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第13話『意外と強烈』

 間もなくしてナイトタイムが終わり、急に太陽が姿を現した。

じりじりと照りつけてくるソレを背に、私達は小洒落た馬車に揺られる。


「それにしても、馬車なんてよくありましたね」


「え、あ……えっと、その……街まで出掛けるのに馬車があったら良いなって思って、密かに作ってたんです。でも、なかなか使う機会がなくて……」


「俺っち達に頼めば、大抵何でも揃うからね〜。てか、あーちゃんの場合買うより作った方が早いし〜」


 馬の手綱を握る徳正さんはこちらを振り返り、ニコニコと笑みを振りまく。

罠の森を抜けてから余裕が出てきたのか、よそ見が多くなっていた。


 前!前見てください!!事故りますよ!!一応、まだ森の中なんですから!!


 木々の間隔が広いことが不幸中の幸いだが、それでも油断は出来なかった。


「徳正さん、うちの子(・・・・)に怪我させたら怒りますよ?」


 アラクネさんが作ったこの馬車を引いているのは、私の愛馬だ。

いや、もっと正確に言うと移動系アイテム────『ホースを呼ぶ笛』で出現する馬。

ぶっちゃけただのコンピューターだが、長い時を共にしてきたため今では相棒のような存在である。

なので、無闇に傷つけられたくなかった。

真顔で徳正さんをじーっと見つめ、圧を掛けていると、彼は見るからに焦り出す。


「わ、分かった!!分かったから、怒らないで!?ねっ!?」


「じゃあ、きちんと前向いてください」


「お、おっけー!任せといてよ〜!ばっちり前見ちゃうよ〜!」


 そそくさと私から視線を逸らし、徳正さんは前を向く。

普段猫背なのに珍しくピーンと背筋を伸ばし、馬に『怪我しないでね〜?』と話し掛ける始末だ。


 そんなに怖がられると、逆に傷つく……まあ、真面目に運転する気になったみたいで良かったけど。


 何となく複雑な心境に駆られていると、隣に座るアラクネさんがこちらを凝視してくる。


「す、凄いです!!あの扱いにくいと噂されていた徳正さんを、こうもあっさり従わせるなんて……!ラミエルさん、さすがで……あっ!ち、ちちちちちち、違うんです!!すみません!!私ったら、余計なことを……!!」


 まさか口に出ているとは思わなかったのか、アラクネさんはペコペコと何度も頭を下げてくる。

その横顔は真っ赤だった。


 徳正さんにそんな噂が……初耳だな。

確かにちょっとノリやテンションが独特だけど、普通に良い人なのに。慣れれば、凄く接しやすいし。


「謝らないでください、アラクネさん。あと、徳正さんはいい人ですよ?セクハラ発言が玉に瑕ですが、それさえ除けば頼りがいのある強い先輩って感じです」


「ら、ラーちゃん!俺っちのことをそんな風に思っ……」


「前を見てください」


「は、は〜い……」


 しょぼ〜んとした様子で肩を落とす徳正さんは、静かに馬の手綱を引く。

その背中は、妙に寂しげだった。


 そ、そこまで落ち込まなくても……でも、ここで変に慰めると絶対調子に乗るし。


 私はいつもより小さく見える背中を見なかったことにし、アラクネさんに視線を戻した。


「そういえば、何でアラクネさんは空から降ってきたんですか?窓からうっかり落ちた、とかですか?」


「え!?あ、いや……その……実はあのラボには玄関がなくて……城の屋上に行かないと外に出られないっていうか……」


「えっ!?そうなんですか!?」


「は、はい……蜘蛛足を設計に組み込んだら、玄関が作れなくなってしまって……」


「……」


 確かに蜘蛛足のせいで城自体は宙に浮いていたため、玄関を作るのは不可能だった。

建物の設計における痛恨のミスである。


 あぁ、だから徳正さんはアラクネさんが空から降ってきても驚かなかったんだ。


「あ、あの〜……失礼ですが、改築とかは考えなかったんですか?玄関ないと不便ですし、蜘蛛足を撤去し……」


「駄目です!!あの蜘蛛足は過去一の出来栄えなんです!!撤去なんて、そんなこと出来ません!!あの蜘蛛足を残すためなら、幾らでも紐なしバンジーをする覚悟があります!!」


 『撤去』という言葉に強く反応を示したアラクネさんは、大きい声でハキハキと反論してきた。

遠慮のない物言いに喜びを覚えるが、その蜘蛛足への執着心はちょっと理解出来ない。

『紐なしバンジーをする覚悟って……』と項垂れ、溜め息を零した。


 嗚呼、アラクネさんのイメージが崩れていく……控えめな人かと思ったのに。

徳正さんとはまた違う意味で、強烈なんだけど。


「と、とりあえず、アラクネさんの気持ちはよく分かりました。もう撤去とか言わないので、落ち着いてください……」


 ふんぬー!と鼻息を荒くするアラクネさんを宥めると、彼女はハッとして顔を赤くする。

どうやら、初対面の私に素の自分を見せたことが恥ずかしかったらしい。


「ご、ごごごごごごごごご、ごめんなさい!私……!」


「あ、いえ……気にしていないので、謝らないでください」


 『かなり強烈なキャラだなぁ』とは思っているけど、怒ってはいないので!


 ペコペコと頭を下げるアラクネさんを必死に宥め、私はふと視線を前に戻す。

そして、徳正さんの背中の向こう側へ目を向けると、活気づいた街の風景が見えた。


「はい、リユニオンタウンとーちゃーく!多分、一番乗りかな〜?」


 リーダーが集合場所に指定した街────リユニオンタウン。

大陸内部に位置するこの街は現実世界で言う都会で、店や人の多さは他の街の比じゃな……あれっ?


「なんか、人が────多くないですか?」


 リユニオンタウンは東大陸一の大都市と言われ、人が多いのは当たり前のことだが……これはあまりにも……。


「多すぎる、ね〜」


 以前訪れた時よりも、格段に人口密度が上がっている。それはもう、溢れんばかりの人だかりだ。

一目で異常と分かる街の様子を前に、私達はしばらく身動きを取れなかった。

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