第125話『私達がこれからやること』
凄まじい破壊音と共に粉砕されたゴーレムの腕を前に、リアムさんは私を小脇に抱えて走り出した。
レオンさんも、そのあとに続く。
最悪だ……最悪すぎる。
だって、残りのゴーレム約1000体に対し、こちらの戦力は200……いや、150居ればいい方。
しかも、その中に猛者と呼ばれるプレイヤーは数人しか居ないだろう。
もしかしたら、経験値ほしさに初心者プレイヤーだって混ざっているかもしれない。
体制を整えるので精一杯なプレイヤー達を見回し、私は頭を抱え込む。
────と、ここであちこちから炎や雪が舞い上がった。
早くも地獄絵図と化す中央大陸を前に、私は目頭を押さえる。
「これはもう……イベントクリアとか、そんな次元の話じゃありませんね。ここから先は生存率の問題です」
「確かにそうだね。イベントクリアより、人命を優先した方がいいかもしれない」
「それより、ラルカ達は無事なのか?いや、あいつらのことだから心配はいらないと思うが……念のため、生存確認しといた方が良いんじゃねぇーか?」
「あっ、そうですね。確認してみます」
コクリと頷いた私は、ゲーム内ディスプレイを起動させる。
そして、『虐殺の紅月』のグループチャットを開いた。
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No.7:先程大陸を繋げる橋を破壊され、ゴーレムも本格的に動き出した訳ですが、皆さんご無事ですか?
No.7:ちなみに、私とリアムさんとレオンさんは無事です
No.2:俺っち達も無事だよ〜
No.6:全然平気ー!怪我もしてないよー!
No.4:No.1と僕も無傷だ
No.1:とりあえず、全員無事みたいだな
No.3:あらあら、大陸を繋げる橋を破壊されちゃったの?
No.5:私達の居ないところで、そんなことが……
No.5:あっ!でも、安心してください!必ず直ぐに駆けつけるので!
No.3:皆、それまで持ち堪えてちょうだいね
No.1:じゃあ、俺達はNo.3とNo.5が駆け付ける前にゴーレムを一掃するか
No.6:それ、良いねー!
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さすがは最強のPK集団とでも言うべきか、呑気に勝負事を始めている。
こういう緊張感のなさは、実に『虐殺の紅月』らしかった。
「ウチのパーティーメンバーは全員無事です」
「おお!さすがだね☆」
「だな。で、俺達はこれからどうすんだ?ゴーレムの討伐に加わ……おっと」
『加わるのか?』と続ける筈だったであろう言葉を呑み込み、レオンさんは足元に飛んで来た弓矢を避ける。
どうやら、近くでゴーレムと戦っていたプレイヤーの手元が狂ったらしい。
『どうしよう!?』と慌てるプレイヤーに、レオンさんは手を振り無事を伝えた。
かと思えば、こちらに目を向ける。
「悪い。話を中断しちまった。それで、これから俺達はどうすればいいんだ?討伐組に加わるか?それとも、安全重視でこのまま逃げ回るか?」
飛んできた弓矢のことを全く気にしていないかのように振る舞うレオンさんは、コテリと首を傾げる。
『この人もちゃんとした実力者なんだよな』と痛感する中、私は顔を上げた。
「いえ、私達がこれからやる事はゴーレムの討伐でも、逃亡でもありません────プレイヤーの治療です」
さっきも言ったように、ここから先は生存率の問題になる。
少しでも生き残れるプレイヤーを増やすよう、尽力する必要があった。
本音を言うなら、仲間にピッタリくっ付いて彼らの治療だけに専念したいんだけどね。
でも、私は『パーフェクトヒール』を唯一使える回復師だから。
負傷した人々を見て見ぬふりは出来ない。
「レオンさんとリアムさんにはポーションの配布とプレイヤー達の保護、それから私の護衛をお願いします。場合によっては、ゴーレムの牽制や討伐もやることになりますが……大丈夫ですか?」
敢えて断る選択肢を残し、私は二人の反応を窺う。
『今回は冗談抜きで危険な任務になる』と考える私を前に、レオンさんとリアムさんは明るく笑った。
「俺達がラミエルの頼みを断る訳ないだろ。それにゴーレムと戦うのが怖いなら、とっくにリタイアしている」
「僕は君に鎖を付けられた猛獣だからね。ご主人様の言うことなら、何でも聞くさ☆」
「レオンさん、リアムさん……ありがとうございます!」
快く引き受けてくれた二人に、私は小さく頭を下げる。
小脇に担がれながらなので少し格好悪いが、そんなの気にならなかった。
『二人とチームを組んで良かった』と頬を緩めつつ、私は前を見据える。
「では、これより中央大陸に閉じ込められたプレイヤーの治療を始めます。負傷者の捜索を始めてください」




