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第199話『ダンジョンボス攻略完了《アヤ side》』

 左目を金色に輝かせる青髪の美少年はバハムートをじっと見つめ、ただ一言『臆病だね』と呟く。

そして、バハムートの危機感を煽るように高速移動を始めた。


 す、凄い……!なんてスピードなの……!?

目で追えないどころか、彼の姿を目視することすら出来ない!!


 あちこちから巻き起こる風を前に、私は目を白黒させる。

その間、前後左右あらゆるところから発砲音が聞こえ……次の瞬間には、何かを弾く音が木霊する。

どうやら、私達の知らない……というか見えないところで、バハムートと攻防戦を繰り広げているようだ。


「チート並みのスピードを出すシムナも凄いけど、あいつの銃撃を間一髪のところで防ぎ切るバハムートも相当やな……ワイだったら、絶対に無理や」


「確かにバハムートの危機感知能力と脊髄反射は素晴らしいですが、こんな無茶苦茶な攻防戦そう長くは続きません……必ず、どこかで綻びが出ます」


「バハムートの野生の勘と集中力がどこまで続くのか、見物なのです〜」


 そう言って不敵に笑うアスタルテさんは、気絶するラミエルさんの頬をそっと撫でた。

依然として目覚めない彼女を心配しているのだろう。

そっと眉尻を下げるアスタルテさんの前で、私は静かに結界を展開した。

────少しでも風や寒さを凌げれば、と思って。


「ラミエルさん、早く目を覚ましてください。貴方が居ないと、私達は……」


 意味がないと分かりつつも、私は眠っているラミエルさんに話し掛ける。

が、突如巻き起こった爆発により言葉を遮られた。


「あははははっ!ロケットランチャーって、意外と威力あるんだねー!さあ、じゃんじゃん行くよー!」


 爆煙の中から出てきたシムナさんは、ニッコニコの笑顔でロケットランチャーを構える。

どうやら、先程の爆発は彼のせいらしい。


「はい、二発目ーーーー!」


 元気よくそう叫び、シムナさんはロケットランチャーをバハムートに撃ち込む。

その刹那、『ぐぁぁぁあああ!!』という呻き声が煙の中から聞こえてきた。


『っ……!!なんて威力だ……!!』


「あはははっ!これくらいで、怖気づかないでよー?ロケットランチャーはまだあと一発あるんだからさー!」


『な、なんだと……!?』


 声色に焦りと不安を滲ませるバハムートに、シムナさんは『ちょっと待っていてねー』と声を掛ける。

そして、アイテムボックスからロケットランチャーを取り出すと、肩に乗せた。


「はい、ラストーーーー!!」


 陽気な掛け声と共に、シムナさんはロケットランチャーを放つ。

バハムート目掛け、真っ直ぐ飛んでいくソレは奴の前足に直撃した。

その瞬間────パリンッ!と音を立てて、鱗が剥がれ落ちていく。

また、痛みのせいか威力のせいか……バハムートは空中でバランスを崩した。

地面へ落ちていくドラゴンを前に、シムナさんはニッコリ微笑む。


「はい、僕の勝ちー!」


 “狂笑の悪魔”は勝利宣言と共に、銃を二発撃った。

その二つの弾丸は正確に……そして、完璧にバハムートの眼球に命中する。

一気に両目を潰されたバハムートは、恐怖と痛みに喘ぐしかなかった。


「ヴィエラー!後は任せたよー!」


「ええ、分かったわ!────スキル《魔力無限》発動!」


 限界突破(オーバーライン)で取得したと思われるレアスキルを発動し、ヴィエラさんは杖を構えた。

と同時に、バハムートは何とか着地する。


「ここからは私のターンよ!────永遠の寒さと孤独に身を委ねよ!《コーキュートス》!」


 半ば叫ぶようにして呪文を唱えると、バハムートの足元に銀色の魔法陣が浮かび上がる。

だが、しかし……優秀な危機感知能力を持つバハムートは、発動前に上空へ逃げてしまった。

無様に悪足掻きをするバハムートの前で、茶髪の美女はクスリと笑みを漏らす。


「うふふっ!逃げても無駄よ!スキル『魔力無限』を発動した今、私は何度でも『コーキュートス』を撃てるんだから!────永遠の寒さと孤独に身を委ねよ!《コーキュートス》!」


 逃げ惑うバハムートを追撃するように、ヴィエラさんは氷の最上級魔法をどんどん展開していった。

ソレを必死に回避するバハムートだったが、こんな茶番そう長く続く訳もなく……


「《コーキュートス》!」


『ぐっ……!!』


 ついに『コーキュートス』を翼に食らってしまった。

おかげで飛ぶこともままならず、バハムートは地面に落下する。

────この時点で、勝敗は決していた。


 『コーキュートス』は少し掠っただけでも死んでしまう、呪いのような魔法だ。

掠った場所から少しずつ体が凍っていき、やがて氷漬けにされ、死に絶えるから……。

ここから逆転するのは、ほぼ不可能と思われる。


『ぐっ!ぐぬっ……!!』


「あら?まだやる気?もう立ち上がる気力も、ブレスを撃つための熱量もないでしょ?」


『だ、黙れ!小娘が……!!俺様はイーストダンジョンのダンジョンボス バハムート様だぞ!こんなところで殺られる訳には……!!』


 最後の最後まで足掻き続けるバハムートは、白い息を吐きながら何とか身を起こす。

恐らく、ダンジョンボスとしての意地があるのだろう。

────でも、今回は相手が悪過ぎた。


「イーストダンジョンのダンジョンボス、ねぇ……私には、そんな事どうでもいいのよ。私はただ『虐殺の紅月』の一員として、ラミエルちゃんを傷つけた貴方を殺すだけだから」


 そう言うが早いか、ヴィエラさんは杖を置いてギュッと手を握り締める。

そして────


「永遠の寒さと孤独に身を委ねよ、《コーキュートス》」


 ────詠唱と共に、バハムートを殴りつけた。

鈍い音が鳴り響く中、奴は銀色の氷に身を包まれる。

その刹那、我々の勝利を決定づけるかのようにバハムートは光の粒子と化した。

しんしんと降り積もる雪を前に、私は鱗で切れたヴィエラさんの手をじっと見つめる。


 ヴィエラさんが何故、最後にバハムートを殴ったのかは分からない。

でも……その赤く濡れた手も、やけに小さく見える背中も痛々しくて見ていられなかった。

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