囚われの青年
ペラリ ペラリ
蝋燭の照らす明かりの中、本をめくる音が部屋に響いていた。
その部屋に窓はなく、蝋燭がなければ何も見えないだろう。
そんな薄暗い部屋の主である青年、龍鏡院 羅白は静かに読書をしていた。
(やはり見えづらいな)
ジャラリと音を立て羅白は己の目元をそっと撫でる。
羅白は目があまりよくない。しかしかわりに未来が見える。
未来予知と言っても見えるのはごく稀で、しかも断片的だ。
それでも未来予知という異能が羅白の地位を確たるものにしている。
龍族の神族である龍鏡院家次期当主。
それが羅白の立ち位置だ。
羅白は魔力もかなり強く、一族の間で龍神と呼ばれる反面、化け物とも呼ばれていた。
原因は羅白の容姿と魔力だ。
頭部から白く毛先にゆくにつれ青のグラデーションのかかった髪。紫の右目と灰色の左目のオッドアイ。
そして、羅白自身ですら制御出来ない膨大な魔力。
魔力はオーパーツで抑えているが年々強くなっている。
魔力を抑える効果があり、持ち主の望む、または最も効果のある姿へ変化するとしか解っていない謎に包まれたオーパーツ。羅白の場合は両手首についた手枷とそれを繋ぐ長い鎖の状態になっている。
これらが羅白から人を遠ざけ、軟禁状態にされている原因だ。
外出には現当主である父の許可が必要で、これまで週に一度はあったのが、もう三ヶ月ほどおりていない。
いくら部屋に籠りがちな羅白でも気が滅入っていた。
はぁ、とため息をつく羅白の耳にドアをノックする音が聞こえた。
「羅白様、時雨です。入ってもよろしいでしょうか。」
「入れ」
「失礼いたします」
入ってきたのは羅白の従者である狼族の男、狼宮 時雨だった。