5秘密
「うーん、うーん!」
朝起きたら天使が手足をばたつかせてジャンプしていました。
……何やってるんだよ。
「アンジュちゃん、何やってるのかな。こんな朝早くから。」
俺がドスの利いた声で問い詰めると、ぎくりっとした表情で振り返る彼女。
「お、おはよー…ととと、トーマくん。いいい良い天気だねー。」
これはいたずらがばれたときに出すの声だ。すっごく分かりやすい。
「うん、おはよう。ところで何でこんなところで飛び跳ねていたのかな?ここはどういった場所か、君なら分かるよね。」
「……はい。」
公衆の場でうるさくしないやら、自由権があっても公共の福祉によって制限されるときもあるやら。授業で習ったことを駆使し、久しぶりにがみがみ言ってしまった。ごめんね、アンジュ。
「以後、気をつけます。」
鈴のような声色で彼女は謝った。その姿も可愛く思えた。
「天界ってどんなとこ?」
俺が不意にアンジュに投げかけた疑問。彼女はそんな無茶振りにも「うーん」と唸りつつ、真剣に考え込む。
5分ほど、思考の渦に飲まれていただろうか。結局、アンジュが出した答えは。
「いいとこ!」
たったの4文字であった。あまりにも単純すぎた解答で、呆気に取られる。何も言わなかったが、目は口ほどにものを言うものである。「そういうことを聞いている訳ではない。」と目で訴えかけていたであろう。申し訳ない。
アンジュは俺の言葉を察したのか、先ほどまでの無垢な笑顔はいつの間にか強張らせていた。
「難しく言えばね、この世で役目を終えた者たちが安らぎを求めて訪れる場所……にあたるのかな。」
初めて聞く声。いつもおっとりとしたアンジュが冷淡にものを語っている。
「でもね、みんながみんな天界には向かえない。この世で極悪な罪を犯したものや、理不尽な終わり方……まだこの世界に未練の残っているものは天界にはいけない。そういう仕組みになっているの。」
「ふーん。」
とりあえず相槌を打つしかなかった。目の前にいるアンジュは本物なのか、俺はただ、それだけが心配だった。
「アンジュはそんなところで生まれ育ったんだな。」
彼女は「そうだね。」と短い返事。口調はいつもの調子に戻った。
俺はアンジュについてもっと深く、追求することにした。
「お前の両親は、どこにいるんだ?」
こちらもあくまでも冷静に、聞けたかどうか分からない。自分の声がまるで他人のものではないかと錯覚してしまうほど、混乱していた。
アンジュは明らかに沈んだ表情を浮かべた。まずいことを仕出かしたか……?
「あのね私、お父さんとお母さんの記憶がないんだ。」
彼女の涙声で俺の背筋がゾクッとした。やっぱり触れてはいけなかったゾーンだった。
「知らなかったとはいえ、済まない事をした。ごめんなさい。」
俺は素直に頭を下げた。彼女の深い闇が掛かった顔を見ないようにするために。
「内緒にしていたのが悪かっただけだよ。十馬は悪くない。」
彼女の静かな、でも芯の太い声にはっとなった俺が顔を上げると。アンジュが、いやアンジュが“いた”場所に――大天使の姿があった。
嘘だ。その一心で目をこする。すると、大天使の姿は跡形もなく消えていた。納得の行かない顔で腕組みしていると、この厳しい場に水を差すような少女の声が。
『愛の騎士ラブキュア!この後すぐ。』
その声に反応したアンジュはすぐさまテレビの前へ。
「あ、ラブキュアだ!トーマも見ようよ!」
そのはしゃぐ姿を見て、
――さっきのは気のせいか……。
そう思わざるを得なくなった。まあ、でも。いつまでもじめじめするわけには行かないよな。
「今回だけな。」
妹をあやすようにアンジュの頭にぽんと手を乗せると、
「……あ、ありがとう。」
小さかったが、ちゃんと返事が返ってきた。よしよし。
このとき俺は知らなかった。
俯いていたアンジュの顔が真っ赤に染め上がっていたことに――。
今回はあとがき1本勝負です!(ようはネタがなかっただけww)
随分お久しぶりですね。1ヶ月以上更新を滞らせていてすみませんでした。
ありがとうございました!