第103話『三馬鹿の考えた作戦《徳正 side》』
身動きの封じられたファイアゴーレム二体を前に、俺は妖刀マサムネに己の影を纏わせる。
これは『影纏い』という影魔法の一種で、本来は術者本人の体に使うことが多いのだが、形あるものなら何でも使用可能だ。
で、何故こんな技を使っているのかと言うと────愛刀を守るため。
全てを呑み込む影は相手の攻撃も喰らうので、傷つく心配がないのだ。
ラーちゃんはきっと、『そんな使い方、勿体ない!』と言うだろうけど、これだけは譲れない。
ずっと大事に大事に使ってきた愛刀だからね。
闇より深い黒を纏った妖刀マサムネに目を向け、俺はスッと目を細める。
『今回も頼むよ〜』と呟きながら。
「徳正ー!準備出来たー?」
「ちょうど今、終わったところだよ〜ん」
『なら、早く命綱を装着しろ。シムナはいつでも竜巻を起こせるよう、武器を持って待機だ』
「「はーい」」
シムナさんと共に返事する俺は、ラルカさんから綱を受け取る。
そして、ソレを自身の腰周りに巻き付けた。
俺っち達の考えた作戦は、こうだ。
まず、シムナがさっきと同じ要領で巨大竜巻を作り、死にかけのファイアゴーレムを完全に葬る。
次に俺っちがグリフォンの背中から降り、残り一体のファイアゴーレムを一発KO。
ちなみにこの命綱は、万が一のために用意したものだ。
ファイアゴーレムをやり損ねた場合、俺っちは火の海にダイブすることになるからね〜。
まあ、ヘマはしないけど〜。
腰に巻いた綱をギュッと縛り、俺は前を向いた。
「はい、命綱の準備完了〜。俺っちはいつでも行けるよ〜」
「僕もー!」
『よし、なら早速作戦に移ろう。さっさと終わらせるぞ』
「「りょーかーい!」」
戦闘組の臨時指揮官を務めるラルカの指示で、俺とシムナはそれぞれ武器を構えた。
柔らかい月明かりを受けて艶を出す銀の斧と、業火の炎に当てられて闇を深める漆黒の刀がそれぞれの獲物を狙う。
────と、ここでラルカがファイアゴーレムとの距離を詰めた。
その途端、周囲の温度や熱気は一気に上がる。
あっつ〜。熱中症になりそ〜。
パタパタと団扇のように手を動かし、俺は『うげぇ……』と顔を顰めた。
その瞬間────シムナか動き出す。
「んじゃ、行っくよー!」
シムナはそう声を掛けると、銀の斧を思い切り振るう。
円を描くように、グルグルと。
『よしよし、その調子』と傍から見守っていると、シムナは────無風状態だったこの場に竜巻を巻き起こした。
力技で作り上げたため少し不安定だが、威力は充分。
空の覇者とも言われるグリフォンが吹き飛ばされそうなくらいには。
シムナはソレを『えいっ!』という掛け声と共に、銀の斧で押す。
すると、巨大な竜巻はファイアゴーレム目指して動き出した。
いやぁ、何度見ても不思議だね〜。何でこの巨大竜巻を斧で押せるんだか〜。
『普通は斧が砕けるんだけど』と肩を竦める中、竜巻は負傷した方のゴーレムに直撃した。
と同時に、クマのぬいぐるみは姿を消す。
恐らく、アイテムボックスに仕舞われたのだろう。
「たぁーまやー!」
『いや、それは打ち上げ花火の時に言うセリフだ』
すかさずツッコミを入れるラルカは、不意に手綱を強く握り締める。
その瞬間、凄まじい衝撃波が俺達を襲った。
おかげで、十メートルほど吹き飛ばされてしまう。
『さすがにグリフォンじゃ、耐えられないか』と考える中、ラルカは上手に向かい風を躱し、上空へ退避する。
────と、ここで負傷した方のファイアゴーレムは光の粒子に変わった。
その影響か、大地に広がる火の海の勢いが少し弱まる。
さて、ここからは俺っちの出番かな〜?
『待ちくたびれちゃったよ』と思いつつ、俺は地上を見下ろした。
すると、直ぐにファイアゴーレムの頭が目に入る。
どうやら、敵の真上を取ったようだ。
実にラルカらしい、強気な位置取りである。
「んじゃ、命綱よろしくね〜?行ってきま〜す」
ヒラヒラと手を振って、俺は一思いに飛び降りた。
さてさて〜、ラーちゃん達も暇している頃だろうし、ちゃちゃっとやっちゃおっか〜!
俺は闇に染まった愛刀を構えると────ファイアゴーレムの頭のてっぺんから股にかけて、真っ二つにする。たったの一振りで。
そして不要になった命綱を切り捨てながら、地面に着地した。
案の定とでも言うべきか、ファイアゴーレムは既に光の粒子と化している。
そのため、大地を包み込む火の海も瞬く間に消えていった。
あちちっ……ファイアゴーレムを倒すとき、もうちょい慎重に切っとけば良かった〜。
火傷しちゃったよ〜。後でラーちゃんに怒られるかな〜?
ファイアゴーレムを討伐したことよりも、お姫様のご機嫌が気に掛かり、俺は『あちゃ〜』と零す。
まあ、ラーちゃんの説教ならいっか〜。怒っているところも、凄く可愛いし〜。
それに久々にラーちゃんの治療を受けられるからね〜。
なんだか、得した気分だよ〜。
ドMの才能に目覚めつつある俺は、こちらへ駆け寄ってくるラーちゃん達を見つめ、微かに頬を緩めた。




