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第106話『宝の持ち腐れ』

「皆さん、殺さない程度に遊んであげてください────さあ、狩りの時間です!」


 その言葉を合図に、血に飢えたウチの猛獣たちは嬉々として駆け出した。

愛用の武器片手に武装した物取り集団へ突っ込んでいき、狩猟本能を剥き出しにする。


「やったー!久々のPKだー!」


「いや、PKはダメだからね〜?殺したら、ラーちゃんにガッツリ怒られるよ〜?」


『ラミエルも怒るだろうが、一番激怒するのはお頭だと思うぞ。お頭に半殺しにされたくなければ、PKは諦めるんだな』


「相手もかなりの手練なのに、よくPKしようなんて考えられるな」


「シムナ達はチート並みの強さを持っているからね☆相手を雑魚認定しているのかもしれない」


 それぞれ敵陣に突っ込んでいった猛獣たちは、武装した物取り集団を一人一人確実に仕留めていく。

相手もかなりの手練のためレオンさんとリアムさんは少し苦しそうだが、三馬鹿は余裕綽々。

作業ゲーのように、敵を切り伏せて行った。


 わぁ……シムナさんが満面の笑みで、敵の手首を折っている〜……。

やってることは拷問以外の何ものでもないのに、何であんなに生き生き……というか、ニコニコ(?)しているんだか……。

まあ、PKはしていないようだし、好きにさせておこう。


 『たまの息抜きは必要だもんね』と思いつつ、完全にストレス発散の道具へと成り下がった物取り集団を眺める。


「わ、悪かった!謝るから、許し……ぶふっ!」


「え?なんてー?ごめーん、聞こえなかったー!」


 『謝るから、許してくれ』と懇願する敵の男に、シムナさんは容赦なく回し蹴りをお見舞いした。


「な、何でこんなに強いんだよ……!?俺達の方が、人数も多い筈なのに……ぐはっ!」


「さあ?何でだろうね〜?君らが弱過ぎるからじゃな〜い?」


 『刀を抜くほどじゃなかったよね〜』と言い、徳正さんはローブ男に鳩尾を決める。


「お、お前らチーターだろ!?運営に通報してやるからな!!」


『馬鹿か?お前は……仮に僕らがチーターだったとして、運営の現状を考えると通報しても意味ないだろ』


「た、確かに……じゃないくて!チートを使っていることが、問題なん……ぶはっ!」


 FROの現状をまるで理解していない馬鹿な大男に、ラルカさんは呆れながら両足を切り裂いた。


「なっ……!?狂戦士(バーサーカー)なんて聞いてねぇーよ!!ずりぃーだろ、それ!!」


「ランダムで決められた職業に、文句を言われてもなぁ……まあ、とりあえず眠っておけ────狂戦士(バーサーカー)化5%……|《狂拳突き》」


「うぁっ……!?」


 困ったような表情を浮かべるレオンさんから強烈な腹パンを食らい、魔法使いの男は蹲る。


「お、お前は確か『紅蓮の夜叉』幹部候補の……!?」


「おや?僕のことを知っているのかい?光栄だね。また機会があれば、じっくり話そう────|《愛の鞭》」


「いっ……!?」


 神官の男性は思い切り背中を鞭で叩かれ、痛みに顔を歪めた。

半泣きになっている彼を前に、私は苦笑を浮かべる。


 私の出る幕はなさそうだなぁ。

だって、三十人近く居た敵はほとんど気絶しちゃってるから……まだ意識を保っているのは三、四人程度。

ここまで圧勝だと、いっそ清々しい。


 血だらけで地面に転がる物取り集団を見下ろし、私は小さく肩を竦めた。

その瞬間────地面に転がっていた敵の一人が、突然ムクッと起き上がる。

と同時に、私の方へ全力疾走してきた。


 ん?えっ……?何!?


「こ、この女の命が惜しければ今すぐ攻撃をやめて、俺達に降伏しろ!!」


 素晴らしい身のこなしとスピードでやってきた敵の男は、何を思ったのか私の首筋に短剣を突きつける。

所謂、人質というやつだ。

まあ、その手は若干震えているけど。

この交渉が失敗した時のことを考え、怯えているらしい。


 他のプレイヤーと比べ、怪我は少ない。ということは早々に私達の実力を見極め、気絶したフリをしていたのか。

逆転するチャンスを狙うために。


 『この人、なかなかずる賢いなぁ』と感心し、私は一つ息を吐いた。

宝の持ち腐れのような気がしてならなくて。

いい組織に所属していれば、間違いなく大活躍出来ただろうから。


「なーに?こいつー!ラミエルを人質に取るとか、馬鹿なのー?あははっ!殺していーい?」


『落ち着け、シムナ。あの男に人を殺せる度胸はない。心配せずとも、ラミエルを殺したりしないさ』


「ん〜……とりあえずさ、俺っち達の大切なお姫様、離してくれな〜い?」


「姫君に危害を加えるのは、勘弁しておくれ。ラミエルを傷付けられたら、僕はきっと君を殺してしまう」


「ラミエル、すまん!ちゃんと気絶したか、確認しておくべきだった!」


 『倒れたから、もういいと思って……!』と零し、レオンさんは両手を合わせる。

申し訳ないと言葉や態度で表す彼を前に、私は小さく首を横に振った。

いざとなれば、徳正さん達が敵を瞬殺してくれるため特に不安はない。

ただ、PK以外の手段を取りたいなと考えているだけ。

『問題は私の生死じゃなくて、反撃方法』と思案し、私は愛用の武器をこっそり取り出す。

『よし、バレてないな』と確信するのと同時に、敵の男は私を連れて二歩下がった。

かと思えば、短剣を徳正さん達に向け、『く、来るなっ!』と叫ぶ。


 いや、ウチの子達は一歩も動いてないけどね……。


 敵の男の言動に内心ツッコミを入れながら、私は愛用の武器────毒針を構えた。

そして男の腕に針を刺すと、彼は金縛りにでも遭ったかのようにピクリとも動かなくなる。


「っ……!?」


「大丈夫ですよ、ただの神経毒です。死にはしません。まあ、しばらくは指一本動かせませんが」


「!?」


 簡潔且つ丁寧に説明を施すと、男性は大きく目を見開いた。

ギョッとしたような表情を浮かべる彼の前で、私はニッコリと微笑む。


「大丈夫ですよ。ここら辺にもうゴーレムは居ないようなので。襲われる心配はありません。六時間もすれば、毒の効果は切れますし。それまで、きっちり頭を冷やしておいてください」


 硬直する敵の腕からあっさりと抜け出し、私は徳正さん達の元へ駆け寄った。

『大丈夫?』と尋ねてくるチームメンバーに笑顔で頷きながら、私は後ろを振り返る。


「それと────アホしか居ないチームなんて、さっさと捨てた方がいいですよ。貴方ほどの実力があれば、どのギルドも喜んで受け入れてくれるでしょう。そこら辺のチンピラにしておくには、惜しい人材です」


「!」


 ハッとしたように息を呑む敵の男に、私は軽く会釈してから猛獣たちの背中を押した。

『早く移動しますよ』と。

このまま、ここに居たら敵の男を殺しそうだったから。


「さあ、皆さん準備はいいですが?出発しますよ!」

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