第158話『心臓に悪い』
「お二人とも、テストお疲れ様です。そして、合格おめでとうございます。早速で申し訳ないのですが、手伝いをお願いしますね」
そう前置きしてから、私は二つのテスト方法を説明した。
すると、二人は直ぐに事情を呑み込む。
「なるほどねー!じゃあさ、三人で手分けしてやろうよー!僕が実践型のテスト監督で、ラミエルが表示型のテスト監督、んでもってヴィエラは合格者のプレイヤー名とIDをメモする係みたいなー!」
「なるほど。確かにそっちの方が効率良さそうですね。でも、そうなると列を二つに分けなきゃいけなくて……」
「あら?そんなの簡単よ」
『朝早くから並んでいる人達が損するのでは?』と不安になる私に、ヴィエラさんはスッと目を細める。
と同時に、一歩前へ出た。
「じゃあ、実践型のテストを希望する子は左に一歩ズレてちょうだい。いい?真左に一歩、よ?」
魔法で声量をアップしたヴィエラさんは、そう指示した。
すると、治療班希望者の半数以上が一歩横へズレる。
「その状態で、隙間を埋めるようにゆっくり前に来て。いい?ゆっくりよ?絶対に前の人を押しちゃダメ」
転倒事故を危惧するヴィエラさんの言葉に、二つの列へ分かれたプレイヤー達は小さく頷く。
そして、あっという間に────実践型希望の列と表示型希望の列へ分かれてしまった。
これなら、不平不満も出ないだろう。
「ありがとうございます、ヴィエラさん」
「どういたしまして」
「ねぇー!お礼とかどうでもいいから、早くテストを再開させようよー!僕、暇なんだけどー!」
実践型の列の前にちゃっかり移動していたシムナさんは、ブーブー文句を垂れる。
何故か、ナイフを手に持ちながら。
何でシムナさんが実践型のテスト監督を引き受けると言い出したのか、ずっと疑問だったけど……そういう事か。
「とりあえず、時間もありませんし、テストを再開させましょうか。実践型のテスト希望者は青髪の男性プレイヤーの元へ、表示型のテスト希望者は私のところまでお願いします。またそれぞれのテストで合格を貰った者は茶髪の女性プレイヤーのところまで行って、自分のプレイヤー名とIDを伝えてください。それでは────テスト再開!」
そう宣言すると、各列の先頭がそれぞれ私とシムナさんのところまで来る。
と同時に、シムナさんは自身の手のひらを切った。
『はい、治してー』と促す彼の前で、実践型の希望者はそそくさと治癒魔法を展開する。
やっぱり、そういうテスト方法だったか……まあ、この程度の怪我なら特に痛みも感じないだろう。
心臓に悪い光景であることは間違いないけど……。
隣から聞こえる『ひっ!』という悲鳴に苦笑を漏らし、私はゲーム内ディスプレイを操作した。
「おめでとうございます。合格です。ヴィエラさんにプレイヤー名とIDを伝えたら、今日はもう帰ってもいいですよ」




