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第146話『『サムヒーロー』との再会』

「では、次の議題に移る。その議題とは────攻略するクエストの順番について、だ」


 ヘスティアさんはそう宣言すると、部屋の手前側────つまり、出入口に視線を向けた。

彼女の視線に釣られるように、私達もそちらへ目を向ける。

────と、ここで『サムヒーロー』のパーティーメンバーが颯爽と登場を果たした。


 話し合いの途中からずっと感じていた気配は、やっぱりカイン達のものだったか……。

『ヒーローは遅れてやってくる』とは、まさにこの事ね。まあ、今回は普通に遅刻だけど……。


 遅刻してきたにも拘わらずドヤ顔で登場したカインに、私は内心溜め息を零す。

『相変わらずの目立ちたがり屋だな』と思いつつ、居心地悪そうに身を竦めるマヤとアキラを見つめた。

カインの後ろで縮こまる二人を前に、私はふと青髪金眼の美少女を視界に移す。


 あれ?あの子は誰だろう?服装的に神官みたいだけど……もしかして、回復師(ヒーラー)の代わりに入れたんだろうか?


 カインの腕を胸の谷間で挟むようにして抱き締める彼女を前に、私は困惑する。

だって、カインを見る目が完全にハートになっていたから。

『もしや、恋人?』と首を傾げる中、ヘスティアさんは大きく息を吐く。

どうやら、時間と場所も考えずにイチャイチャしている二人に呆れているらしい。


「とりあえず、空いている席に座ってくれ。それと、ここはイチャイチャする場ではない。仲間や恋人であっても、適切な距離を保て。周りに迷惑だ」


 ウンザリ顔で注意を促すヘスティアさんに、この場にいる誰もが『うんうん』と頷く。

が、当事者であるカインと青髪の美女は反論を試みた。


「イチャイチャしているつもりはない。大体、こんな事で周りの迷惑になる訳ないだろ。お前は馬鹿なのか?」


「カイン様の言う通りですぅ!ミラちゃんとカイン様の距離は近くても問題ないと思いますぅ!」


「あのな……お前達はここに何しに来たんだ?イチャイチャを見せつけるために、来た訳ではないだろう?」


「当たり前だ。俺達は魔王討伐クエストの情報提供の代わりに、同盟へ加入しに来ただけだ。まあ、目的はそれだけじゃないがな……」


 どこか含みのある言い方でそう言い、カインはこちらに流し目を寄越してきた。

まだ私のことを諦めていなかったらしい。


「はぁ……目的が分かっているなら、いい。これ以上時間を無駄にする訳にもいかないし、席に座ってくれ」


「ああ、そうさせてもらう」


「ずっと立ちっぱなしで、ミラちゃん辛かったですぅ!」


「ミラは一回黙って。これ以上、ウチの評判を下げないでよ」


「マヤの言う通りだ。お前の態度が悪いと、俺達の品位まで疑われる」


「マヤとアキラって、頭固いよね〜。ていうか、ミラちゃんはカイン様の言うことしか聞く気ないから〜」


「「はぁ……」」


 疲れ切った様子で項垂れるマヤとアキラに、『ミラ』と呼ばれた神官の女性はベッと舌を出す。

そして、当然のごとくカインの隣に着席。

『カイン様〜』と甘い声を出す彼女の傍で、マヤとアキラもとりあえず腰を下ろした。


「さて、メンバーも揃ったことだし……改めて、次の議題に移ろうか。じゃあ、まずはゲストで呼びした『サムヒーロー』の現メンバーと元メンバーのラミエルに話を聞こうと思う」


 おかしくなった空気を何とか取り繕い、ヘスティアさんは会議を再開させる。

『どっちから先に行く?』と尋ねてくる彼女を前に、私は少し悩んだ。


 マヤやアキラはさておき、カインとミラさんは何を言い出すか分からない。

ここは私が先陣を切った方がいいかな?


 ミラさんという強烈なキャラのおかげ(?)で、意外と冷静な私は『今なら落ち着いて話せそう』と思い立つ。


「あの、私からでもいいで……」


「まず、俺達の見解から言わせてもらう」


 『いいでしょうか?』と続ける筈だった言葉は、カインによって遮られた。


「『箱庭』の発表したこの攻略順だが、俺は真っ赤な嘘だと思ってる。確かに魔王戦はかなりの苦行を強いられるが、幹部戦は問題なく突破出来た。だから、この同盟の全戦力を魔王討伐クエストに注ぎ込み、“勇者”である俺が指揮を取れば簡単にクリア出来る。よって、ダンジョン攻略よりも魔王討伐クエストを先にやるべきだ」


 どこからそんな自信が湧いてくるのか……カインは確信を持った様子で言い切った。

そこに迷いや躊躇いと言った言葉はなく、本当にそうだと信じ込んでいるようだ。


 多分、『箱庭』の語った新事実を認めたくないんだろうね……。

カインは物凄くプライドが高くて、自分を完璧人間だと思い込んでいるから。

自分の間違いやミスは絶対に認めようとしないし、他人の言うことにも耳を貸さない。

よって、『自分達がずっと無駄なことをしていました』という事実を受け入れられないのだ。


 『まあ、気持ちは分からなくもないけど……』と思案していると、ヘスティアさんが縋るような目を向けてくる。

きっと、カインの言い分が滅茶苦茶すぎて困っているのだろう。

『この流れをどうにかしてくれ』と願うヘスティアさんに小さく頷くと、彼女は表情を明るくする。


「では、次にラミエルの意見を聞こう」


「分かりまし……」


「────その必要はないだろ。どうせ、こいつも俺と同じ意見だろうからな」


 またもや言葉を遮ってきたカインに、私は内心腹を立てる。

『会議のルールすら知らないのか?』と。


 普通は挙手してから、発言するんだよ。

あと、たとえ言いたいことがあっても相手の話を最後まできちんと聞くこと。

これ、基本中の基本だから。


 リーダーの体越しにカインを見つめ、私はニッコリと微笑む。

『もう前までの私じゃないよ』と思いながら。


「────いいえ、私は貴方達と同じ意見じゃありません。なので、これから私個人の意見をお話しします。くれぐれも途中で口を挟まないよう、お願いしますね?」

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