従者と妹
時雨は薄暗い羅白の部屋を見回し、ソファーに座っている己が主を見つけると、羅白に歩みより跪いた。
「羅白様、今日はー」
「時雨」
「!…はい」
羅白は時雨の言葉を遮ると一言。
「命令だ。敬語を外せ。跪くな。いつもどうりにしろ」
「承知しました」
時雨の纏っていた従者としての雰囲気は消え去り、かわりに友のような雰囲気を纏う。
すっと羅白の向かいのソファーに座ると羅白にとっての吉報を話し始めた。
「今日はあのいけ好かない当主からやっと外出許可がおりた。散歩行くぞ。天気も良いしな。」
「あぁ、良いな。行こう。着替えを手伝ってくれ。」
「おう。しかし珍しいな。外出に乗り気なんてよ」
羅白の着替えを手伝いながら時雨が軽口をたたく。
この関係は二人きりの時だけの特別。
羅白が望み、時雨が応えてくれた友人関係である。
「…三ヶ月ぶりに空が見たいだけさ。」
羅白が寂しげな笑みを浮かべると、時雨は一瞬だけ神妙な顔になったが、すぐに笑顔に切り替えた。
「よし!着替え完了だ!男前だぜ羅白!ひゅーひゅー」
暗くなった羅白を励まそうとおだてる時雨。
両袖に龍の刺繍が施された白い着物を着た羅白は男前というにはは中性的で、長い髪も合わさって遠目には女性に見えるかもしれない。
「さぁて着替えもすんだし早速行くか!主!」
「…あぁ」
羅白の目の役割も担う時雨は羅白の手を引いて屋敷を出ようとした。
だが、玄関ホールに出たところで時雨に声が掛かった。
「時雨さぁ~ん!」
「チッ(小声)…これはこれは流華お嬢様。いかがなさいました?」
龍鏡院 流華。羅白の妹である。両親に甘やかされて育ったため、ワガママ。時雨に惚れており、時雨をこき使っている(と思い込んでいる)羅白を嫌っている。
その事を理解している時雨は羅白を己の背に庇うように前に出た。
「時雨さぁん。今日はぁ流華と一緒にぃお買い物に行きましょ?」
「申し訳ありませんが、私には羅白様との大事な、だ・い・じ・な予定がありますので、遠慮させていただきます。」
(わざわざ二回も言わなくても聞こえてると思うぞ時雨…)
羅白は妹に少し同情した。
流華は時雨の後ろで、ぼんやりと自分を見つめる兄を睨み付ける。
「~っ。時雨さん!こんな化けー」
「さぁ!行きましょう!羅白様!」
時雨は流華の言葉を遮り、羅白の手を引いて足早に外へ向かった。
流華は羅白を嫌っているだけでなく無意識に嫉妬もしてます