表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/315

第10話『罠の森』

 この森はNo.5さんの私有地……つまり、この罠を設置したのはNo.5さん本人となる。

恐らく、不法侵入者を追い払うための罠なんだろうけど……これって、


「殺す気満々ですよね!?」


「まあ、一応No.5も『虐殺の紅月』の一員だからね〜」


 確かにそうだけど……普通こんな罠張る!?

危険すぎて、何も言えな……あっ、もしかして────徳正さんがこの森に入るのを渋ったのは、罠のことを知っていたから?

それなら、納得だけど……これから、一体どうすれば?

『グリュプスの笛』はもう使えないし、魔法使いでもない私達じゃ空を飛べないし……。


「はぁ……とりあえず入っちゃったのは仕方ないし、進むしかなさそうだね〜」


 諦めたように溜め息を零す徳正さんは、罠の森を進むことに決めたようだ。

やれやれと肩を竦める彼の前で、私はコテリと首を傾げる。


「あの、引き返すことって出来ないんですか?」


「ん?あ〜……それは後ろを見てみれば分かるよ〜」


 後ろ……?どういうことだろう?


 訳も分からず、徳正さんの肩越しに後ろを振り返るが……特に変わった様子はない。

引き返す分には、問題ないように見える。

『何をそんなに警戒しているんだ?』と疑問に思う中、一瞬だけ何かがキラッと光ったような気がした。


 ん?なんだろう?今の……。


 普段なら『気の所為だろう』と無視しそうだが、何故だか物凄く気になる。

直感にも似た違和感に誘われるまま、私は目を凝らした。


「!?……これって!!」


「あっ、見えた〜?それは────蜘蛛糸だよ」


 太陽に反射して光る紐状のものを一瞥し、徳正さんは歩き出す。

私をお姫様抱っこした状態で……。


「その蜘蛛糸は蜘蛛の神(アトラク・ナクア)討伐クエストで獲得出来る蜘蛛糸の劣化バージョンで、No.5が発明したものの一つだよ〜。現実世界で言うワイヤーに近いかな〜?切れ味抜群で強度も高いから、気をつけてね〜。ま、本家の蜘蛛糸の方が何倍もやばいけど〜」


「じゃ、じゃあ、下手したらあの蜘蛛糸に体を切り刻まれるってことですか!?」


「そゆこと〜。だから、気をつけて〜」


「き、斬ることって出来ないんですか!?」


「ん〜?No.5が発明した劣化バージョンの蜘蛛糸は斬ることが出来るけど〜……どう頑張っても刃毀れしちゃうから出来れば、やりたくないかな〜」


 なっ……!?刃毀れ!?徳正さんの剣が!?


 徳正さんの所有する日本刀は、ゲーム内に一本しか存在しない妖刀マサムネ。

あらゆる物を切り裂き、相手の血を啜る伝説の刀だ。


 そんな名刀ですら、手を焼くなんて……信じられない。

それに徳正さんは『劣化バージョンの蜘蛛糸は』と言った。

言葉の裏を返せば、本家の方の蜘蛛糸は徳正さんでも斬れないってこと。


 『No.5さんって、一体何者なの……?』と首を傾げつつ、私はチラッと後ろを振り返る。


「あの……ちなみになんですけど、その蜘蛛の神(アトラク・ナクア)討伐クエストって……」


「ん?あ〜……そのクエストはもう受けられないよ〜。隠れクエストで誰かがクリアしたら、もう二度と現れないやつだから〜」


「そうなんですか……良かった」


 そのチート武器を他の人も持っていたら、一大事だもん。

使い手の力量にもよるけど、私達の脅威になるかもしれない。


「ま、とりあえず、ラーちゃんは俺っちに抱っこされててね〜」


「えっ?でも……!」


「『でも』じゃなーい!この森って、普通に歩いているだけでもトラップ発動するから、正直ラーちゃんには何もして欲しくないんだよ〜。それに俺っちなら────」


 そこで言葉を切ると、徳正さんは音速を超える反応速度で飛んできた斧を躱した。


「────トラップが発動しても、余裕で対処出来るから〜」


 木の幹に突き刺さる斧を一瞥し、徳正さんはヘラリと笑う。

が、私はそれどころじゃなかった。


 お、斧なんて一体どこから……!?全然気づかなかった!


 気配探知に引っ掛からない無機物だからか、私は全く反応出来なかった。

『徳正さんに庇ってもらってなかったら死んでいたかも』と考え、冷や汗を流す。


 ここは大人しく、徳正さんの指示に従っておいた方が良さそう。

私よりこの森に詳しいだろうし、危機回避能力も備わっている筈だから。

ここで『自分で歩きます!』と意地を張るのは、間違っていた。


「分かりました。あとのことは、徳正さんに任せます」


「ハハッ!さすが、ラーちゃん!話が早くて助かる〜」


 真後ろから物凄いスピードで転がってくる大玉を軽い跳躍で躱し、徳正さんは再び歩き出す。

全く緊張感を感じさせない彼の態度に、私は少しだけホッとした。


 徳正さんが居れば、きっと大丈夫。

仮にダメージを受けたとしても、即死でなければ私の方で充分対処出来る。

罠の数や種類を把握出来ていないのが痛いけど、それも何とかなるだろう。


 ────そう悠長に構えていたのが、いけなかったのかもしれない。


「な、なっ……!?何で……!?」


「ありゃりゃ〜。これはなかなか凄いね〜」


 『あと数メートルで森を抜ける!』というところで、“それ”は突然現れた。

罠なんか比べ物にならないほど強大な敵を前に、私は顔色を変える。


「何で────ダンジョンの魔物(モンスター)がここに……!?」


 ライオンの頭に山羊の胴体、それから毒蛇の尻尾を持つ魔物(モンスター)────キマイラ。

キマイラはウエストダンジョンの第二十九階層に現れる、中層魔物(モンスター)だった。

炎を吹き、毒を撒き、鋭い牙で相手を翻弄する奴は本来大規模パーティーを組んで倒す相手。

たった二人で倒せるほど、弱い魔物(モンスター)じゃない。


「いやぁ、No.5やってくれたねぇ……。まさか魔物(モンスター)を番犬代わりに使うなんて……No.3が協力したのかな〜?」


「そんなこと言っている場合ですか!?早く逃げないと!!」


「逃げるって言っても、ここらへん罠だらけだよ〜?」


「じゃあ、どうしろって言うんですか!?まさか、倒すなんて言いま、せん……よね?」


 セレンディバイトの瞳を妖しく細める徳正さんに、私は頬を引き攣らせる。


 い、嫌な予感がする……だって、好戦的な徳正さんなら、絶対に────


「────倒すに決まってるでしょ〜」


 当然のようにそう宣言した徳正さんに、私は頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ