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第133話『一縷の望みは打ち砕かれる』

 刻一刻と迫る終了時間に焦りを抱く中、私達は例のパーティーの元へ降り立つ。

すると、彼らは大きく目を見開いた。


「そ、空から人が……えぇ?」


「一体、どういう状況!?」


「ま、まさか私達を助けてくれたり……?」


「いや、むしろ殺されるかもしれねぇーぞ?」


「不吉なこと言わないでよ!!」


 相当混乱しているようで、彼らは人目も憚らずギャーギャーと騒ぐ。

でも、意外と元気そうで安心した。

格好はボロボロだが。

焦げた装備や焼け爛れた肌を見つめ、私はとりあえず徳正さんの腕から降りる。

と同時に、キンッと硬いものがぶつかり合う音がした。


「ラーちゃんは今取り込み中だから、邪魔しないでね〜」


 刀で受け止めたゴーレムのパンチを跳ね返し、徳正さんはヘラリと笑う。

相変わらず余裕そうな彼を前に、私は慌てて口を開いた。

そういえば細かい指示は出してなかったな、と思いながら。


「私が彼らの治療を終えるまで、周りに居るゴーレム達の牽制……いえ、討伐をお願いします」


「りょーかーい。ラーちゃんには指一本触れさせないから、安心して〜」


「はい。よろしくお願いします」


 ペコリと小さく頭を下げると、徳正さんは軽く手を振って応じた。

かと思えば、トンッと地面を蹴り上げ、宙に浮く。

そして、ゴーレムの硬い体をバラバラに切り刻んだ。修復不可能なほどに。

そのおかげで、あっさり光の粒子と化す。


「すげぇ!!ゴーレムをあんな簡単に……!」


「やっぱり、この人達は私達を助けに来てくれたのよ!」


「あのトクマサとか言う奴、強過ぎだろ……!」


「あっ!またゴーレムを倒したよ!今度は首を切り落としたみたい!」


「あれは一発KOものだな」


 まるでボクシングの試合でも観に来たような盛り上がりを見せる彼らは、キラキラと目を輝かせる。

警戒心が解けたのは何よりだが、この緊張感のなさは少し心配だ。


「皆さん、よく聞いてください。私達はあくまで貴方達の治療をしに来ただけで、助けに来た訳ではありません。治療後はまた自分達の力で、頑張って貰うことになります。私達は一切手を貸す気はありませんので」


 『貴方達の救世主じゃない』とハッキリ告げると、彼らは明らかに顔色を曇らせた。

『これでもう安心だ!』と思い込んでいたが故に、落胆を隠し切れないのだろう。

少し可哀想な気もするが、私達に彼らを保護する余裕はない。

仮に保護出来たとしても、他のプレイヤー達が『俺も』『私も』となるだけだ。

不平等を避けるためにも、ここは心を鬼にして突っぱねる必要がある。


「……そんな……」


「やっと、助かったと思ったのに……」


「上げて落とすとか、趣味わりぃ……」


「いや、勝手に『助けてもらえる!』と思い込んでいたのは私達だよ……よく考えてみれば、『助けに来ました』なんて言われてないし」


「……で、でもっ!この女の人はそうでも、戦っている男の人の方は違うかもしれないじゃん!」


 まだ一縷の望みを捨て切れない相手プレイヤー達は、何故か徳正さんに最後の望みをかける。

彼と同じパーティーメンバーである私が『助けない』と宣言したのだから、これ以上期待しても無駄なのに……。

最後の可能性に縋り付く彼らを前に、私は一先ず杖を振り翳す。


「《パーフェクトヒール・リンク》」


 そう唱えれば、彼らの体は白い光に包まれた。

塞がっていく傷口を前に、私はクッと眉間に皺を寄せる。


 っ……!この子達の最大HPって、どのくらい?結構魔力(MP)を持って行かれたんだけど……!


 胸元に手を添える私は『はぁはぁ……』と短い呼吸を繰り返しながら杖を仕舞い、ポーションを十本取り出した。

が、一気に十本も取り出したのが悪かったのか、瓶を一つ落としてしまう。

咄嗟にキャッチしようとするものの……腕にいっぱいポーションを抱えている状態のため、それは難しかった。


 不味い……!!貴重なポーションが、一本無駄になってしまう……!!


「────も〜。ラーちゃんはドジっ子だね〜」


 間一髪のところで瓶をキャッチし、徳正さんはヘラリと笑う。

これでもかというほど強風を吹かせながら。


 い、いつの間に戻ってきて……!?


「ラーちゃんの小さい腕じゃ、そんなに持ち切れないでしょ〜?ほら、貸して〜」


「あっ、ありがとうございます」


「どういたしまして〜。で、これはあの子達に渡せばいいの〜?」


「はい。このライフポーションは餞別として、他のプレイヤー達にも配っているので」


「ふ〜ん?」


 ひょいっと簡単そうにポーションを持ち上げ、徳正さんは相手プレイヤー達に差し出す。

すると、彼らは礼を言って受け取り────表情を硬くした。


「あ、あの!と、トクマサさん!」


「私達を助けてください!」


「もちろん、お礼はさせてもらいます!」


「俺達の出来ることなら、何でも言ってくれ!」


「だから、お願いします!助けてください!」


 そう言って、彼らは勢いよく頭を下げた。

プライドも何もかも、かなぐり捨てて……。

でも────ウチのメンバーの心を揺さぶるには、足りない。


「え〜?俺っちに言われても困るな〜。だって、俺っちに決定権はないも〜ん。指揮官であるラーちゃんに頼んで貰わなきゃ〜。それに」


 無情にも助けを求める手を叩き落とし、徳正さんは流れるような動作で私を抱き上げる。


「俺っちは君らの命に一ミリも興味ないから〜。正直死のうが生きようが、どうでもいい〜。ラーちゃんが治療するって言ったから、守ってあげただけ〜。それ以上でもそれ以下でもないよ〜」


「「「!?」」」


「んじゃ、俺っちはラーちゃんとデートの続きをしなくちゃいけないから〜。ばいば〜い」


 呆然として固まる彼らを置いて、徳正さんは移動を開始する。

そこに『迷い』や『躊躇い』といった言葉は、一切存在しなかった。

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