を横に振っていた。


 困ったな……クマのぬいぐるみ軍団が使えないとなると、徳正さんの影魔法を使うしかなくなる。でも、影魔法のクールタイム(CT)は凄く長いから、出来ることなら温存しておきたい。

ボス戦で使うならまだしも、中層魔物(モンスター)相手に使うのはあまりにも勿体ない。

もちろん、取れる手段がそれしかないなら話は別だけど……。


「ラルカさん、本当にダメですか……?」


『ダメだ』


 お願いポーズをして、クマの着ぐるみに懇願するものの、きっぱり断られてしまった。

胸の前で腕をクロスし、大きな✕マークを作るラルカさんは断固拒否の姿勢を見せる。

これでは、彼を説得するのは難しそうだ。


「はぁ……分かりました。クマのぬいぐるみ軍団の使用は見送ります。代案として、徳正さんの影魔法を使いましょう」


 やれやれとでも言うように頭を振る私はそう言って、肩を竦める。

本来であれば、ラルカさんのワガママを受け入れるべきじゃないんだろうが……説得している時間すら、今は惜しかった。

『理解してくれて、ありがとう』と歓喜するラルカさんを尻目に、私は徳正さんと向き合う。


「徳正さん、早速で申し訳ありませんが、影魔法の準備をお願いしま……」


「────いや、その必要は無さそうだよ〜」


 私の声に被せるようにそう言い放った彼は列の前方を指さす。

黒衣の忍びに促されるまま視線を前に向ければ、総指揮官のニールさんと不意に目が合った。

青髪の美丈夫はラピスラズリの瞳を細めて、不敵に笑う。


 ────言葉がなくとも、彼の言いたいことは何となく理解出来た。


 分かりました、ニールさん。

今回は『蒼天のソレーユ』の皆さんに任せます。私達は予定通り、守りに徹しますね。


 『何もしません』と言う代わりに小さく頷けば、ニールさんは満足そうに微笑んだ。

そして、精一杯声を張り上げて、こう叫ぶ。


「毒ガエルごときに遅れをとるな!我らの連携力を前に、敵う者は居ない!さあ、武器を取れ!────一心共鳴 魂のレクイエム!」


 力強い叱咤と共にニールさんの固有スキルが発動し、ブラックウルフ戦で感じときと同じ違和感が体に走った。

この場にいる皆と心が通じあったような……そんな不思議な感覚が胸に広がる。

二回目だというのに、この感覚はやはり慣れなかった。


「仲間の全てを感じ取り、把握しろ!そのための力を貴様らに授けた!さあ────反撃の時だ!」


 重そうな剣を振り上げ、ニールさんがそう叫べば、あちこちから雄叫びが上がった。

連携という点で頭一つ抜けている『蒼天のソレーユ』のメンバーはそれぞれ武器を持ち、ラーナに襲い掛かって行く。


 前衛がラーナの気を引き、魔法使いや弓使い(アーチャー)が後ろから遠距離攻撃を仕掛ける。そして、負傷した前衛メンバーを回復師(ヒーラー)がすかさず治療……どこにでもある普通の連携だが、これだけの人数がそれを完璧にこなすのは難しい。

でも、『蒼天のソレーユ』は小さなアクシデント一つなく、完璧に連携を取れている。


 ブラックウルフ戦でも思ったけど、皆の位置取りやタイミングが絶妙に噛み合っている。

皆がどこにいて、どう動いて、自分が何をすればいいのか、ちゃんと理解している感じだ。

一人一人の状況把握能力が高いからこそ、出来る技だった。


「『蒼天のソレーユ』の連携は素晴らしいの一言に尽きますね」


 実際に見るのは二回目だが、そう言わずにはいられなかった。

うちのメンバーの連携力が皆無なせいか、余計感心してしまう。

私の視線の先では完璧な連携と優れた状況把握能力で、ラーナを翻弄している攻略メンバーの姿がある。

普段は協調性もクソもないリアムさんですら、連携の和にきちんと加わっていた。


「ニールさんが『蒼天のソレーユ』のギルドマスターじゃなかったら、全力で勧誘していましたね。彼のような人がうちにも居れば……」


「ラミエルもそう思うか?」


「え〜!俺っちは嫌だよ〜!?ニールくん自身に不満はないけど、あのスキルは嫌〜!」


 『うげぇ!』と顔を顰める徳正さんに対し、リーダーは呆れたように苦笑を漏らす。

確かにこの感覚はなかなか慣れないが、ニールさんを勧誘したい気持ちに嘘はなかった。


 まあ、『蒼天のソレーユ』のギルドマスターであるニールさんがうちに来ることは絶対に有り得ないだろうし、この話は一旦置いておきましょう。

ここでああだこうだ言っても、当の本人にその気がなければ、意味は無い。


『む?毒ガエルの討伐が終わったようだぞ。連携とやらは素晴らしいな。一瞬で片付いてしまった』


 クマのぬいぐるみ軍団を使わずに済んだせいか、ラルカさんは上機嫌で列の前方を指さす。

そこでは、最後の一体と思しきラーナが光の粒子に変わっているところだった。

攻略メンバーは最後まで気を抜かず、周囲を警戒している。

そして、安全が確認されたところでみんな列に戻っていた。


 一時はどうなる事かと思ったけど、私達の出番はなかったみたい。

ニールさん率いる『蒼天のソレーユ』に任せて、正解だった。


 仲間のことを信じて任せることも重要なのだと、私はラーナ戦を通して、改めて学んだ。

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