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第213話『第六階層』

 それから、第二階層〜第五階層(上層)を一気に駆け抜けた私達は第六階層(中層)に足を踏み入れていた。

ここから一気に魔物(モンスター)のレベルが上がるため、より一層気を引き締めなければならない。


 特にサウスダンジョンは他のダンジョンと違い、特殊な設定を盛り込まれているため、油断ならなかった。

その特殊な設定とは────中層魔物(モンスター)やフロアボスに童話要素が注ぎ込まれていること。

そのため、サウスダンジョンは別名童話(メルヘン)ダンジョンと呼ばれていた。


「ラルカさんとリーダーは前へ。徳正さんは後ろを警戒してください。くれぐれも持ち場から離れないようにお願いします」


 第六階層の魔物(モンスター)と向かい合う我々『虐殺の紅月』は陣形を整える。

私を囲むように並ぶ彼らはそれぞれ武器を構えた。


 今、私達の目の前に居る魔物(モンスター)は赤ずきんちゃんの童話に出てくる狼だ。

ブラックウルフと呼ばれる彼らは物理攻撃と素早さに特化していて、連携も素晴らしい。

ただ魔法攻撃に耐性がないため、きちんと的を捉えることさえ出来れば、簡単に倒せることが出来た。

ちなみに急所はお腹だ。


 まあ、うちのメンバーなら、物理攻撃でも簡単に倒せるだろうけど……だって、攻撃力(ATK)が一般プレイヤーの数十倍はあるんだから。


「素早さに特化した魔物(モンスター)だって聞いたから、ちょっと期待したけど、そこまで速くないね〜。期待外れだよ〜。ざんね〜ん」


『素早さの定義を今一度考え直すべきだな』


「お前らの基準で考えるな。一般プレイヤーからすれば、あれでも十分速い筈だ」


 ブラックウルフの俊敏さに難癖をつける黒衣の忍びとクマの着ぐるみに、リーダーは呆れたように溜め息を零した。

それに釣られるように、私も思わず苦笑を浮かべる。

 ────すると、自分達が馬鹿にされていると本能的に悟ったのか、数匹のブラックウルフが『グルルル』と低く唸った。

そして、愚かにも私達に飛びかかってくる。


 何もしなければ、もう少し長生き出来たのに……ご愁傷さま。


「も〜!だから、遅いって〜!俺っちに勝ちたいなら、もっと頑張りなよ〜」


『狼は集団の狩りが得意だと聞いたが……口ほどにもなかったな』


「まあ、所詮は魔物(モンスター)だからな」


 向かってきたブラックウルフ数体を流れるような動作で切り伏せた三人は息一つ乱れていない。

楽勝だと言わんばかりに余裕の態度を見せる。

 かくいう私も焦ることなく、冷静にブラックウルフの最期を見届けていた。


 やっぱり、中層魔物(モンスター)程度じゃ、うちのメンバーには歯が立たないか。

ブラックウルフの連携がどんなに完璧でも、圧倒的強さの前では無意味……でも────。


「────『蒼天のソレーユ』の皆さんは大分苦戦しているようですね」


 前を歩くラルカさんとリーダーの間から、ひょっこと顔を出し、私は前方の様子を伺う。

ブラックウルフの俊敏さと見事な連携に翻弄される『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーは奴らに取り囲まれていた。


 今のところ大きな被害はないけど、このままだと取り返しのつかないことになるかもしれない……。

それにブラックウルフの動きが妙に気になる……せっかく包囲したのに一斉攻撃を仕掛けず、ちょっかいを掛けるだけなんて……。


「……もしかして、『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーを分断させようとしている……?」


 口をついて出た言葉に、リーダーがピクッと反応を示した。

そして、ブラックウルフの動きを注意深く窺う。


「……その可能性は否定出来ないな」


 クッと眉間に皺を寄せた銀髪の美丈夫は私と徳正さんに目を向けた。


「ここは俺とラルカが引き受ける。だから、お前達はニールにこのことを伝えてこい。ついでにブラックウルフを何匹か蹴散らして来てくれ」


「わ、分かりました」


「おっけ〜」


 伝令役を任された私達は不要なものをアイテムボックスの中に仕舞い、向かい合う。

徳正さんは慣れた様子で私をお姫様抱っこすると、トンッと軽く地面を蹴り上げた。

すると、ふわっと体が宙に浮き、攻略メンバーの頭上を飛び越えていく。


 あっ、ブラックウルフがこっちに気づいた。めっちゃ吠えてる。


 空中で無防備な状態になった私達を見て、ブラックウルフは────これ幸いと攻撃を仕掛けてきた。

三体のブラックウルフが物凄いジャンプ力で、こちらに真っ直ぐ飛んでくる。

 普通なら、ここで『キャー!』とか『うわぁ!』とか言うべきなんだろうが……最強の忍者に守られている私は黙って彼らを見下ろした。


 連携は素晴らしいのに、学習能力のない駄犬(・・)たちだ。

圧倒的強者にも物怖じせず向かってくるその勇気だけは褒めてあげるよ。


「行儀よく『待て』も出来ないなんて、シムナ以下じゃん〜。どれだけ早死したいのさ〜」


 徳正さんは呆れたように溜め息を零すと、空中で少し腰を捻り─────向かってくるブラックウルフに強烈な蹴りをお見舞した。

徳正さんの蹴りをまともに食らったブラックウルフは仲間を巻き込んで、地面に激突する。

受け身すら取れずに落下した三体のブラックウルフはそのまま光の粒子と化し、消えていった。


 私を抱っこしているから、敢えて足を使ったんでしょうが……蹴り一つでこの威力はさすがに恐ろしいですね。


 改めて徳正さんの強さに感心していれば、彼は列の先頭に立つニールさんの隣に見事着地した。

ブラックウルフとの睨み合いが続いていた青髪の美丈夫は私達の登場に目を剥く。

動揺する彼を尻目に、私は徳正さんの腕からそっと下りた。


「ニールさん、ブラックウルフは攻略メンバーを分断させようとしているかもしれません。まだ可能性の段階ですが、一斉攻撃を仕掛けて来ない理由の裏付けにはなるかと」


「なんだと……!?」


 手短に報告を済ませると、青髪の美丈夫は瑠璃色の瞳を大きく見開いた。

かと思えば、難しい表情を浮かべ、黙り込む。

その横顔には焦りが見えるものの、恐怖や不安といった感情は感じられなかった。


 冷静さをかいているようには見えないけど……ニールさんは一体何を考えているのだろう?


「……出し惜しみをしている場合ではないか」


 ニールさんは誰に言うでもなくそう呟くと、キリッとした表情で前を見すえた。

そして、迷いが吹っ切れたようにカチャッと眼鏡を押し上げる。


「スキル発動────一心共鳴 魂のレクイエム」


 耳馴染みのない言葉が鼓膜を揺らしたかと思えば、胸に不思議な感覚が走った。

見えない透明な糸に心臓を……いや、()を結ばれているような感覚。

でも、不思議と嫌悪感はなくて……ただただ違和感が凄いだけ。


 何だろう?この感じ……。

この場にいる皆と心が通じ合ったような……そんな錯覚がする。

実際、皆が何を考えているのかなんて分からないけど……。

 もしかして、これが────ニールさんの職業スキル?


「さあ、私達の連携力を見せる時が来た────生意気な狼たちを片っ端から蹴散らせ!」

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