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第104話『イベント一日目終了』

 全く……無茶苦茶なことを考えるな、ウチの三馬鹿は。


 次の目的地に向かいながら内心文句を垂れる私は、ジロリと徳正さんを睨みつける。

だって、グリフォンの背中から飛び降りて単騎討伐なんて……いくらなんでも危険すぎるから。

今回は何とか軽い火傷で済んだものの、今後も上手くいく保証はなかった。

『今後は絶対、三馬鹿に戦術を委ねない』と決意する中────時刻は四時を回り、ナイトタイムが終了した。


「一日目、終了したんだ……」


 満天の青空を見上げ、私はそう呟いた。

と同時に、通知音が鳴り響く。


 これは……タイミングからして、『箱庭』だろうな。


 『あー、見たくない』と思いつつも、放置する訳にはいかないため、渋々ゲーム内ディスプレイを起動した。

鬱々とした気持ちで画面を操作し、メールを開く。


『FROに閉じ込められたプレイヤーの皆さん、イベント一日目お疲れ様でした!

皆さんの活躍は私達の予想以上です!

見ているこっちまで、ハラハラするような激しいバトルを繰り広げていましたね!今後も、手に汗握る戦いを期待しています!

それでは、本題に移りましょうか!

イベント一日目の詳しい結果は、以下の通りです


現時点での巨大ゴーレムの討伐数→899(体)


現時点でのプレイヤーの死亡人数→81(人)


私達の予想に反して、一日目のゴーレムの討伐数は非常に多く、またプレイヤーの死亡人数は極めて低かったです!

安全区域を消したにも拘わらず、死亡者は100人以下だなんて!素晴らしいとしか言いようがありません!

さすがはFROプレイヤーの皆さんです!これからの活躍にも期待していますね!

ではでは、引き続き巨大ゴーレム討伐イベントをお楽しみください!』


 相変わらず人の神経を逆撫でするのが大好きな『箱庭』に、私は苛立ちを覚える。


「っ……!!人の命を玩具みたいに弄んで……!!本当に最低!!」


 フツフツと沸き上がる怒りを抑え切れず、私は強く手を握り締めた。

すると、手のひらからツーッと赤い血が零れる。

どうやら、爪で切ってしまったようだ。

でも、力を緩めることが出来なくて……ひたすら、握り締める。


「ラーちゃん、どうしたの?お手手、傷ついちゃうよ?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる徳正さんは、『痛いでしょ?』と眉尻を下げた。

恐らく、まだあのメールを読んでいないのだろう。

『移動中だもんね……』と思いつつ、私はどう答えようか迷う。


「遠慮はいらないよ、ラーちゃん」


「!」


「話したくないなら話は別だけど、そうじゃないなら……俺っちに気を使っているなら、話してほしいな。ラーちゃんの痛みも苦しみも全部、分かってあげたいから」


 『まあ、話すだけじゃ楽になれないかもだけど』と苦笑いする徳正さんに、私は首を横に振る。

誰かに話すだけで、心は案外軽くなるから。


「あまり気持ちのいい話ではありませんが、いずれ徳正さんも知ることになると思うので話しますね。実は────」


 『箱庭』から届いたメールのことを話し、私はポロポロと涙を零す。

だって、あまりにも悔しくて……人の生死を数字でしか理解しない彼らが、憎かった。

『彼らに人の心はないのか……』と嘆く中、徳正さんは私の拳を掴み、やんわり解く。

すると、血でベットリ濡れた手のひらが見えた。


「ラーちゃんの気持ちは、分かるよ?怒るのも、仕方ないと思う。でもね……自分の体を傷付けちゃダメだよ」


「でも……何かを強く握り締めていないと、落ち着かなくて……」


 若干鼻声になりつつも反論し、私は駄々っ子みたいに首を振る。

───と、ここで手のひらの傷は癒えた。

回復師(ヒーラー)は他のプレイヤーより、自己治癒能力に優れているから。

まあ、治ったからといって流れた血が消える訳ではないが……。

真っ赤に染まったままの皮膚を前に、私は再び手を握り込もうとする。

が、徳正さんに力ずくで止められた。


「ラーちゃん、自分の体を傷つけるのはダメだよ。それは絶対、許さない。だから────代わりに、俺っちの手を握ってて」


 そう言って、徳正さんはそっと手を重ねる。

私の血で汚れることも厭わず。


「チームメンバーならダメージが入ることはないし、俺っちの防御力なら傷を負うこともない。だから、好きなだけ握ってていいよ。俺っちとしては役得だし。ねっ?」


 私の懸念点を先に潰し、逃げ道を塞いだ徳正さんはギュッと手を握る。

優しく細められたセレンディバイトの瞳は、『迷惑なんて、これぽっちも思っていないよ』と言っていた。


 本当に狡いな、徳正さんって……ここまで言われたら、断れないよ。


「……ありがとうございます、徳正さん」


「ふふっ。どういたしまして〜」


 『これくらいお易い御用だよ〜』と述べる徳正さんに、私は頬を緩める。

そして、自分より遥かに大きい彼の手をギュッと握り返した。

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