4学生の醍醐味
「ぷんぷん!」
擬態語を使うところがわざとらしく思えるが、めっちゃ怒っている。話しかけてもろくに返してくれないし。
天界から帰ってから、アンジュの機嫌が非常に斜めなんですけど!
俺、こういうときはどうしてあげたら良いのかな?
「大天使様もたまたまイライラしていたんだって。」
彼女の気持ちを落ち着かせるのも手一杯だ。宥めてもまだ腑に落ちていないような顔をしている。
「アンジュが興奮することじゃないよ。」
もう、気にしてないし――と、言いかけたときアンジュと声が重なった。「まったく、大天使様ったら。トーマに対しての態度がなってないわ。」
珍しくアンジュがブーイングをあげている。天使も不満を口にするんだな。
俺のために言ってくれているのだろうが、俺としては普通の彼女に戻って欲しいところだ。
「まあまあ。」と落ち着かせようとした途端、
「私は気にするの!トーマが人に悪く言われるのはなぜだか許せない。自分のことのように感じてしまうから……。」
アンジュは急に騒ぎ出したかと思えば、最後のほうは、空気の抜けた風船のようにしぼんでいく。
でも、今のって。あのー、どう受け取れば良いのでしょうか。
これ以上は話にならない。トークチェンジだ。
「そういえば、アンジュ。」
少し元気になったのか、「何ー?」と子供のような素直な応答が。良かった、良かった。
「テストあるよ、テスト。」
2週間後に迫った中間テスト。もうそろそろ気持ちを切り替えていかないと。アンジュも転入したばかりだが、おそらく受けることになるだろう。
――しかし、さっきからフリーズしているな。
「テスト……だと?!」
ようやく反応を示した。そこから感情の大爆発。「テスト、嫌だ嫌だ~!」と嘆いている。話を聞けば、天界でもテストというものはあったそうで、いつも赤点をとり、大天使様もご立腹な様だったらしい。
仕方ない、たまには手を差し伸べてあげよう。
「勉強、見てやるよ。」
一応、毎回学年TOP10には入れているから、ちょっとは役立てるかな。
「やったーー!」
アンジュもこの通りだし、いけるだろう!
3週間後――。
無事に全教科のテストが返却された。アンジュに勉強を教えるため、自分もテキストやらワークやら見直したおかげで点数が伸びた。ふふふ、嬉しい誤算だ。
「ああー、70位スタートだよ~。」
しくしく。とまたもや擬態語を操るアンジュ。彼女はがっかりしているが、俺は決して今回のテストの結果が悪いとは思わない。200人近くいる学年の生徒のうち、半分より良い結果だったし。あんなに頑張っていたから。
俺はその頑張り、ちゃんと見てたよ。……とは言えなかったけど。
(それに、尾田よりは番数上じゃないか。だって彼、89位なんて言っていたぞ。)
「人間界での初めてのテストにしてみればまあまあの出来じゃないか?」
と、俺の中では励ましの言葉だったが、
「それ、慰めになってないから。」
余計彼女が暗くなっていく。あちゃー、やっちゃった。
「まあ、次頑張ろう!」
大声を出して考えることをやめた。もやもやしている時は何を考えてもうまくいかないから。いっそのことリフレッシュしたほうが良い効果が得られる場合もあるし。それは彼女も共感してくれたみたいだ。
「うん、そうだね!」
頷いた彼女の笑顔は何にも負けないくらい、一段と輝いて見えた。
どくんっ。い、今の胸の高鳴りって、いい一体?
――何だったんだろう、この気持ち。
一瞬苦しかったが、すぐに開放された。……よく分からないが、まあいいか!
「また明日も頑張ろう。」
胸のうちに留めておこうとしたが、気がついたら口を滑らせていたらしい。アンジュが力強く頷いてくれた。
その姿を見て、自分はまだやれる。……そう思えた。
一方、天界では。
さまざまな品種の花が咲き誇る庭園に、2つの影が見えた。大天使、クリュエル。そして天界の長、ディーオである。クリュエルは先ほど子供のように泣き叫んだため、ぐったりとその場にしゃがんでいる。ディーオはそんな彼女に声を掛けているようだ。
大天使でありながら「残酷」という意味の名を持つクリュエルは、まだ幼さが抜けない面をしている。天界を治めるディーオは「神」の名に相応しい姿だが、人間界で例えるならば、田舎に暮らすおじいちゃんのような温かさがあった。
そのため、2人を傍から見れば祖父と孫のような関係なのでは、と勘違いするほどだ。
「本当にあの決断で良かったのかね?」
未だに俯いたままのクリュエルは何も答えない。ただ、肩を揺らすだけ。
「……別の選択もあったじゃろうに。」
ディーオは囁くような声しか出なかった。クリュエルは彼の生きた時間の半分も過ぎていない。なのに、こんなに辛いことに巻き込まれるなんて。指を銜えて見ることしか出来ない彼は、自分自身が悔しかったのだ。
「いいんです、“あの娘”が幸せなら私は……。」
「クリュエル!早まるでない。」
鈴のような声を遮った熱い声。ディーオの枯れ木のような体から発されたとは思えなかった。
「ディーオ…様?」
クリュエルも目をぱちくりさせている。語尾にも疑問符がついている。
――未来への道を自らの手で閉ざすものには 新たな道は開けん
ディーオの口がまた開いた。今度は重々しい声。天界に地響きが起きているような錯覚だ。
「いいか、忘れるでないぞ。」
先ほどとは一変して軽い口調に変わる。すると、天界も元の様子に戻った。花々が揺れる、美しい庭園に。
――神の紡いだ声で、こうも変わるのか。
クリュエルはそう思わざるを得なかった。では、ディーオが「世界を破壊する」などと願うなり、声にするなりしたら……。
ぶるぶるっ。ただの想像なのに寒気がする。
ディーオが心配そうな眼差しを向けるが、恐怖で顔を見られない。
「分かったな?」
再度確認してくる神に、クリュエルはぎこちなく頷くことしか出来なかった。 (続く)
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ようやく4話ですw随分とお久しぶり感がありますね。
不定期ながらまだまだ更新しようと思います!
ちなみに、“クリュエル”はフランス語で「残酷」、“ディーオ”はイタリア語で「神」という意味を持ちます。おまけに“アンジュ”はフランス語で「天使」です。“十馬”は「十頭の馬を手懐ける青年」というキャラにしようと思っていましたがこれいかに。
ということで、今回はここまで。誤字脱字多くてすみませんorz
読んでいただきありがとうございました!