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第171話『無意味《シムナ side》』

 少し時間は遡り────ボスフロアの扉が閉まってから、十五分ほど経過した頃。

僕は全ての元凶たるミラという女をボコボコにしていた。


「あははははっ!ねぇーねぇー、苦しい?辛い?痛い?」


「……」


「あははっ!無視とか、やめてよー!つまんないじゃーん!」


「かはっ……!!」


 床に転がるミラのお腹を蹴り上げると、彼女はサッカーボールのようにぴょんぴょん跳ねて転がって行った。


 リアクション薄くて、つまんないなー。

ラミエルの命を危険に晒したんだから、もっと苦しんでほしいのにー。

これじゃあ、殺すに殺せないよー。


「ヴィエラー、このクソ女に治癒魔法掛けてあげてー」


「それは別に構わないけど、程々にしなさいよ?今、優先すべきなのはラミエルちゃんを助けることなんだから」


 ……そのくらい、言われなくても分かってるよ。

でも……この扉には僕の打撃や銃撃も、ヴィエラの魔法攻撃も全然効かなかったじゃんか。


 傷一つ付いていない白い扉を見上げ、僕はクシャリと顔を歪める。


「どうすることも出来ないよ……僕らは確かに強いけど、ゲームの設定には抗えないんだから」


 ギュッと手を握りしめ、僕は己の無力さに思いを馳せる。

『所詮、自分はただのプレイヤーなのだ』と、嫌ってほど思い知らされた気がした。


 嗚呼、イライラする……。


「ふふふっ……はははははっ!」


 『ラミエルを失うかもしれない』という不安とクソ女に対する殺意で、僕はもう限界だった。


 クソ女が僕の手を掴まなければ、ラミエルは僕の手の届く範囲内に居たのに……僕がラミエルを────守れたのに……!


「はは……あははははっ!!そんなこと今更考えたって、意味ないよねー」


 僕は誰に言うでもなく、そう呟くと……ヴィエラの治癒魔法で回復したクソ女の前に立った。

口元に笑みを携えたまま、その場にしゃがみこむ。


「ねぇーねぇー、クソ女ー。どうして、ラミエルを危険に晒したのー?理由を聞かせてよー」


「……」


「あははっ!無視ー?殴られたいのー?Mだねー」


 そう言って、僕はクソ女の恐怖心を煽るようにわざと大きく拳を振り上げる。

すると、


「ひっ……!は、話す!話すから……!!」


 無視を貫いていたクソ女が、ようやく降参した。

どんなに強情な女でも、恐怖には勝てなかったらしい。


「あははっ!やっと喋る気になったんだー?で、どうしてラミエルの命を危険に晒しのー?まさか、『特に理由はない』なーんて言わないよねー?」


「そ、それはない!ちゃんと理由はある……」


「ふーん?そっかぁー」


 まあ、どんな理由があろうと許すつもりはないけどねー。

だって、ラミエルは僕の全てだもーん。

でも、どうしても気になるんだよねぇ……。

このクソ女が……『サムヒーロー』のメンバーがどうしてラミエルの命を危険に晒したのか。

だって、そうでしょー?

『サムヒーロー』はラミエルという優秀な人材を欲しているだけで、別に殺したい訳じゃない。

そんなの本末転倒もいいところだ。


 このクソ女の独断ならまだいいけど、もし『サムヒーロー』そのものがラミエル殺害に動いているなら……こっちも黙ってられない。

今までは寛大な心で『サムヒーロー』の迷惑行為を見逃して来たけど、そうなったら話は別。

PK禁止令を無視してでも、『サムヒーロー』のパーティーメンバーを皆殺しにする。


「じゃあ、もう一回だけ聞いてあげるねー?どうして、君はラミエルの命を危険に晒したのー?」


 コテンと首を傾げニッコリ微笑めば、クソ女は躊躇いがちに口を開いた。


「わ、たしがラミエルを危険に晒した理由は────あの人が『サムヒーロー』に戻って来たら、私の居場所を奪われると思ったから……」


「「……はっ?」」


 予想外と言うべき殺害理由に、僕とヴィエラは素で驚いてしまった。

周りに居る他のメンバーも、『え?何言ってんの?こいつ……』と言わんばかりの表情でクソ女を見下ろしている。

そんな中、クソ女は堰を切ったように話し出した。


「私はっ……!!ラミエルの代替品に過ぎないの!彼女が『サムヒーロー』に戻って来れば、私は当然のようにパーティーから追い出される!だから……!!ラミエルを殺せば、私の居場所を守れると思ったの……!!」


「「……」」


「自分でも馬鹿なことをしたと思っている!でも、私の居場所はここしかないから……だからっ……!!」


 半泣きになりながらこちらを見上げるクソ女に、僕とヴィエラは困惑を隠し切れず……互いに顔を見合せる。


「ちょ、ちょっと待ってくれる?何でラミエルちゃんが『サムヒーロー』に戻る前提で、話を進めているの?」


「ラミエルは『サムヒーロー』の勧誘をきちんと断っている筈だけどー」


 前提条件からして明らかにおかしいクソ女の話に、僕らは目頭を押さえる。

予想の三倍はくだらない殺害理由に、目眩すら覚えた。


「あのね、クソ女ー。ラミエルは『サムヒーロー』に戻る気は一ミリもないよー?むしろ、『サムヒーロー』からの勧誘を煩わしく思っているしー」


「えっ?でも、カイン様は『照れてるだけだ。待っていれば、そのうち戻ってくる』って……」


「はぁ……『サムヒーロー』のパーティーリーダーさんは随分と思い込みが激しいのね?ここまで来ると、もはや病気だわ」


「まあ、その話を素直に信じるクソ女もどうかと思うけどねー」


 怒りを通り越して呆れてしまう僕らに、クソ女は動揺を示す。

パチパチと瞬きを繰り返しながら。


「え、えっ……?じゃあ、ラミエルが『サムヒーロー』に戻ってくることは本当にないの……?」


「うん、そうだよー。僕が保証するー」


「……じゃ、じゃあ、私がやったことの意味って……」


「全て空回り……というか、無意味だったわね」


 やれやれと言わんばかりに肩を竦めるヴィエラは、豊満な胸を揺らして例の扉に向き合う。

その後ろで、クソ女は口元を押さえて震え上がっていた。


「シムナ、ちょっと手伝ってくれるかしら?」


「ん?なーにー?」


「私が貴方に強化魔法を掛けるから、思い切り扉を攻撃してほしいのよ」


「別にいいけど、そんなんでこの扉を壊せるのー?」


「さあ?それは分からないわ。でも、じっとしていられないでしょう?」


 僕の心を見透かしたように笑うヴィエラは、指揮者のように杖を振る。

すると、強化魔法が展開され、僕に力を与えた。

腹の底から湧き上がってくるパワーを前に、僕はギュッと拳を握りしめる。

そして、限りなく望みが薄い可能性に僕は身を委ねた。


「行っくよー!」


 そんな掛け声と共に駆け出し、思い切り扉を蹴り飛ばす。

────その瞬間、固く閉ざされていた白い扉は勢いよく開け放たれた。

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