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第137話『アヤさんの秘密』

 『徳正さんらしくない』と思いながらも、私は一先ず沈黙を貫く。

何も知らずに横から口を挟むのは、マナー違反だから。

『今はとにかく回復に専念しよう』と彼に寄り掛かる中、アヤさんは顔を上げた。


「とりあえず、上空へ待避しましょう。そのうち、ヘスティアさんの一斉砲火が始まりますから」


 結界師だというアヤさんは結界魔法を使って、半透明の階段と待機場所を作った。

即席にしては、よく出来ている。


「半透明にしましたが、よく見ないと分からないので足元には十分お気をつけください」


 徳正さんに警戒されないよう先頭を歩くアヤさんは、結界で出来た階段をゆっくりと上がった。

数歩遅れて、私を抱っこした徳正さんも登り始める。


「ふ〜ん?結構強力な結界だね〜」


「お褒め頂き、ありがとうございます」


「アヤさんは気配遮断も使える感じ〜?てか、使えるよね〜。これだけ強力な結界を張れればさ〜。逆に使えない方が不自然だし〜」


「ええ、まあ……そうですね、使えます」


 どこか落ち着かない様子で返事するアヤさんに、私は首を傾げる。

何故、そんなに緊張しているんだろう?と。


「アヤさんって、ランカー?レベルって、どのくらい〜?」


「そ、れは……お教え出来ません。私は『紅蓮の夜叉』の防衛を担っている、幹部なので」


「へぇ〜?『紅蓮の夜叉』って、情報管理を徹底しているんだね〜。ヘスティアお姉様はそんなの気にしなさそうなのに〜」


「……情報管理はヘスティアさんではなく、我々幹部の仕事なので」


「へぇ〜?そうなんだ〜」


 適当に相槌を打ちながら、徳正さんはやっと半透明の階段を登り終えた。

かと思えば、ちょっとした広場に腰を下ろす。胡座をかく形で。

そうしないと、自分の上に私を下ろせないから。

『いや、普通に横で寝かせてくれていいんだけど……』と苦笑する中、徳正さんは地上を見下ろす。


「ふぅ〜。結構高いね、ここ〜」


「高層マンション並の高さですからね」


 アヤさんはパチンッと指を鳴らして階段を消し去ると、代わりに天井と壁を作り出した。

これなら、どこから狙われても安全である。


「結界魔法って、意外と便利だね〜」


「極めれば、どの魔法も強いですよ。まあ、極めるまでが大変なんですが……」


「ふ〜ん?まあ、確かにそうだね〜。ところでさ」


 徳正さんはそこで言葉を切ると、真っ直ぐに前を見据えた。


「ファイアゴーレムを結界に閉じ込めたり、雷に打たれそうになったラルカを守ったりした結界師って────アヤさんだったりする〜?」


「「!?」」


 ハッと息を呑む私とアヤさんは、まじまじと徳正さんを見つめた。

すると、彼は微かに口角を上げる。


「いや、だってさ〜?俺っちの気配探知から逃れられるプレイヤーって、そうそう居ないんだよね〜。それこそ、結界師のランカーくらいじゃないと〜」


「わ、私はランカーなんて一言も……」


「確かにランカーだとは一言も言ってないけど、それだけの実力を持っていながら『ランカーじゃありません』ってのは、幾らなんでも無理があるでしょ〜」


「っ……!」


 返す言葉が見つからないのか、アヤさんは口を噤んだ。


 確かにアヤさんほどの実力があれば、徳正さんの気配探知を掻い潜ることは可能……。

『やったか・やってないか』はさておき、『出来る』というのは事実だ。


 『なるほど、それであんな態度を……』と納得する私の前で、アヤさんはクシャリと顔を歪める。


「で、でも……!!私は貴方達を助けた結界師じゃ……!」


「はい、残念〜。今更そのセリフを言っても遅いよ〜?『私はランカーなんて一言も言ってない』って、真っ先に言った時点でアウトだから〜。もし、本当に俺っち達を助けた結界師じゃないならランカー云々よりもまず、『私は貴方達の言う結界師ではありません』って言う筈でしょ〜?だから、今更取り繕っても遅いよ〜?」


「っ……!!」


 見事徳正さんの話術に嵌められたアヤさんは、悔しそうに唇を噛み締める。

が、これ以上足掻いても無駄だと悟ったのか、肩から力を抜いた。


「はぁ……そうですよ。私が貴方達を助けた結界師です……これで満足ですか?」


「ううん〜。まだだよ〜。だって、犯人を突き止めるだけなら、ここまでする必要ないも〜ん。俺っちはただ君に幾つか質問があっただけ〜」


「質問、ですか?」


「そう、質問〜」


 『どんな質問をする気だ?』と身構えるアヤさんに対し、徳正さんはニコニコと笑っている。

余裕げに振る舞う彼は、捨て猫のように怯えるアヤさんを愉快げに見つめていた。


「俺っちからの質問、答えてくれる〜?」


「……私があのとき、助けに入った結界師であることを秘密にしてくださるなら」


「いいよ〜。秘密にしてあげる〜」


「……分かりました。質問を承ります」


 おずおずと言った様子で首を縦に振るアヤさんに、徳正さんはうっそりと目を細める。

『そう来なくっちゃ』とでも言うかのように。


「んじゃ、まずは一つ目の質問〜。何でファイアゴーレムを結界内に閉じ込めていたの〜?」

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