第14話『リユニオンタウン』
街にこんなにも人が密集している理由はただ一つ────単純に安全だから。
だって、街中に魔物は現れないし、ダメージ無効区域なのでPKされる心配もない。
このデスゲームと化したFRO内で、死の恐怖に怯えなくていい場所は街中くらいだろう。
「それにしたって、何でリユニオンタウンにこんな……」
「────違うよ、ラーちゃん。リユニオンタウンだから、こんなに人が集まったんじゃない……多分、他の街も同じ感じだよ」
どこか難しい顔つきで街並みを眺める徳正さんに、私はコクリと頷いた。
それにしても、みんなピリピリしているな。安全な場所だからと気を抜いているプレイヤーも居るみたいだけど、そんなの極一部。
まあ、この状況下でのんびりしていられる方がおかしいよね。
ゲーム内に閉じ込められた恐怖や怒りもあるけど、それ以上に周りが怖い。疑心暗鬼にも似た感情を多分みんな持ってる。
それは偏にネット友達を信用出来ないから。
そう考えると、私って凄く恵まれてるんだなぁ……頼りになる人達が、傍に居るんだから。
「とりあえず、中に入ろっか〜。ラーちゃんのお馬ちゃんも消えたことだし〜」
消えたって……もう少し言葉を選んでよ!
最大活動時間を迎えて元の場所へ戻った愛馬を思い出し、私は小さく息を吐く。
『なんて、無神経な人なんだ』と思いつつ地面に降りると、アラクネさんが馬車を仕舞っていた。
「あっ、そうだ!ラーちゃん、あーちゃん、手繋ご〜?ほら、凄い人混みだしさ〜はぐれたら大変でしょ〜?」
セレンディバイトの瞳を細め、ニコニコと笑う徳正さんは嬉々として右手を差し出した。
左手はアラクネさんに向けている。
はぐれないように手を繋ぐ、か。
確かにその提案は良いと思うけど……何だろう?この不快感は。
「清楚系のラーちゃんに〜可愛い系のあーちゃんか〜!いやぁ、両手に花ってこういう事だよね〜!」
太陽にも負けないほどキラッキラした笑みを浮かべる徳正さんは、言うまでもなく上機嫌だった。
私達にそれぞれ差し出した手を閉じたり開いたりして、『早く早く』と催促してくる。
なるほど。この不快感の原因は────
「徳正さん、下心丸出しですよ。シンプルにキモいです」
「えっ!?き、きも……!?」
「わ、わわわわわわわ、私も気持ち悪いと思います!!」
「ふぇ!?あーちゃんまで!?」
ナイスアシストです、アラクネさん!
私は後ろに居るアラクネさんと無言で見つめ合うと、どちらからともなく頷いた。
『セクハラだめ絶対』を掲げる私達の前で、徳正さんはどんどん落ち込んでいき……ついにメソメソと泣き出した。
その場に座り込み、地面に『の』の字まで書く始末である。
大の大人が一体、何を……。
ゲームの世界とはいえ、これはさすがに恥ずかしいんだけど……周りの人の視線もあるし。
一応まだ街の外ではあるが、結構人目に付くためあちこちから視線を感じた。
『なんだ、なんだ?』と訝しむ周囲の人々を前に、私は嘆息する。
もう、仕方ありませんね。
「分かりました。手を繋ぎましょう」
「えっ!?ホントに!?」
こちらが折れる姿勢を見せれば、徳正さんはバッと顔を上げた。
セレンディバイトの瞳は、キラキラと輝いて見える。
復活早くない?いや、その前に……
「その手に持っている物は、何ですか?」
「ぎくっ!」
ビクッと肩を震わせた徳正さんは、左手に持っていた何かを慌てて懐にしまい込んだ。
が、もう遅い。
「それ、目薬ですよね?まさか、さっきの……嘘泣きだったんですか?」
「……え、え〜?なななな、何のことかな〜?俺っち、頭悪いから分かんなーい!」
「とぼけないでください!!絆された私が、馬鹿みたいじゃないですか!」
「ご、ごめんって〜!ほんの遊び心だったんだよ〜!許して、ラーちゃん〜!」
跳ね起きで体を起こした徳正さんは、物凄い勢いで謝ってきた。
その目は若干潤んでいる。
「ごめんって、マジで〜!もうしないから、許して〜」
私の両肩に手を掛けると、徳正さんはブンブンと前後に揺さぶる。
おまけに捨てられた子犬のような目で、こちらを見つめ……私の良心に訴えかけてきた。
ちょっ……そんな目で見ないでよ!私、そういう目に弱いんだから!!
『分かっていて、やっているでしょう!?』と思うものの、私はなんだかんだ徳正さんに甘くて……。
「はぁ……仕方ありませんね。今回だけですよ?ほら、お手をどうぞ」
「ら、ラーちゃん……!!大好き!!」
差し出した手に嬉々として飛びつき、徳正さんは嬉しそうに目を細めた。
セレンディバイトの瞳は、キラキラと輝いている。
まあ、動機が不純だったとはいえ、徳正さんの手を繋ぐという提案自体は悪くなかったからね。
と自分に言い訳しつつ、アラクネさんの方を振り向いた。
と同時に、空いている方の手を彼女に差し出す。
「はぐれたら大変ですので、出来れば繋いでくれませんか?もちろん、無理強いはしませんが」
『最終的な判断はそちらに任せる』と言ってのけると、アラクネさんは視線を右往左往させた。
かと思えば、手を出したり引いたりしている。
恐らく、繋ごうかどうか迷っているのだろう。
特に急ぐ必要もないのでその様子を見守っていると、アラクネさんは何か決心したように顔を上げた。
「あ、う……えっと……ら、ラミエルさんが嫌でなければ……!!ぜ、是非繋がせてくだしゃい!!あっ……」
最後の最後で噛んでしまったアラクネさんは、カァッと顔を真っ赤にした。
かと思えば、顔を隠すように慌てて俯く。
そんな彼女の反応が可愛らしくて、思わず笑みを漏らしてしまった。
「ふふっ。じゃあ、繋ぎましょうか」
「は、はいぃぃぃいい!!お、お願いしますっ!」
耳まで真っ赤にしたアラクネさんは、チラチラとこちらの反応を窺いながら手を重ねてくる。
感情に引き摺られたのか、彼女の手はとても暖かった。




