第134話『四本目』
────それからも私達は時間と体力の許す限り、あちこち駆け回り……気づけば、ナイトタイムに差し掛かっていた。
すっかり暗くなった周囲を見回し、私は『昼間より、大分ゴーレムの数が減ったな』と考える。
そして、手元にあるマジックポーションを見下ろした。
これで四本目……。
もし私の予想通り、限界量が三本だったなら……これを飲んだ瞬間、体調を崩すだろう。
でも、とりあえずイベント終了まで持てばいいから……何とかなる、よね?
『あと二時間半くらいは持つと思いたい……』と思案する中、徳正さんはふとこたらを見る。
「ラーちゃん、どうしたの〜?マジックポーションと睨めっこ中〜?それなら、俺っちの方が得意だよ〜?」
「別に睨めっこしている訳じゃありません!」
『どういう状況ですか、それ!』とツッコミを入れつつ、私は瓶の蓋を開けた。
ええい!女は度胸だ!!一気飲みだー!
半分ヤケクソになりながら、私はマジックポーションを一気に飲み干す。
「……ぷはー!イチゴ味はやっぱり甘ったるいですね」
「あっ、それ分かる〜。やっぱり、ブドウが一番だよね〜」
「分かります。ブドウ味が一番美味し、い……」
ドクンッと大袈裟なくらい心臓の音が大きく響き、私は目を剥く。
何?これ……。
胸が苦しい……頭が痛い……気持ち悪い……息がしづらい……。
な、んか……自分の体じゃないみたい。
自身の胸元をギュッと握り締める私は、『はっ……はっ……』と短い呼吸を繰り返した。
「ラーちゃん?どうしたの〜?顔、真っ青だよ〜?具合でも悪いの〜?」
「徳正さ、ん……何でもありません。ちょっと甘ったるいイチゴ味に、吐き気を催していただけです」
マジックポーションを作ってくれたアラクネさんには申し訳ないが、イチゴ味を言い訳に使わせてもらった。
じゃないと、過保護な徳正さんに勘づかれそうだったから……。
マジックポーションの過剰摂取による体調不良だと気づいたら、徳正さんは絶対前線から退けようとする筈。
プレイヤー達の治療なんて、以ての外だ。
だから、お願い……あと二時間半だけ頑張って、私の体!
イベント終了後なら、幾らでも休ませてあげるから!
大きく深呼吸して体調不良を誤魔化す私は、ダルい体に鞭を打つ。
職業別ランキング一位の回復師のプライドにかけて、ここで治療を中断する訳にはいかなかった。
『これ以上、誰も死なせたくない!』という信念の元、私は真っ直ぐ前を見据える。
────もう後戻りは出来ない。




