第204話『全ダンジョン攻略クエストのクリア条件《アヤ side》』
「ほんじゃ、三つ目……最後の報告や。これはワイらもイーストダンジョンを攻略した直後に知ったことなんやけどな、どうやら全ダンジョン攻略クエストには────制限時間があるらしいねん」
驚きの新事実を明かすと、同盟メンバーは互いに顔を見合わせた。
『俺の聞き間違いか?』『いや、俺も聞いた』と確認を取り合い、愕然とする。
そんな彼らを前に、ファルコさんは苦笑を浮かべた。
「いきなり、こんなこと言われてみんな混乱してると思うし、一から説明するわ。あれはダンジョンボスのバハムートを討伐した後のことや────」
◇◆◇◆
────今からちょうど一週間前の午後。
バハムートを見事討伐し、外で待機しているメンバーを呼びに行こうと動いたところでソレは起こった。
『────イーストダンジョンを攻略した偉大なる者達に告ぐ。今から一ヶ月以内に残りのダンジョンを攻略せよ』
何の前触れもなく無機質な声が脳内に響き、私達は顔を見合わせる。
と同時に、足を止めた。
「ねぇーねぇー!それって、どういうことー?何で一ヶ月以内に残りのダンジョンを攻略しないといけないのー?もし、その期限を過ぎたらどうなる訳ー?」
『期限内に残りのダンジョンを攻略出来なければ、振り出しに戻ることになる』
「振り出しって、何のー?」
『全ダンジョン攻略クエストの、だ』
えっ?それって、つまり……
「一ヶ月以内に全てのダンジョンをクリアすることが、全ダンジョン攻略クエストの達成条件ってことですか……?」
『その通りだ』
「えっと……じゃあ、その条件が満たせなければダンジョンボス討伐で得られたアイテムは消えてしまうんでしょうか……?」
『各ダンジョンで得られたアイテムが消えることはない。が、その条件を達成出来なければ全ダンジョン攻略クエストのクリア報酬は得られない』
なるほど……これはなかなか厄介な条件です。
ただでさえ、ダンジョン攻略はかなり難易度が高いのに……時間制限なんて。
一気に跳ね上がったクエストの難易度に、私は歯軋りする。
でも、そんなことをしても現状は変わらない……。
『して、質問は以上で構わないか?』
「……はい、質問は以上です」
『そうか。では、イーストダンジョンを見事攻略した偉大なる者達よ、そなたらが全ダンジョン攻略クエストをクリアすることを心から祈っている。そなたらの未来に栄光あれ』
その言葉を最後に、無機質な声はプツリと切れた。
◇◆◇◆
「────っちゅー訳や。あれは明らかに機械音声やったし、ゲームの管理AIで間違いないと思う。やから、この話に信憑性は充分あると思うんや」
出来るだけ分かりやすく当時の状況を話すと、同盟メンバーはざわつき始める。
焦りと不安でいっぱいなのだろう。
見るからに余裕がなかった。
「一ヶ月以内に全てのダンジョンを攻略するなんて、無理だろ……」
「でも、このデスゲームから抜け出すにはやるしかない……」
「ああ、そうだな……でも、この短期間でどうやって……?物資も人数も心許ない状況なんだぞ?」
「イーストダンジョン攻略から、既に一週間が経過している今、あまり時間は残されていないわ。出来るだけ早く動き出さないと、振り出しに戻っちゃうわよ?」
残り二十三日という事実を前に、同盟メンバーは戦々恐々としている。
『本当にゲームクリアなんて出来るのか』と不安がる彼らの前で、私はキュッと唇に力を入れた。
「ヘスティアさん、その……」
「大丈夫だ。ちゃんと分かっている」
ヘスティアさんは前を見据えたまま小さく頷くと、ああでもないこうでもないと話し続けるメンバー一人一人を見つめていった。
すると、彼らは次々と口を閉ざしていく……。
間もなくして、この場に沈黙が流れた。
「では、話を戻そう。ファルコ、まだ報告はあるか?」
「いや、これでもう全部やで。報告は以上や」
「そうか。では、席に座ってくれ。報告ご苦労だった」
「おう」
促されるまま椅子に腰を下ろし、ファルコさんは背筋を伸ばす。
────と、ここでヘスティアさんが身を乗り出した。
「ファルコからの報告にもあった通り、我々にはもう時間が残されていない。もちろん、振り出しに戻って全ダンジョン攻略クエストを一からやる方法もあるが、それはかなりの危険が伴うだろう。これについて、異論のある奴は居るか?」
ヘスティアさんの問い掛けに、誰もが固く口を閉ざし、フルフルと首を横に振る。
さすがの彼らも全ダンジョン攻略クエストをまた一から始めるのは、無理だと悟っているのだろう。
振り出しに戻るメリットより、デメリットの方が明らかに大きいですからね。
このまま突き進むしかないでしょう。
「全ダンジョン攻略クエストを期間内にクリアするためには、リスクを承知で無理をする必要がある。だから、私はここに────ウエストダンジョン・サウスダンジョンの同時攻略を提案する!」
「「「!?」」」
ハッとしたように息を呑む同盟メンバーは、これでもかというほど動揺を露わにした。
あの無名さんですら、目を見開いて固まっている。
「私の考えはこうだ。ウエストダンジョンとサウスダンジョンを同時攻略し、双方の余った……いや、ダンジョン攻略を終えても尚元気なメンバーを集め、残りのノースダンジョン攻略に向かう。滅茶苦茶な作戦であるのは百も承知だが、今回からはニールや『蒼天のソレーユ』も同盟に参加するのだ。全く勝算がない訳じゃない」
「……確かにニールさん達『蒼天のソレーユ』が居れば、多少攻略も楽になるでしょうが……」
「あまりにもリスクが高すぎる気が……」
「でも、一つずつチマチマ攻略している時間はないぞ……?」
さすがに諸手を挙げて賛成は出来ないのか、彼らは渋るような動作を見せる。
が、決して頭ごなしに反対してくることはなかった。
まあ、この決断は正直躊躇いますよね……下手したら、同盟メンバー全滅なんてことも有り得ますから。
でも────ヘスティアさんが何の考えもなしにこんな提案をすると思いますか?
「お前達の不安も分かる。だが、安心してほしい。ウエストダンジョンとサウスダンジョンの攻略には────私とニールがそれぞれ総指揮官として参加する手筈だ。さすがに被害0でダンジョンを攻略することは出来ないだろうが、成功率はかなり上がるだろう」
「「「!!」」」
最も信頼している二人の指導者が矢面に立つと聞き、同盟メンバーは迷いを消した。
まだ不安そうではあるものの、各々覚悟を決めていく。
「そういう事なら、俺達は賛成だ」
「少しでも勝算があるなら、やってみるべきだろう」
「ヘスティアさんとニールさんがダンジョン攻略に加わるなら、安心ね!」
満場一致とまではいかないが、同盟メンバーの半数以上が賛成意見を述べる。
────こうして、私達同盟メンバーはウエストダンジョン・サウスダンジョンの同時攻略に踏み切った。




