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第226話『第二十一階層』

 ボスフロアで少し休憩を挟んだ私達は再び隊列を整え、第二十一階層まで来ていた。

他の階層と比べて、やけに湿気が多い第二十一階層には変な匂いが漂っている。

アンモニアにも似た刺激臭は私達の不快感を煽った。


 噂には聞いていたけど、酷い匂いね。鼻が曲がりそう……。


「うわぁ……何この臭い〜!鼻がもげそうなんだけど〜!」


『湿気のせいでより気持ち悪く感じるな』


「チッ!だから、この階層には来たくなかったんだ」


 それぞれ愚痴を零す男性陣は服の袖やハンカチで鼻を覆っている。

リーダーは第二十一階層に何度か来たことがあるらしく、思い切り眉を顰めていた。


 臭いと分かっていても、この刺激臭には慣れようがないもんね……。


「とりあえず、臭いの発生源(・・・・・・)を潰しましょう。この臭いには微細な毒が含まれていますから」


 そう言って、私は壁や天井に張り付いている────カエルを指さした。

大型犬ほどの大きさがあるそのカエルは鳴囊(めいのう)と呼ばれる袋を膨らませ、ゲコゲコ鳴いている。

鮮やかな緑色を纏うあのカエルこそ────第二十一階層の中層魔物(モンスター)である、ラーナだった。


 ラーナは『カエルの王様』に出てくるカエルをモデルにした魔物(モンスター)で、全ての体液に毒が含まれている。

汗や唾液はもちろん、体を覆う粘液まで……。

また、その体液が発する臭いにも毒があり、体を麻痺させる効果があった。

と言っても、その効果は微々たるもので、多少手足がピリッとするだけだけど……。それに毒が回るまでに少し時間が掛かるため、そこまで気にする必要はなかった。


 でも、それはあくまで体液から発する毒ガスだけ。

毒の根源とも言える体液には強力な毒が含まれており、肌に触れるだけで中毒症状が出る。

症状は主に嘔吐、吐血、目眩の三つ。直ぐに処置すれば問題ないが、放っておくと命の危険もあった。


 ラーナの主な攻撃手段は毒噴射と物理攻撃。

長い舌を自在に操るラーナは中距離戦闘向きの魔物(モンスター)で、壁や天井に張り付けることから機動性にも長けている。

奴の得意分野に持ち込まれると、少々厄介だった。


 でも、一番厄介なのは────。


「うわっ!?血が……!!」


「Oh……これじゃあ、倒しても意味が無いね」


「だから、接近戦はダメだって言ったじゃねぇーか!」


 言い争う声に釣られるまま、視線をそちらへ向ければ、返り血(・・・)を浴びたセトとリアムさんの姿が目に入った。

どうやら、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーは愚かにもラーナに接近戦を挑んだらしい。


 戦いの末、勝利を掴んだはいいが、ラーナの返り血を浴びてしまった……ってところかな?


 ラーナの毒は文字通り、全ての体液に含まれているため、返り血を浴びるのは絶対NGだ。

それでは、せっかく倒したのに意味が無い……最悪の場合、相討ちになってしまう。

これがラーナの最も恐ろしいところであり、一番厄介なところだ。


 見たところ、セト達以外のメンバーも同じ被害に遭っているようね。

このままじゃ、戦線が崩壊しかねない……。


「仕方ありませんね。一旦状況を立て直しましょう────《キュア・リンク》」


 トンッと杖の先を地面につけた私は毒の効果を打ち消すため、状態異常に対する回復魔法を展開させた。

広範囲に渡る回復魔法は当然ながら魔力(MP)消費も激しく……秒単位で魔力(MP)がゴリゴリと減っていく。

自身のステータス画面を見ながら、『思ったより、毒状態になったプレイヤーが多いですね』と呟いた。


「ラーちゃん、大丈夫〜?」


 手裏剣を投げつけて、ラーナを牽制していた徳正さんは不意にこちらを振り返る。

手裏剣を投げる手は止まっていないものの、私を心配そうに見つめる目が『戦いに集中出来ない』と語っていた。


 気配探知に優れた徳正さんに限って、隙を突かれるなんてことはないと思うけど……戦いには集中して欲しい。


「範囲魔法を使って、ちょっと疲れただけなので大丈夫です。ご心配をおかけして、申し訳ありません」


「ううん、気にしないで〜。俺っちが勝手に心配しているだけだから〜。それより、ラーちゃんは休んでてよ〜」


「いえ、そういう訳にはいきません。回復師(ヒーラー)として、きちんと役目を果たさなくては……」


 中層魔物(モンスター)の駆除は『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーに頼む手筈になっているけど、この状況で気を抜く訳にはいかない。

ただでさえ、回復師(ヒーラー)の数が少ないのに、私が休んだりしたら大変なことになる。

毒に対抗出来るのは私たち回復師(ヒーラー)だけなんだから。


 職業別ランキング一位としての意地がある私はきちんと前を見据える。

戦況を見守る私の前で、徳正さんは『ラーちゃんは頭が固いな〜』と愚痴を漏らした。


「まあ、ラーちゃんがそう言うなら、俺っちは何も言わないよ。でも、絶対に無理はしないでね」


「はい、分かりました」


 無理をしてもいいことは無いと分かっているので、ここは素直に頷いた。


 回復の要である私が倒れたら、それこそ戦線が崩壊してしまう。

自意識過剰かもしれないが、このサウスダンジョン攻略チームは私が居ないと成り立たない。

だからこそ、無理をするつもりは微塵もなかった。


「そんなことより、ラーナ達をどうにかしないといけませんね。中層魔物(モンスター)の駆除は私達の仕事ではありませんが、このまま静観するのが最善とは思えません」


 右へ左へ視線を動かす私は攻略メンバーの不安そうな様子にスッと目を細めた。

魔法や狙撃といった攻撃手段を用いて戦っているものの、うっかり体液に触れてしまう人が後を絶たない。

特に天井に張り付いているラーナを倒した時に、誰かしら返り血を浴びている。


 位置的にどうしてもそうなっちゃうんだろうね。どんなに気をつけていても、こればっかりはしょうがない。

だけど────こうも毎回体液に触れられると、状態回復が間に合わない。私の魔力(MP)だって、無限にあるわけじゃないし……。


「そんなに心配なら、俺っちがパパッと倒してこようか〜?俺っちなら、体液に触れる心配もないし〜!なんたって、俺っちは“影の疾走者”だからね〜!」


 ふふん!と得意げに胸を逸らす徳正さんは誇らしげな表情を浮かべている。

スピードに絶対的自信を持つ彼のことは信用しているし、実力も把握しているが……。


「それはあまりいい解決方法とは言えません。徳正さんが返り血を浴びる可能性はなくても、他の人が返り血を浴びる可能性はありますから」


「あっ!それは確かに〜」


 『盲点だった』と言わんばかりに、徳正さんはポンッと手を叩く。

そして、『見せ場なしか〜』と残念そうに肩を落とした。


 徳正さんが口にした解決方法は一応、最終手段として考えている。

徳正さんがラーナを全て瞬殺し、私が直ぐに範囲回復を掛ければ、被害はプラマイゼロになるから。でも、この方法が絶対安全とは言い切れないし、他のメンバーに少なからず迷惑が掛かるから、あまり使いたくない。


 となると、方法は二つに絞られる。


「徳正さんの影魔法で一掃するか────ラルカさんのクマのぬいぐるみ軍団で返り血をカバーしつつ、一網打尽にするかですね」

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