第206話『予想外の再会』
────翌日。
ダンジョン攻略に参加することになった私、リーダー、徳正さん、ラルカさんの四人は顔合わせのため、『蒼天のソレーユ』の本拠地まで来ていた。
案内された待合室にて羽を伸ばし、約束の時間を待つ。
時刻は十時四十七分か……顔合わせという名の昼食会まで、まだまだ時間があるな。
時間に厳しい『蒼天のソレーユ』ギルドマスターのニールさんを怒らせてはいけない、と思って早めに出発したけど……リーダー達の移動速度が速すぎて、予定より早く着いてしまった。
「いやぁ、暇だね〜。ここって、娯楽とかないの〜?」
『娯楽か……この世界自体がゲームだから、ないんじゃないか?』
「え〜!暇すぎて、死にそうなんだけど〜!」
『まあ、そう言うな。ほら、このクッキー美味しいぞ』
「いや、別にクッキーとか興味な……んぐっ!?」
ラルカさんに無理やりクッキーをねじ込まれ、徳正さんは一瞬涙目になる。
『んー!』とくぐもった声で何か叫び、何とかクッキーを飲み込むと、急いでティーカップに手を伸ばした。
「ちょ、俺っちのこと殺す気〜!?そんな大きいクッキー、一口で食べられる訳ないじゃ〜ん!」
『僕は問題なく食べられたぞ?』
「え?ラルカの口、大きすぎな〜い!?」
紅茶を飲んでお口直しをする徳正さんは、一人でバクバクとクッキーを食べるラルカさんに冷ややかな目を向ける。
が、ラルカさんはそんなのお構い無しで用意されたクッキーをあっという間に平らげてしまった。
そして、汚れた口元をパーフェクトクリーンで綺麗にする。
何か食べる度にパーフェクトクリーンを使うくらいだったら、着ぐるみを脱げば良いのに……まあ、着ぐるみが本体だと言い張るラルカさんは、絶対にそんなことしないだろうけど。
もはや存在自体がネタとしか思えないクマの着ぐるみを尻目に、私は紅茶を頂く。
────と、ここで突然部屋の扉を開け放たれた。
「────やあ!久しぶりだね!『虐殺の紅月』の皆!」
「ちょっ、リアム!勝手に扉を開けるな!」
ノックもなしに扉の向こうから現れたのは、白髪アシメの美男子と茶髪の美丈夫だった。
巨大ゴーレム討伐イベントでお世話になった……いや、お世話した(?)二人の美青年の姿に、私は頬を緩める。
リアムさんとレオンさんは良くも悪くも、以前と全然変わらないね。
「お久しぶりです、リアムさん、レオンさん。お元気そうで何よりです」
「猛獣使いの姫君も、思いのほか元気そうで安心したよ。イーストダンジョン攻略で倒れたと聞いた時は、驚いたからね」
「いや、お前はそれよりも先に言うことがあるだろ!勝手に入ってきてわりぃな、ラミエル……それに他の奴らも。こいつには後できっちり言い聞かせておく」
マイペースなリアムさんに代わり、謝罪を口にするレオンさんは部下の頭を掴むと無理やり頭を下げさせた。
力任せなレオンさんの対応に慣れているのか、白髪アシメの美男子は『はっはっはっはっ!』と楽しげに笑う。
反省もクソもないリアムさんの態度に、私達は苦笑を浮かべるしかなかった。
なんか、この光景……妙に既視感を感じるなぁ。確か、前にもこんなことあったよね?
「いえいえ、大丈夫ですよ。別に気にしていないので……それより、お二人もサウスダンジョン攻略チームに加わることになったんですか?私はてっきり、ウエストダンジョン攻略チームに入るのかと……」
だって、リアムさんもレオンさんも『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーだし。
ヘスティアさんがウエストダンジョン攻略の指揮を執るなら、ギルドメンバーの彼らもそっちのチームに入る筈でしょう?
なのに、何故こっちに?
「サウスダンジョン攻略チームの火力が足りないから、こっちに派遣されてきたんだ。『蒼天のソレーユ』はウチと違って、バランスタイプのギルドだからな。他にも、何人かこっちに来ている筈だぞ」
「でも、『虐殺の紅月』のメンバーが四人も居るなら、必要なかったかもしれないね☆」
「なるほど、火力補充のために……ん?ということは、ニールさんがリーダーに参加をお願いした理由って……」
私はゆっくりと後ろを振り返り、ソファで寛ぐ銀髪の美丈夫へ目を向ける。
すると、こちらの視線に気づいたリーダーが身を起こした。
「俺がニールに参加をお願いされた理由は、そいつらと同じだ。火力が足りないから力を貸してくれ、ってな」
「やはり、そうでしたか」
予想通りの返答に、私は納得したように頷いた。
同盟内で『虐殺の紅月』の株が上がって来ているとはいえ、新参者のニールさんがリーダーに参加をお願いするなんておかしいと思ったんだよ。
何も知らないニールさんからすれば、私達は危険人物でしかないからね。
と、一人考え込んでいると────開いたままの扉から、紺髪の美丈夫が駆け込んできた。
『はぁはぁ』と肩で息をする彼には、見覚えがある。
だって、彼は……。
「ちょっ、レオンさん、リアムさん!置いて行かないでくださいよ!俺がどれだけ探し回ったと思って……」
「────あれれ〜?誰かと思えば、恩知らずのセトくんじゃ〜ん。久しぶりだね〜?」
「!?」
皮肉めいた言い回しで挨拶をする徳正さんに、紺髪の美丈夫────改め、セトはこれでもかってくらい目を剥く。
あちらもまさか、私達『虐殺の紅月』がサウスダンジョン攻略に参加するとは思わなかったのだろう。
『紅蓮の夜叉』の派遣メンバーにセトも混ざっていたとは……これはちょっと予想外だなぁ。
まあ、いつかは再会するだろうと思っていたけど……でも、それにしたってタイミングが悪すぎる。神様は本当に意地悪だ。
ピリピリとした空気がこの場を支配する中、徳正さんとラルカさんは席を立つ。
そして、私を庇うように前へ出た。
『どの面下げて、ラミエルに会いに来た?殺人未遂の罪人よ』
「……」
「都合の悪いことには答えられないってことか〜。セトくんは本当に卑怯だね〜。ラーちゃんを突き飛ばした時だって、後ろからだったし〜?」
「っ……!!」
声にならない声を上げるセトは、苦虫を噛み潰したような顔で俯いた。
その子供っぽい反応に、徳正さんとラルカさんは失笑してしまう。
早くも雲行きが怪しくなってきた再会に、私は『はぁ……』と溜め息を零した。
────と、ここでずっと傍観していたリアムさんとレオンさんが口を挟む。
「いまいち状況が掴めないんだが……セトがお前達に何かしたのか?ラミエルを後ろから突き飛ばしたとか、言っていたけど……」
「殺人未遂の罪人とも言っていたね☆本当に何があったんだい?」
不思議そうに首を傾げるリアムさんとレオンさんに、私は返答を躊躇う。
あまり仲間割れに繋がりそうなことは、したくないんだけど……『殺人未遂の罪人』とか言っている時点で、もう手遅れか。
今、出来るのはあらぬ誤解を生まないよう正直に話すことだけ。
「分かりました。全てお話します。実は以前、ウエストダンジョンでセトと会った時────」




