赤髪の少女の強さ
今僕はある人とダンジョンにいる。あ、もちろん防具は着けてるよ。初めてパーティーを組んだ人だからどんな戦い方なのかも分からない。戦い方が分からないと援護しずらいなぁ··· そう不安なことを考えていると、唯一のパーティーメンバーであるレノンさんが足を止めた。
「どうしたんですか?」
なぜ止まったのか分からない僕はすぐに聞いた。
「モンスターが3匹···いや4匹か。」
驚いた。この場所はダンジョンの入り口に近く、モンスターがほとんど出ないから、と言うのではなくレノンさんのモンスターを感知する能力がとてつもなく鋭いからだ。もちろん僕には陰も形も、音すら聞こえない。
熟練の冒険者ならこれくらい出来るのか、と思ったとき
「私には感知能力のスキルがあるからね。熟練者ではないよ。」
「スキルか·····」
スキルというのはその人が最も得意としている物の能力が向上した物のことだ。例えば、一般人より足が速く、ある程度練習を繰り返すとだいたい習得できる。というものだ。しかしどんなに練習してもスキルが習得できないこともある。その場合は諦めるしかないらしい。そして僕は、よく危険な目に合うため逃げ足だけは早い。そう、僕は足が速い。つまり·····モンスターから逃げてばかりで能力はほとんど上がらず、レベルが上がらないどころかスキルすら習得できない。それに僕は、スキルを習得出来ない可能性がある。
「僕、スキル習得出来ますかね? 逃げ足は速いのでもしかしたら·····」
そう言おうとした瞬間、
「無理じゃないかな、それは。」
「えっ」
「まともに戦闘も出来ない様じゃスキルは習得出来ないよ。それに、もしその足が速くなるスキルを習得しても君はモンスターから逃げるのだけに使うでしょ。」
僕には無理、正面から面と向かってそう言われた。ただその一言だけで、僕は絶望した。
「あ、そんなことよりモンスターが4匹、正面と斜め右。」
そう言って彼女は飛び出した。僕は気持ちを戦闘に切り替えて、ボウガンを構えた。しかし、彼女に言われた言葉は冒険者駆け出しの僕の心に突き刺さったままだった。
「······っ!?」
横から飛んできた矢に驚きつつも、何とか回避することが出来た。そして回避した直後に攻撃を仕掛けた。アルトの放った矢は見事にスケルトンの首元に突き刺さった。矢の刺さったスケルトンは後ろに倒れ、崩れていった。
「っ次!」
自分に言い聞かせる様に次の攻撃対象を定める。今は、ダンジョンの奥深く、ダークフォレストと呼ばれる森の中にいる。ダンジョンは地下にあるため森があるのは不思議だが、特に関係のない事である。この森に生息するモンスターであるスケルトンとブラックハウンド、計7匹に囲まれている状況だ。通常、ブラックハウンドは、レベルが少し高くレベル7のアルトのではほとんど歯が立たない。そのためアルトは比較的弱いスケルトンを相手にしていた。スケルトンは何種類かの武器を持って出現する。先ほど倒したのは弓を装備していた。ほかの2匹のスケルトンは剣とこん棒を装備しているため近付かれなければ安全だ。それより、アルトが気にしていたのはレノンの方だ。レノンは今、レベル18のブラックハウンド5匹を同時に相手しているのだ。鋭い爪や牙で攻撃してくるブラックハウンドは噛みつくと全く離れないという。このままでは危ない、そう思ったアルトはボウガンを構える。
「援護します!」
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「いらない。それよりスケルトンよ。」
いらない。僕は援護しようとしたのに、いらない、と。これだとパーティー組んだ意味が無いですよ。怪我しても知らないですよ。
「·····分かりました。」
僕は八つ当たりぎみにスケルトン2匹を倒した。どうだ!すっげーだろ。一瞬で2匹だぞ。
「どうですか!僕だって結こ·····う·····」
言葉が途切れた理由、それは目の前の光景による物だった。 飛びかかってくるブラックハウンドを次々と切り伏せるレノンという少女の力。その時彼は思った。何故僕とパーティーを組んだんだ、と。
いつの間にか増えていた3匹もあわせ合計7匹のブラックハウンドを一瞬で倒したレノンはすぐに魔石と爪を回収していた。爪、とはブラックハウンドのドロップアイテムである。ドロップアイテムはそれぞれモンスターによって異なる。ブラックハウンドの爪は武器に使われることが多く、そこそこいい値段で売れるのだ。
アルトはアイテムを鞄にしまいこんだ。今日は良いものが食べれそうだ と考えていたが、防具の代金を支払わなければならないので食事のことは諦めた。そして、それから数時間後、
「もう十分倒したし帰ろうか。」
「そうですね。アイテムもたくさんドロップしましたし。」
そして、僕達はダンジョンから帰ってきた。
「じゃあドロップアイテムを換金しにいこう!」
ダンジョンにいるときとは違い、明るい雰囲気に戻ったレノンさんはアイテムを換金しにいこうと言ってきた。
「そうですね、行きましょうか。」
僕らはドロップアイテムのついでに魔石も売った。魔石は主に、魔法を使うための杖に使用される。その他にも魔石を加工することで、それ単体で魔法を発動させるアイテムが作れるらしい。そのため魔石は質にもよるが、高額で買い取ってくれるという。そしてとうとう換金し終わった。その金額は······
「8300ギャリス!?」
今まで見たことのない額だ。でも、これってほとんどレノンさんのおかげか。そう思いレノンさんの方向を見ると、
「すごい!たった1日でこんなに稼げるなんて!」
めちゃくちゃ喜んでた。ていうか僕より喜んでるし。
「ありがとう、レノンさん。」
僕はレノンさんにお礼が言いたかった。
「·····はぁ。」
え?ため息?なんで?お礼言っただけだよ?何で? と、僕が困惑していると、
「"さん" って付けるのやめようよ。パーティーメンバーなんだからさ、呼び捨てでいいよ?」
「え、でも、まだ会ったばっかりですし····」
「敬語もやめようよ。良いじゃん会ったばっかりでも。ていうか私は呼び捨てがいいんだけど?」
うーん。何かな、呼び捨てするの慣れてないっていうかさ、ね?分かるでしょ? でもまあ、レノンさんがそうしたいって言うからな、仕方ないか。
「じゃ、じゃあ、レ、レノン·····こ、これでいい?」
「うん。ありがと」
この日、僕はレノンさ···レノンとの距離が一歩近づいた、ような気がした。