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第9話『イベント限定アイテム』

「うわぁぁああああああああぁぁぁ!?」


 目の前に広がるのは、黒い空と灰色の雲。そして、足元には小さくなった森が……。

この状況を簡潔に述べると────私は今、空を飛んでいる。

徳正さんと共に、グリフォンという生物に跨って。


 鷹のような上半身とライオンのような下半身を持つこの生物は、牛の1.5倍くらいの大きさでかなりデカかった。


「さ、さっきも聞きましたけど!これって、去年開催されたイベントの限定アイテムですよね!?」


「うん、そうだよ〜。結構前にPKした奴等が、『グリュプスの笛』を持っててさ〜」


 ────『グリュプスの笛』とは、移動系アイテムの一種でグリフォンを召喚・操作することが出来る。

効果内容はそれほど凄くないが、イベント順位20位以上のプレイヤーしか持っていないためかなり貴重だった。


 あのイベントは特に人気で、私達『サムヒーロー』も参加したんだけど、上位に食い込むが出来なかったんだよね……。

確か結果は25位だったかな?カインが凄く悔しがってたから、そのイベントのことはよく覚えている。


「この笛って一日一回しか使えない上に最大移動距離は百キロ程度だから今まで使ってこなかったんだけど、転移系のアイテムに制限が掛かっちゃったじゃん〜?だから、この笛の出番かな〜?って」


 『移動系アイテムには制限ないみたいだから〜』と述べる徳正さんに、私は思わず感心してしまう。

目の付け所がいいな、と。

『制限されたのはあくまで転移系だけだもんね』と思いつつ、私は後ろに居る徳正さんを振り返る。


「それにしても、こんなレアアイテムよく手に入りましたね。PKして相手から奪えるものはランダムな上、量だって多くないのに……」


 PKとは、本来のデスペナルティにより没収されるアイテムをコンピューター(運営)の代わりに貰い受けるというもの。

なので、ぶっちゃけ普通にドロップアイテムを集める方がいい。

ただ、やっぱり────ごく稀に当たりを引くこともあるため、ギャンブル感覚でPKをするプレイヤーも居るみたい。


「ハハッ!確かに〜。今、考えてみれば結構ついてたかも〜」


 カラカラと笑う徳正さんは、『グリュプスの笛』ゲットをラッキー程度にしか思っていない。

『徳正さんらしいな』と苦笑していると、彼は手綱を上下に振った。

その瞬間、グリフォンのスピードが上がる。

おかげで、私はまともに目も開けられなかった。


「と、徳正さん……!」


「ハハッ!ごめんごめん〜。でも、急がないと夜更けまでに目的地へ辿り着けないよ〜」


「……分かりましたよ、もう!」


 目的地に早く辿り着くためだと言われれば、こっちはもう何も言えなくなってしまう。

私達の当面の目的は、No.5さんの回収とリユニオンタウンの集合だから。

それにカインの掲示板を見て襲ってきたあの人達のせいで、思ったより時間を食ってしまった。


「ふふっ。ラーちゃんは理解が早くて助かるよ〜」


 そういうが早いか、徳正さんは更にスピードを上げる。


 く、首がもげる……!どれだけ、飛ばすつもりなの!?


 回復師(ヒーラー)ということもあり体幹の弱い私は、我慢出来ず徳正さんに寄り掛かった。

すると、後ろから鼻歌が聞こえる。

『もしや、これが目的……!?』と疑うものの、強風のせいで喋ることも出来なくて……私はひたすら無言を貫いた。

早く着くことを願いながら、耐えること数時間────ついに目的地の前に到着。

鬱蒼と生い茂る草木を前に、私は思わず目を見開く。

だって、ここら一帯全てがNo.5さんの私有地だから。

『ひ、広すぎ……!』と動揺しつつ顔を上げると、大きな城が目に入った。

炭のように黒いソレは、遠目でも分かるほど目立つ外装をしている。


 徳正さん曰く、あの城がNo.5さんのラボらしい。

いつもあそこに閉じこもって、作業をしているとのこと。


「いやぁ、それにしても惜しかったねぇ……あともう少しでラボだったのに〜」


「そうですね。ラボに辿り着く前に『グリュプスの笛』の最大移動距離に達してしまったのは、非常に残念です」


 そう、本来の予定であればグリフォンに乗って城の前まで行くつもりだった。

が、こちらの計算ミスにより、予定変更を強いられた。


 まあ、城はもうすぐそこだし、この不気味な森さえ抜けてしまえばいい話だ。

恐らく、一時間も掛からないだろう。


「徳正さん、早く行きましょう」


「え、え〜?でも、それは……」


 珍しく歯切れの悪い返事をする徳正さんはポリポリと頬を掻き、目を泳がせる。

ここまで来ておきながら、徳正さんが進むのを渋るなんて珍しい……いや、初めてかもしれない。

いつもなら、『よし!行こ〜!』って軽いノリで進んでいるから。


 この森が不気味だから、行きたくないんだろうか?

実は意外と怖がり?


「じゃあ、徳正さんはそこに居てください。私がNo.5さんを連れて戻ってくるので」


「えっ?あっ、ちょっ!?ラーちゃん、ストップ!!」


 珍しく大声を上げる徳正さんは、不気味な森へ足を踏み入れた私の元へ全力疾走!

そして、私を抱き上げた。


「え、ええ!?」


 早すぎて残像すら見えず困惑していると、徳正さんは急に腰をクネらせる。

その瞬間、どこかから矢が放たれ、彼の横を通り過ぎて行った。


「あっ……ぶなぁ。マジで危機一髪……」


 近くの木の幹に突き刺さった矢を一瞥し、徳正さんは大きく息を吐く。

が、私はイマイチ状況についていけなかった。


 人の気配は確かになかった筈……私だって馬鹿じゃないから、そこら辺はきちんと確認している。

にも拘わらず、私達……いや、私に向けて放たれた矢。

これは一体……?


 『何かを見落としていた?』と考え込み、私は辺りをキョロキョロ見回す。

でも、当然ながら答えは見つからなくて……徳正さんを見上げた。


「あの、これって……?」


 困惑気味に質問を投げ掛けると、徳正さんはゆっくりと目を細める。

(みな)まで言わずとも、私の気持ちが分かったのだろう。


「これは罠だよ。それで、この森は────|Forest of trap《罠の森》だ」

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