大まかな現在位置
洞窟を抜け道なりに進んでいくと、町が見えてきた。
門番等は見当たらずすんなりと町に入れた羅白。
(なんだか見られているような…)
先程からすれ違う人々が羅白を二度見している。
羅白は近くの雑貨屋に目を向けた。
(あそこで現在位置を確認しよう。地図でもあればいいが…)
羅白が雑貨屋に入ると気さくな店主が奥から出てきた。
「いらっしゃい!何か入り……用…で…?」
「あぁ。この町のなまー」
「お、おい兄ちゃん!」
「?何か?」
「あんたが持ってる水筒の中の水…何処でとってきた物だ?まさか…黄昏の洞窟からか!?」
「その黄昏の洞窟かは分からんが、近くの洞窟の奥にある泉の水を少々貰ってきた。」
羅白がそう答えると、店主は土下座した。
羅白が驚いていると、店主は水を一口だけでも分けて欲しいと頼んできた。
「頼む!その〝黄昏の聖水〝がねぇとお袋が死んじまうんだ!手に入れるのはさぞかし大変な苦労だったろうが頼む!一口だけでも!」
「あ、頭を上げてくれ。そんなに必死に頼まずとも水くらいいくらでもやる!そもそも苦労はしていないし…。」
羅白がなんとか店主を立たせると、店主は何度も礼を言いながら、羅白を店の奥に通した。
奥の小さな部屋には、床に臥せっている顔色の悪い老婆がいた。
「お袋!すげぇ親切な兄ちゃんが、黄昏の聖水わけてくれるってよ!」
「う…うぅ…あ、ありがとう…ございます…。」
「礼などいらぬ。水がどこまで効くか知らんが…」
羅白は老婆にゆっくりと水を飲ませた。
すると、みるみる老婆の顔色が良くなった。
「こ、これは…」
「あぁよかったお袋!病が治ったんだな!」
「えぇ。体がとても軽いわ。若返ったかのよう。」
店主と老婆は羅白に向き直ると、深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました。このご恩、一生かけてでもお返しいたします。」
「い、いや、そこまで気にしなくていい。礼よりも聞きたい事が幾つかあるんだが。」
「えらく謙遜するなぁ兄ちゃん!で、聞きたい事ってなんだ?」
「この水、黄昏の聖水といったか。これはそんなに入手が困難なものなのか?」
「おう。聖水がある黄昏の洞窟にゃあおっそろしく強い魔物しかいねぇんだ。だから黄昏の聖水はかなり貴重なんだ。」
「…ふむ。あの魔物はそこまで強く感じなかったが…。」
「それは貴方がとてもお強いという事なのよ。」
「そうなのだろうか。あぁもう一つ、この黄昏の聖水にはどんな効力が?」
「黄昏の聖水は万能薬なのよ。一口飲めば小さな傷から不治の病まで、あっという間に治してしまうわ。とても貴重な物だから、私達みたいな一般の者には手が出せないの。貴族や王族だって簡単には手に入れられないのよ。」
「そこまで貴重な物なのか…。」
「えぇ。貴方、そこまで知らないなんて、もしかして表の世界の人?」
「表の世界?」
「お?そういや表のヤツはこっちの事知らねぇんだったな。」
そこまで言うと、店主は羅白を見てニヤリと笑う。
「ようこそ。裏の世界へ。」