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第20話『No.4』

 それから、三日ほど経ったある日のこと────No.4さんから、連絡が入った。

なんでも、今日の夜にはリユニオンタウンに到着するらしい。

それで、お出迎え……というか、宿屋への道案内をお願いしたいんだとか。


「ねぇねぇ、No.4のお出迎えどうする〜?俺っちが行ってこようか〜?人混み、結構酷いし〜」


 No.4さんからのメッセージを読み終えるなり、旅館の浴衣に着替えた徳正さんはそう提案してきた。


 確かにお出迎えに一番最適なのは徳正さんだけど、最近ずっと頼りっぱなしだからなぁ……。

出来れば、こちらで引き受けたい……けど、すぐ迷子になる私やアラクネさんがお出迎えに行っても意味ないし……あっ!そうだ!


「ここは皆仲良く一緒に行きましょう!」


 徳正さんの負担を減らすことは出来ないが、皆で出迎えに行けば誰かに負担が偏ることはない。

実質的な解決にはならないが、気持ち的な問題としては大分改善されたように思える。


 それにここ三日間、旅館にこもりきりで気が滅入りそうだったし……たまには、外の空気を吸いたい。


 そんな私の心情を察したのか、徳正さんは二つ返事でOKを出した。


「うん、良いね〜。それで行こう〜。No.4と合流したあと、外食するのもありだし〜」


「い、いいいいい、良いですね!外食!」


「そうですね。たまには外食も良いかもしれません」


 こんな状況下で外食なんて呑気かもしれないが、変に警戒したり思い詰めたりしてもしょうがない。

何より、こういう息抜きは意外と大切だ。

もちろん、長旅に疲れ果てたNo.4さんからOKを貰えたらの話だが。


「んじゃ、まあ……とりあえず────待ち合わせ場所へゴー!」


 徳正さんの出発宣言と共に、私達はそれぞれ立ち上がった。


◇◆◇◆


 それから、私達は特にトラブルもなく待ち合わせ場所である門の前まで来ていた。

ここなら人の少なく、迷子になる心配がないから。


 No.4さんの話だと、もうすぐ到着するらしいけど……って、ん?あれ、何?


 かなり遠くの方から、猛スピードでこちらに近付いてくる何か……いや、クマの着ぐるみ。背中に背負った……って、鎌!?

死神が持ってそうな武器を前に、私は戦々恐々とするものの……徳正さんとアラクネさんは、シレッとしている。


「おー……来た来た〜」


「あ、ああああああ、相変わらず凄い爆走ですね!」


 いや、待って!『相変わらず凄い爆走ですね』って、注目すべきはそこじゃないでしょ!


 『もっと他に突っ込むべきところがある筈!』と思いながら、私は何とか状況を整理する。

恐らく二人の反応から、あの異様な存在感を放つクマの着ぐるみがNo.4さんであることは確かだ。

実は違う人でした、というオチはないだろう。

いや、個人的にはそうであってほしいが……。

蜘蛛の次はクマなんて、振り幅が広すぎて困る。

『一体、どうリアクションすればいいんだ……』と頭を抱える中、突然目の前に砂埃が巻き起こった。


 うわっ……!?


「コホコホッ……」


「あっ、ラーちゃん大丈夫〜?」


「は、はい……それより、一体何が……」


 砂埃に喉と目をやられ、苦しむ私は横から差し出されたクマのハンカチを受け取る。

てっきり、アラクネさんのものかと思って……。


「コホコホッ……ありがとうございます」


 ほんのりフローラルの香りがする清潔なハンカチで目元を拭き取り、砂を払う。


 あっ、ちょっと目が痛い……目薬あるかな?アラクネさんに聞いて……あっ、目薬。


 タイミングを見計らったように差し出された目薬を、私は『ありがとうございます』と言って受け取る。

そして、目薬を差そうと顔を上げた瞬間────クマの着ぐるみが視界に映った。


「あっ、え……?あれっ……?」


「あははははっ!ラーちゃん、その表情(かお)最っ高〜!」


「あ、あの……えっと……」


 私の間抜け面に、爆笑し始めた徳正さんとオロオロするアラクネさん。

極めつけはクマの着ぐるみが持つホワイトボードだ。

だって、そこにはハッキリと────『良かったら、目薬を差すぞ』と書かれていた。


 えっ?あれ?もしかして、私にハンカチや目薬を差し出してくれたのはアラクネさんじゃなくて、No.4さん……!?

えっ!?嘘でしょ!?そんなことある!?


 ポカーンと口を開ける私を前に、クマの着ぐるみ……じゃなくて、No.4さんはホワイトボードにまた何か書き込む。


『僕が君の前で急ブレーキをかけたせいで砂埃が舞い、目や喉を痛めてしまった。申し訳ない』


「え?あ、いえ……お気になさらず」


 凄くふざけた格好をしている割に、口調はきちんとしている。

言葉遣いも丁寧だし、素直に自分の非を認めて謝るあたり好感が持てた。


 だけど、ちょっと待って……!?何で着ぐるみなの!?しかも、全然喋んないし!

もしかして、そういうキャラ!?


 『これじゃあ、性別も分からないよ!?』とオロオロする私に、No.4さんは手持ちサイズのホワイトボードを見せる。

どうやら、また何か書き込んだらしい。


『僕はラルカ。周りの連中には“斬殺の死神”なんて呼ばれているが、仲間は襲わないから安心して欲しい。君はNo.7で合っているか?』


「あ、はい。ラミエルと言います。ラルカさん、これからよろしくお願い致します」


『こちらこそ、よろしく頼む』


 No.4さん────改め、ラルカさんは着ぐるみの手をスッと差し出してくる。

恐らく、『よろしく』という意味を込めて握手を交わしたいのだろう。

有り合わせの布で作られたような見た目のクマの着ぐるみはボロボロで布のほつれが激しいが、不思議と汚いとは思わなかった。

『なんだか不思議な魅力のある人だな』と思いつつ、握手を交わす。

ぬいぐるみのように柔らかい手は、触り心地が良かった。


「さてさて〜、そろそろ移動を開始しよっか〜。あっ、ラルカ。旅館へ行く前に、外食して行っても大丈夫〜?」


『問題ない』


「おっけ〜!んじゃ、久々に外食だー!」


 ピョーンとその場でジャンプして、徳正さんは喜びを露わにする。

子供のようにはしゃぐ彼を尻目に、私はラルカさんに目薬を返した。

『ハンカチは洗ってから、返そう』と考えながら、一先ずポケットに仕舞う。

その(かん)、彼らはどこの店に行くか話し合っていた。

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