表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/315

第126話『治療と地獄絵図』

「では、これより中央大陸に閉じ込められたプレイヤーの治療を始めます。負傷者の捜索を始めてください」


 その言葉を合図に、レオンさんとリアムさんは一気にスピードを上げた。

右へ左へ視線をさまよわせ、負傷者……というか、プレイヤーを発見するなり駆け寄る。

というのも、遭遇したプレイヤーのほとんどが怪我を負っていたから。

『これは思ったより悪い状況かも……』と顎に手を当て、考え込む。

その間も、レオンさんとリアムさんはずっと周辺を捜索していた。


「あっ、あそこのパーティー全員怪我しているね。回復役の神官は気絶しているみたいだよ☆」


「あっちには壊滅寸前のパーティーが居るぜ?五人中四人が気を失ってやがる。唯一意識があるプレイヤーも死にかけだし、あれは数分もすれば壊滅するな」


 それぞれ右と左を指さすリアムさんとレオンさんに、私は目を剥く。

だって、さっきの治療からまだ二分も経っていないから。

『明らかにペースが早すぎる……』と思案しつつ、私は顔を上げた。


「リアムさんは右方向のパーティーに、ポーションの配布を行ってください。ついでに保護も。レオンさんは私と一緒に、壊滅寸前のパーティーの元へ向かいましょう。私が治療を終えるまで、ゴーレムの牽制と討伐をお願いします」


「「了解(したよ☆)」」


 間髪容れずに頷いた二人は私をまるで荷物のように受け渡し、散開する。

正直、『なんだ?この扱いは……』と思うものの……現状を考えると、何も言えなかった。


 それにしても、想像以上の地獄絵図っぷりだな。

イベント一日目の白虎の街も酷かったけど、今の状況とは比べ物にもならない……。


 『こっちは退路も作れないからね』と肩を落とす中、レオンさんは不意を足を止める。


「着いたぞ!」


 そう言って私をそっと地面に下ろすと、レオンさんは直ぐさまナイフを構えた。

その直後、キンッと硬いものがぶつかり合う音が聞こえる。

どうやら、ゴーレムと一戦交えているらしい。


 レオンさんは序盤の方で体力を使い果たしている。

出来るだけ、早く治療を終えなきゃ。


 私は目の前で倒れている四人のプレイヤーと、武器を構えたまま気絶している一人のプレイヤーに杖を翳した。


「《パーフェクトヒール・リンク》」


 普段は絶対使わない範囲治癒を施し、私はクッと眉間に皺を寄せる。

これは魔力(MP)の消費が馬鹿にならないから。

でも、スピードを重視しなければならない状況を考えると、これが最善だった。


「とりあえず、この子達を起こさないと……」


 私達の保護やサポートはあくまで一時的なもの。

治療が終われば、用はない……というか、治療後の面倒まで見れないのだ。

そんなことをしていたらキリがない上、私達にも危険が及ぶから。

申し訳ないけど、自分達の力で頑張ってもらうしかない。


 私は立ったまま気絶しているプレイヤーに手を伸ばし、軽く頬を叩く。


「起きてください。そのまま眠り続ければ、貴方も貴方のお仲間も死んでしまいますよ。せっかく完治したのに、いいんですか?」


「ん……」


 ここ最近きちんと休めていないのか、相手はなかなか目を開けない。


「こうなったら、仕方ない……グーで行きます」


 一向に起きる気配がない相手に痺れを切らし、私は手を握り締めた。

と同時に、相手の頬を殴りつける。


「ん……んごっ!?な、なんだ!?」


 ようやく眠りから覚めたプレイヤーは、困惑気味に辺りを見回した。


「な、何がどうなってるんだ……?目覚めたら怪我は治っているし、変な女に殴られるし……」


「はぁ……私が貴方達の怪我を治療したんですよ。ほら、お仲間さんの怪我も治っているでしょう?」


「仲間……?あっ!そうだ!あいつらは……!」


 仲間の存在を完全に忘れていたらしい男性は、ハッとしたように足元を見つめる。

すると、そこには必死で守った仲間達の姿が。


「貴方が仲間を見捨てず、守り通したから今彼らは生きているんです。貴方はまさに英雄ですよ」


「……それを言うなら、アンタだってそうだろ。アンタが危険を冒してまで、俺達の治療に当たってくれなかったら俺達のパーティーは壊滅していた。礼を言う────本当にありがとう」


 照れ臭そうに頬を掻きながらも、男性はしっかりと感謝の意を表した。

素直で優しい人柄が垣間見える彼の態度に、私は頬を緩める。

『治して良かったな』と心底思いながら。


「さあ、のんびりしている暇はありませんよ。私は次の患者の元へ行かないといけませんから。さっさと仲間達を起こして、体制を立て直してください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ