第187話『フェニックスの討伐方法』
これが……これこそが─────フェニックスの不死能力。
失われた片翼までバッチリ再生したフェニックスを前に、私は表情を強ばらせる。
他のメンバーも、少なからず警戒心を抱いていた。
「完全復活ってところね」
「また振り出しに戻った感じやな」
「ねぇーねぇー!あの鳥なら、一生サンドバッグに出来そうじゃなーい?」
「フェニックスをサンドバッグとして、カウントしないでください……」
狂気的な考えを持つシムナさんに呆れつつ、私は顎に手を当てて考え込む。
脳裏に思い浮かぶのは、フェニックスの討伐方法に関する憶測や考え。
フェニックスは生き返る際全ての怪我を再生するものの、不死能力が発動されるまで治癒は行われない。
きっと、ここにヒントがある筈……。
でも、一番引っかかるのは────生き返りの際に掛かる“時間”。
最初は演出に凝っているだけだと思っていたけど、それにしたって長すぎる。
首と胴体がくっ付くまではいいとして、そのあと火の玉に閉じ込められ、弾け飛ぶだなんて……。
普通に怪我の再生だけで、充分だと思うんだけど……?
わざわざ、火の玉に閉じ込める必要性なんてあるのかな……って、ん?ちょっと待って?閉じ込める……?
「もしかして、フェニックスは……」
「────ラミエルちゃん、危ない!!」
ヴィエラさんの焦ったような声が耳を掠め、私は慌てて顔を上げる。
と同時に、立ち竦んだ。
だって、目と鼻の先に炎が広がっていたから。
これって、まさかフェニックスの火炎魔法……!?このタイミングで!?
「ラミエル!!」
突然の出来事に身動きを取れずにいると、シムナさんが私を抱き上げて回避する。
そして、ヴィエラさんの放った水魔法がフェニックスの炎を相殺した。
水蒸気となって消える二つの攻撃を前に、シムナさんはふと視線を下げる。
「ラミエル、大丈夫ー?怪我とかないー?」
「あっ、はい!大丈夫です!助けていただき、ありがとうございました!」
「どういたしましてー!」
シムナさんは比較的安全な場所で私を下ろし、フェニックスに目を向けた。
と同時に、『今度はヴィエラ狙いなのー?』と零す。
どうやら、攻撃対象は私からヴィエラさんに移ったらしい。
『なら、一先ず安心かな?』と思いつつ、私は純白の杖をギュッと握り締めた。
「あの、シムナさん。一つお願いがあるんですが」
「んー?なーにー?」
「準備が整うまで、フェニックスの相手をして頂けませんか?私が合図するまで殺さずに居てくださると、助かります」
「それは別に構わないけど、何か策でもあるのー?」
可愛らしくコテンと首を傾げるシムナさんに、私はニヤリと笑う。
「もちろんです。ただ、この策を実行するためにはヴィエラさんの協力が必要不可欠なんですよ」
「ふーん?つまり、僕は時間稼ぎ要員ってことー?」
「まあ、そうなりますかね」
『やっぱり嫌かな?』と不安に思い、私は少しばかり言葉を濁す。
が、シムナさんは特に文句を言わなかった。
いそいそと金と銀の斧を取り出し、交戦中のフェニックスを眺める。
「つまらなさそうだけど、いいよー。引き受けてあげるー」
そう言うが早いか、シムナさんは駆け出した。
半ば強引にヴィエラさんとフェニックスの間に割り込み、思い切り斧を投げ付ける。
ブォンッ!と風を切る音が木霊し、フェニックスの足に斧が突き刺さった。
その途端、フェニックスは『キィエエエエ!』と悲鳴を上げ、悶え苦しむ。
これで、フェニックスの標的は完全にシムナさんへ移っただろう。
「ヴィエラさんはこちらへ!ファルコさんはシムナさんのフォローをお願いします!」
「「了解!」」
フェニックスの意識が逸れている間に指示を出せば、二人は慌てて動き出した。
それぞれの役目を果たすため全く逆方向に突き進む二人を前に、私は表情を引き締める。
「ラミエルちゃん、お待たせ。私を呼び出したってことは、何か策があるのよね?聞かせてくれるかしら?」
察しのいいヴィエラさんに、私は『話が早くて助かります』と言いながら前を向いた。
「まず、大前提としてフェニックスの不死能力は“死なない力”ではなく────“死んでも生き返る力”です。つまり、フェニックスも他の魔物のように死ぬことが出来るってことです。だから────」
そこでわざと言葉を切り、私は口元を歪める。
と同時に、人差し指を立てた。
「────フェニックスの生き返りを邪魔すれば、いいんです」
「なるほどね。それで、私は具体的に何をすればいいのかしら?」
大きな胸を揺らしこちらの反応を窺うヴィエラさんに、私は少し悩んでからこう答える。
「ヴィエラさんにはフェニックスが死んだ後、時間停止魔法か封印魔法を使っていただきたいんです。そうすれば、生き返りを妨害出来る筈ですから」
「ふ〜ん?ちなみにラミエルちゃんはどっちの魔法が、いいと思う?」
率直な意見を求めてくるヴィエラさんに、私は『そうですね……』と眉を顰める。
交戦中のシムナさんとファルコさんを横目で見ながら、腕を組んだ。
「フェニックスの死亡判定にもよりますが、私は封印魔法を使用した方がいいと思います」
「あら、意外ね。ラミエルちゃんなら、時間停止魔法を選ぶかと思ったけど……」
驚いたように瞬きを繰り返すヴィエラさんに対し、私は小さく肩を竦める。
「時間停止魔法だと、死亡判定に引っ掛からない可能性があるんですよ。死亡を決定づけるものが時間関係だった場合、特に。その判定に関わる時間さえも止めてしまうかもしれないので」
「時間停止魔法はあらゆるシステムに干渉出来る高位魔法だものね。その懸念は理解出来るわ」
両腕を組んでうんうんと頷き、ヴィエラさんはスッと目を細める。
「そう考えると、封印魔法の方が良さそうね。時間停止魔法より大掛かりなものじゃないし、消費魔力も抑えられるもの」
「そうですね。でも、必ず上手くいく保証はどこにもありません。どちらの魔法を使うかはヴィエラさんの裁量に委ねます」
「あら、私に決定権をくれるの?」
「はい。この作戦で一番負担が大きいのは、ヴィエラさんですから」
『好きな方をどうぞ』と促す私に、ヴィエラさんは嫣然と微笑む。
「うふふっ。そうねぇ……なら────どっちも試してみましょうか」




