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第197話『最強の二人《アヤ side》』

 自分とよく似た少女が傷だらけで眠る姿を見て、私は恐怖心を駆り立てられる。


 恐らく、バハムートは司令塔であるラミエルさんを潰せば何とかなると思い、攻撃したのでしょう。

それが最大の過ちであるとも知らずに……。


 耳鳴りするほどの静寂の中、二人の男女は動き出した。

男の方は壁に埋まったラミエルさんを慎重に床へ下ろし、女の方はすかさず治癒魔法を展開する。


「……ラミエル、守れなくてごめんね。痛かったでしょ?今、ヴィエラが治してるからもう少しだけ耐えてね」


 シムナさんは壊れ物を扱うみたいに、ラミエルさんの頬にそっと触れた。


「《ハイヒール》《ハイヒール》……ラミエルちゃん、もう大丈夫よ。何も心配はいらないわ。安全な場所で、ゆっくり休んでいてちょうだい」


 何度も何度も……ラミエルさんの傷が完治するまで治癒魔法を掛け続けたヴィエラさんは、彼女の体をギュッと抱き締める。

そして、アイテムボックスから取り出した毛布でラミエルさんを包み込んだ。


「ファルコ、アヤ、アスタルテ」


「「「は、はい!」」」


 不意に名前を呼ばれ、慌てて返事すれば、『こっちに来い』と言わんばかりに手招きされた。

私達は顔を見合せながら、ヴィエラさん達の元へ近づく。


「あ、あの……」


「────あのドラゴンを倒して来るから、その間ラミエルちゃんの面倒を見ていてちょうだい」


「えっ……?」


 ドラゴンを倒して来るって……まさか、二人だけで!?それはさすがに無理があるんじゃ……!?


 『不可能』の三文字が脳裏を過ぎる中、シムナさんとヴィエラさんはその場から立ち上がる。


「なるべくこっちに被害を出さないようにするけど、絶対じゃないから油断はしないでねー。ラミエルのことは死んでも守って」


「貴方達のミスでラミエルちゃんが死んだら、容赦しないわ。それから────」


 ヴィエラさんはそこで言葉を切ると、不意に杖を上に振り上げた。

『殴られるかもしれない』と身構える私達の前で、彼女は風魔法を展開する。

と同時に、バハムートのブレスを掻き消した。


「ぶ、ブレス……!?そんなのいつの間に!?」


「私達が話し込んでいる間に、ブレスの発動準備を終えていたのよ。フィールドが真冬状態になっても、ブレスを完全に封じることは不可能みたいね。まあ、発動までにかなり時間が掛かってしまうけれど」


 呆れ気味に状況を説明するヴィエラさんに対し、バハムートは恨めしそうな表情を浮かべる。

渾身の一撃をあっさり掻き消されて、腹を立てているのだろう。


 この人、ラミエルさんの陰に隠れていただけで本当はかなりの切れ者なんじゃ……?

いや、私達の状況把握能力が鈍っているだけ?


『司令塔を潰せば、楽に倒せるパーティーだと思っていたが……そう簡単にはいかぬか。くくくっ!予想以上に楽しい狩りになりそうだな!さあ、もっと俺を楽しませてみろ!』


 ただでさえ殺気立っている二人を更に煽るバハムートに、私は頭を抱える。

『本当に愚かですね……』と呆れながら。

恐らく憎しみを増大させ、冷静さを奪うつもりなんだろうが……それはある意味逆効果だ。

────理性を失った“狂笑の悪魔”と“アザミの魔女”はそこら辺の獣より、ずっと恐ろしいのだから。


「……ヴィエラ、僕もう……」


「分かっているわ。私だって、そろそろ我慢の限界だもの」


 シムナさんとヴィエラさんは真正面からバハムートを睨みつけると、それぞれ武器を構える。

と同時に、底なしの怒りと殺気を放った。


「それじゃあ、ラミエルちゃんのことは頼んだわよ」


 その言葉を皮切りに、二人はこの場から飛び出す。

そして、先手必勝と言わんばかりにシムナさんが銃を撃った。

だが、しかし……バハムートが咄嗟に顔を前足で庇ったため、鱗に弾かれてしまう。


『ふっはっはっはっ!弓矢よりスピードはあるが、反応出来ない程ではないな!はっはっはっはっ!』


 余裕綽々といった様子で高笑いするバハムートに、シムナさんはクスリと笑みを漏らした。

かと思えば、もう一度銃を構える。


「そうだねー。普通の銃撃じゃ、君は倒せないみたーい。だから────僕も本気を出すことにするよー!ははっ!」


 唇の両端を限界まで吊り上げて笑うシムナさんは、うっそりと目を細めた。


「今回もちゃんと防ぎ切れるといいねー!ははっ!────《サン・ヒート・ショット》」


 サンダーバード戦で見せたスキルを再度発動し、シムナさんは引き金を引く。

と同時に、赤く燃える弾が飛び出し、バハムートの顔面を……いや、前足を攻撃した。

どうやら、ずっと前足で顔を庇っていたらしい。


 バハムートって、意外と小心者なんですね。

私達の想像する誇り高きドラゴンでは、なさそうです。


『っ……!!な、なんっ……!?俺の自慢の鱗が、砕けているだと……!?』


 ハラハラと地面に落ちていく鱗の破片に、バハムートは動揺を示した。

目を白黒させる奴の前で、シムナさんは声を上げて笑う。


「驚きすぎでしょー!普通に考えて、スキル入りの銃弾を防ぎ切れる訳ないじゃーん!」


『なっ……!?貴様の職業は斧使いではなかったのか!?』


「ははっ!ざんねーん!僕の職業は斧使いじゃなくて、狙撃手(スナイパー)なんだよねー!まあ、普段は銃なんて全然使わないけどー」


『は、はぁ!?』


 完全にシムナさんのペースに呑み込まれ、バハムートはオロオロと視線をさまよわせる。

何がなんだか分からない様子の彼を前に、“アザミの魔女”も本格的に動き始めた。


「《アイス・アロー》《アイス・ボール》《アイス・スピア》!」


 短縮詠唱+魔法の同時発動。

魔法使いの中でも極一部のプレイヤーにしか出来ない神業だ。


 下級魔法とはいえ、三つの魔法を同時に発動するだなんて……やっぱり、この人は凄い。

正直、何故こんな逸材が『虐殺の紅月』に居るのか分からない……他のメンバーだって、引く手数多だろうに。


『チッ……!!』


 ヴィエラさんからの攻撃を前足で防いだバハムートは、青髪の美少年と茶髪の美女を交互に見つめた。

意図も簡単に鱗を砕いた“狂笑の悪魔”と、油断ならない魔法使いの“アザミの魔女”。

この二人に挟まれれば、誰だって警戒するだろう。

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