第二話 鍛冶屋と薬屋。
チリーン!
店のドア上部に付いている入店を知らせるベルが鳴る。
店の奥から,
「いらっしゃい。」
店主兼鍛冶師のヴィネが出てきて、相変わらずの化粧気の無い童顔を覗かせる。まだ十代の少女だが鍛冶の腕は一級だ。
店内の壁一面には古今東西の様々な武器や防具が並び、狭い店内が一層狭く感じる。
「あー、ゲイル!いらっしゃい。どんな要件?」
さっきまで鍛冶仕事をしていたようで、顔に大粒の汗が浮かんでいる。
「久しぶりだな、ヴィネ。武器の手直しと研ぎを頼みたい。」
腰から二本のショート・ソードを鞘ごと抜きカウンターに置く。
ゲイルの愛用するこの剣も、ヴィネに制作して貰ったものだ。
「どれどれ~。」
ヴィネは鞘から二本を引き抜き刃の状態をチェックする。
「あ~,刃こぼれが目立つね。」、「しっかり手入れしてる?これ、結構良質な鋼使ったんだから折れたりしたら勿体ないよ。」
刃を一通り調べていく。
「両方共、剣身事態がかなりダメージ負ってるね。」
「いっそ、新しいの買っちゃう?安くしとくよ。」
「いや、いい。気に入ってるんだよ、その剣。」
「そっか。なるべく早く仕上げとくよ。これが無いとギルドの仕事出来ないもんね。」
ゲイルは修繕費と研ぎの代金を前金で支払う。
「また、後で取りにくる」
ゲイルは〈ヴィネの鍛冶屋〉を後にし、次の要件を済ませる。
〈セシル薬品・漢方店〉は少し先にある。薬を全般に取り扱う店で表向きは優良店だが裏で禁制扱いの霊薬の調合、生成を行っている。
ゲイルが鍛冶屋と同等に、世話になっている店でもある。
怪物や魔獣と戦う際に霊薬は必需品だからだ。俺は魔術師でも特殊技能を持った戦士でもない、生身の人間だ。
戦う際に様々な能力を与えてくれる霊薬は必須アイテムとなる。
店の中は様々な薬品の匂いで溢れ、ゲイルは自然と鼻をつまむ。
棚には用途不明の機材や道具、薬液の入った小瓶が無数に置かれ、数多くの植物が栽培されている。
その奥で何やら作業をしている、ブロンドの長髪の後ろ姿。
「セシル。」
呼びかけるが、薬品生成に没頭していてこちらに気づかない。
はぁ~。
コイツはいつも何かに集中していると回りが見えなくなる。
すぐ真後へ歩み、一際大きなこえで。
「セシル!」
「ひやーー!」
驚いた拍子に腰掛けていた木製のイスから落っこちた。
「え?な、何ですか?」、「あれ?ゲイルさん。いつ戻られたんですか?」
「え?何、じゃねぇよ。お前に頼まれていた材料もってきたんだよ。」
セシルはしばらくポカンとして、「材料?何の?」。
「霊薬のだよ。頼んだのお前だろ?」
全くこの天然が。
「あー,そうでした。えっと…。」
「〈食屍鬼の牙〉と〈ブラッドリリー〉…。」
雑嚢から黄ばんだ大型の牙数本と真っ赤な百合を取り出し、セシルへ手渡す。
「お前、忘れてないだろうな?」
「アレですよね。〈獣化の霊薬〉と〈神速の霊薬〉。それと、〈治療の霊薬〉。」
セシルはかなり抜けたところはあるが、調合の腕に関しては右に出る者はない。
ちょっと待ってて下さい、と言い残し店の奥深くへ消えていく。
しばらくして、小さな小瓶を数本持って現れる。
「お待たせしました。」
小瓶数本を受け取り頼んだ霊薬に間違いがないことを確認し、雑嚢に押し込む。
「最近、この手の禁制品取締が厳しくなってますから気をつけて下さいね。それと…くれぐれも使用し過ぎにご注意を。」
「ああ、分かってる。」
霊薬は、一度服用すれば様々な能力を得られる。効力持続時間については、個人差はあるが大体一時間くらい。霊薬の種類において大変便利な物がほとんど。ただ、使い方を間違えると非常に危険で、使用出来るのは肉体的に成熟した男だけだ。
霊薬の使用後の副作用として肉体面と精神面共にかなり疲弊するし、短時間に複数本の使用は重い中毒症状に陥る。
ゲイル自身一度、無茶な使用をして死にかけた事がある。
〈セシルの薬品・漢方店〉を後にして、旅の消耗品を雑貨店で買い足す。
食糧は街を立つ直前で買えばいいし、剣の修繕が終わるまでまだ時間が掛かりそうだ。
暫くはヘンデールに滞在するつもりなので、先に宿を取っておくことにする。




