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低空飛行少女☆アンジュ  作者: ちくわ。
3/6

3天界

早いことに、もう3話目ですね。

――なんと榎本十馬、天界にきています!


天界への扉を捜索中の俺とアンジュは、学校の図書室へと向かった。図書室のドアは立て付けが悪く、開閉時にすさまじい音が鳴り響く。そんな最悪のファンファーレに迎えられ、扉を開けた瞬間――。



光に包まれ、あったかいな。そう思ったのが最後だった。

いつの間にか意識を手放し、気がついたらお花畑の上に寝っ転がっていた。

「あ、トーマ。やっと起きたあ~。」

アンジュがふにゃりと笑って息を吐いた。もしかして、すごく心配してくれたのかな。

“この、可愛いやつめ!” さすがに口には出来なかったが、嬉しさのあまり、アンジュの金色に輝く髪をわしゃわしゃと掻いてしまった。

「ちょ、トーマ!髪の毛乱れちゃう!」

やっぱり女の子だからその辺は気にするんだな。謝罪の意味を込めて、手で少し癖のある髪の毛を梳かす。その拍子にふわっとシャンプーの香りが。やばい、俺ってもしかして髪の匂いフェチか?

うーんうーんと考え込む俺をよそに頭の大きなリボンの位置を直す彼女。うまく直せて満足そうな表情になった。そんな無邪気な笑顔に惹かれているんだよな、俺。



木陰で休憩しつつ、アンジュに質問をぶつけてみた。

「なあ、天界の時間の進みは人間界と比較してどのくらいなんだ?」

これを聞いておかないと、人間界に戻ったときに浦島太郎状態になってしまう。誰も俺のことを知る人がいない世界に一人きりなんて絶対に嫌だ。

「うーん、相当長い期間いなきゃ大丈夫だよ。天界の1日は人間界の1時間と同じことだから。」

うわ、早。要するに、人間界の1日は天界の24日分ですか。うへー、恐ろしい。


「あ!」

アンジュが急に立ち上がった。俺もそれに釣られる。なんだなんだ?

「大天使様ー!」

彼女の目線の先には、これまた艶めかしい天使の姿があった。


「アンジュ……そちらにいるのは、人間?」

大天使の第一声。艶っぽい唇をあまり動かさず、少しこもった声。アンジュの声も心地よいが、彼女の声は一瞬にして深い眠りに誘われるような、なんとも言えない声である。

「トーマっていうんですよー。」

アンジュは楽しそうに俺を紹介してくれるが、表情は変わらない。俺たちと会ってから、(失礼な表現だが)ずっと仏頂面のままである。

声は違うものの、瞳や髪や肌の色はアンジュとそっくりだ。姿はまるで親子のように見える。

「彼女はお前の母さんなのか?」

こそっとアンジュに訊いてみる。なんだか大声を出せない、そんな威圧感がある。

「違うよ、お母さんじゃない。」

「そうです、アンジュは私の弟子です。」

アンジュの言葉に重なる声。頭の中で響いてくらくらする。そんな俺にさらに追い討ちをかけるように話す大天使。

「人間よ、立ち去りなさい。ここは人間が踏み入る場所ではないのを分かっているはず。そのために人間界とここを結ぶ扉を架けたのだから。」

確かに、ここは俺のいるべきところではない。先ほどからまともに立っていられない。今は根性だけで立てている。しかし、それもいつまで続くか分からない。


「トーマ、大丈夫?少し休んだほうが……。」

ぐらっと崩れ落ちそうな体をアンジュが支えてくれた。我ながら情けねーな。

「その必要はありません。アンジュ、早くその人間をつれて天界から去りなさい。」

「でも……!」

アンジュの苦しそうな声。でも、苦しいのは大天使も一緒だった。アンジュに何かを訴えようとしている、のもあったが、何よりも心配そうに彼女を見つめていた。

「行こう、アンジュ!」

いまだに引き下がっているアンジュの手を強引に引っ張り、扉のほうへと走り出した。

それが冷徹な大天使の凍った心を溶かすためだと信じて。


――そして、また意識を手放した。花の、甘い匂いに包まれて。


“これでいい。”大天使は心の中で呟いた。

彼女の1番弟子である、アンジュがトーマという人間を連れてきた。これには彼女も肝が冷えるような思いだった。

トーマと一緒にいるアンジュは、大天使でさえも引き出せなかった笑顔を彼に見せている。そんな、彼女が楽しそうにさせてくれる彼をも“巻き込みたくなかった”からだ。


ここを走り去る2人を見て、安堵した。これなら大丈夫だと。しかも、態度も悪くしていたから自分のことが嫌いになっただろうと。

もう2度と顔は見られないかもしれない。でも、それでもかまわない。

どうやら大天使は覚悟を決めたようだ。


「アンジュ、どうか幸せになって。」

この小さな呟きは誰にも届くことはなかった。  (続く)

__________________________________

とりあえず天界編は終わり、次回はまた人間界へと場面は移ります。

学生恒例の“あれ”がアンジュを襲います。頑張れ、アンジュ!

それでは今回はこの辺で。閲覧ありがとうございました!

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