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第170話『ケルベロスの攻略方法』

 私達の手元にあるカードは少ない。

その上、攻撃手段は獣人戦士(アニマルビースト)のファルコさんだけ……。

ウチのメンバーはどちらかと言えば、防御特化のチームだ。

我々の力だけでケルベロスに勝利するのは難しい……だからと言って、増援は望めない。

そうなると、他に頼れるものは────“アイテム”だけとなる。


 幸い、ウチには『プタハのアトリエ』のギルドマスターであるアスタルテさんが居る。

彼女に頼めば、大抵の物は用意出来るだろう。

でも、問題が一つ……。

そのアイテムを使いこなせる者が、居ないかもしれないという事。

この状況下で、求められるアイテムは武器や防具が大半だから。


 非戦闘要員である私、アスタルテさん、アヤさんは無論使いこなせないし、飛行しながら戦わないといけないファルコさんも同様。

となると、武器の他に何か特別な要素を付け加えないといけないんだけど……。


「っ……!!ラミエル、アスタルテ!!まだ打開策は思い付かへんのか!?」


「す、すみません……!まだ考えが纏まらなくて……!」


「作戦の土台は一応出来ているのです。ただ、あと少し……そう、スパイスが足りないのです」


「そうなんです。スパイスが……って、スパイス?」


 何かこう……大きなヒントを得たような気分になり、私は考え込む。


 スパイス……スパイス……スパイス……。

スパイスは香辛料を指す言葉で、カレーなどの料理に使われる。

ただ分量を誤ると、辛さのあまり舌や喉がヒリヒリしたり、失神したりするので注意が必要。

ナツメグという香辛料については毒性があり、摂取量に気をつけないと死ぬ可能性もあるため、特に注意が……。


「────毒?」


 そう呟いた途端、突然目の前が開けたような感覚を覚える。

と同時に、口角を上げた。


「ケルベロスの攻略方法、見つけたかもしれません!」


 自信ありげに笑いながら、私は手短に作戦内容を説明する。

そして、準備の段取りなどを決めてからアヤさんやアスタルテさんと共に地上へ降り立った。

直ぐさま結界を展開するアヤさんの前で、私はせっせとあるものを取り出す。

アスタルテさんも、同様にアイテムボックスを弄っていた。


 私の考えた作戦はこうだ。

まず、ファルコさんが囮役としてケルベロスの気を引き、時間を稼ぐ。

その間、私達はアラクネさんお手製の猛毒を弓矢の鏃に塗りたくり、毒殺の準備を進める。

で、準備が出来次第ファルコさんにケルベロスを誘導してしもらい、至近距離から毒矢を放つ。


「それにしても、こんな強力な毒どこで手に入れたんですか?市販のものではありませんよね?」


 猛毒の入った小瓶を持ち上げ、アヤさんは不思議そうに首を傾げる。

アスタルテさんも気になるのか、チラリとこちらを見た。


「この毒はウチのパーティーメンバーが作ったものです。まあ、本当に危険な毒薬なので滅多に使いませんけどね」


「なるほど……確かこの毒に侵された生物は、内側からドロドロに溶けて行くんでしたっけ?」


「はい。なので、これは毒と言うより溶解液と言った方がいいかもしれません」


「ここまで精度の高い溶解液を作れるなんて、羨ましいのです〜。私はこっち系の研究、苦手なので〜」


 『スカウトしたいくらいなのです』と語りつつ、アスタルテさんは毒のついた弓矢をじっくり観察する。

毒耐性がちゃんと機能しているのか、確認しているのだろう。

下手したら、弓矢まで溶けちゃうから。


「準備完了しました。お二人はどうですか?」


「私もいつでも行けます」


「準備万端なのです〜」


 ビシッと親指を立てる二人に、私は小さく頷き顔を上げた。


「────ファルコさん!!準備が整いました!!作戦通りにお願いします!!」


「了解!」


 ケルベロスを足蹴にしてこちらを振り返り、ファルコさんは一直線に向かってきた。

そんな彼に釣られるように、ケルベロスも歩を進める。


 チャンスは一回だけ……。

この機会を逃せば、学習能力の高いフロアボス(ケルベロス)はもう二度と同じ手に引っ掛かってくれないだろう。


 『一発で仕留めるよ』と自分に言い聞かせ、私は小さく深呼吸した。


 狙うは目か口。


「────あとは頼むで!三人とも!」


 低空飛行を心掛けていたファルコさんは、結界に衝突する寸前で真上へ急上昇した。

すると、ケルベロスは勢いよく結界に激突する。

その影響で、私達を守っていた結界はパリンッ!と音を立てて壊れた。

半透明の破片が舞い散る中、私達三人はただ静かに弓を構える。


 なんだか、凄く変な気分……。

弓を使うのは初めてで、緊張している筈なのに……不思議と落ち着いている。

それに何より────


「────失敗する気が全くしない」


 その言葉を合図に、私達は一斉に矢を放った。

ヒュンッと風を切って真っ直ぐ進んでいく毒矢は、三頭それぞれの目や舌に突き刺さる。

と同時に、アラクネさんの毒が牙を向いた。


「うわぁ……これは確かに毒と言うより、溶解液に近いものですね……」


「効力が強いとか、そんな次元の話じゃないのです〜。これは軽くホラーなのですよ〜!」


「トラウマレベルのエグさやなぁ。あと十歳若かったら、チビっとったわぁ!」


 内側からドロドロに溶けていくケルベロスを目の当たりにし、彼らは『うへぇ……』と顔を顰める。


 まあ、初見の方はこうなるよね。

私も最初は『えっ?きもっ!』って思っちゃったし……。


 アイスみたいにドロドロに溶けたケルベロスを前に、私は苦笑する。

────と、ここで『クゥーン』と可愛らしい鳴き声が耳を掠めた。

かと思えば、ケルベロスは光の粒子と化す。


「……何とか無事に終わった」


 勝利を確信し、ようやく肩の荷が降りた私は大きく息を吐く。

その瞬間、固く閉ざされていた白い扉が勢いよく開け放たれた。

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