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弱い自分

家に帰るということが、これほどまでに苦しいことだとは思わなかった。

俺自身、こんな未来を想像していただろうか・・・。

ガキの頃は、将来はもっと楽しくて、苦しいこともあるかもしれないけれど、それでも楽しいことのほうが上回っていると信じていた。


でも、現実は違った。


学校の奴らとバカ騒ぎをしていたことやおふくろの見舞いに行ったこと晴香と電話で話したことや今日一日の楽しいことを全部無かったことの様にしてしまうのがこの家だ。


仕事に命を懸け、家族を居候としか思っていない父

常に自分自身の保身しか考えない姉

高校生になってもこの二人と家にいることの窮屈さと苦痛さは、慣れることはなかった。


だけど、親父の家庭をかえりみずにお仕事様に熱心なおかげもあって、裕福な暮らしをしていることも事実であり、近所では有名な豪邸なのだ。


裕福な暮らしを手に入れれば入れるほど幸福とは縁遠い生活になっていくのかもしれない・・・。


俺は、必ず玄関の前で一呼吸を置き、いっきに玄関をくぐる。

こうでもしないと心を外に置き忘れたまま、身体だけが家に入っているような気がするからだ。

玄関には、高級ブランドの革靴と赤いピンヒールそして隅のほうには、お袋が入院前に履いていた靴がある。

日常的に使われている二人の靴よりお袋の靴のほうが俺は輝いてみえた。


先にあの二人が帰宅していた。


極力なら顔と声をききたくもない。


俺の部屋は二階の一番隅にあり、部屋に行くためには、一階の一番奥にある階段を上らなければならなかった。何ら問題はないことだと思うかもしれないが、その階段に行くには必ずリビングの中を通って行かなければならなかった。


リビングには明かりがついており、ソファには親父が座っていた。

マネキンが置いてあるかのように何も気にせずに一目散に自室につながる階段を駆け上がろうとした。


「おい。遅かったな。お前また病院に行ったのか。」無機質な声が俺に投げかけられた。

ソファに座りながら新聞読んでおり目をそらさずに親父が話しかけてきたのだ。

「ああ。」親父のほうを見向きもせず、二つ返事で返す。

いくら嫌いであっても投げかけられた質問にたいして無視をするそんな幼稚な人間ではない。


ただ単純にこの二人が人間として家族として嫌いなのだ。


「ったくそんな無駄なことはするな。はやく家事をしてもらえるように治ってもらはないと俺が困る。病気にばかりなりやがって使えないな。」階段を上がっている途中で小さく聞こえてきたこの言葉を俺は無視しようとすれば無視できたのだが、俺はそこまで人間ができていなかった。


「おい、親父今なんて言った。」俺は、リビングの入り口に立っていた。

喧嘩とは同じレベルの間でしか起きないと楓に聞いたのを思い出していた。

同じレベルでも構わない・・・。

小言をうるさく言ったり文句を言ったりする人間なんて数え切れないほど多くいる。そんな奴等に耳を傾けるほど暇ではないが、ただ、<使えない>という言葉だけが許せなかったしそんな奴等に自分の父親が入っていることも許せなかった。

「なんて言ったかって聞いているんだよ。」俺は怒鳴りながら親父に使づいていた。


「・・・・・・。」

親父は無言だった。


「テメーみたいな人をこき使うことばっかり考えている人間がいるからおふくろは、身体の調子が悪くなったんじゃねえか。」怒りでだんだんと理性がきかなくなってきた。


それでも無言を貫く親父。


ついには親父の胸ぐらに掴みかかった。

読んでいた新聞がパサッと床に落ち軽い親父の身体がフワッと立ち上がった。


ただ俺のほうをチラッと見ただけであとは何も言わない。完全に人を見下している目、俺なんか眼中にないような雰囲気を出していた。


自分自身の父親という概念なんて全く無かった。


いつから親父を嫌いになったのだろうか・・・。

最後にまともに親父と話したのはいつだっただろうか・・・。

それとも、お袋が入院している寂しさを八つ当たりしたかったのか・・・。


「春哉、そのへんにしときなさい」鋭いまなざしのまま、親父の胸ぐらを掴んだままに振り返ると姉がリビングの入り口に立っていた。

「まったく、本当に馬鹿だねアンタは」姉は入り口に立ったまま腕を組みながら話し出した。


「その人に、仕事以外のことができると思うの?アンタもいい加減に無駄なことだと気づきなさいよ。そんなに嫌ならアンタがお母さんの入院費用でも払って出ていけば?そんなこともできないしする勇気もアンタにはないんだから黙ってその人に従うか利用できる分だけ利用しなさいよ」ねっとりと纏わりつくような姉の言い回しが俺は本当に嫌いだ。


親父も俺に胸ぐらを掴まれたり、こんなクソ女に利用されたりとか言われて何も感じないのだろうか。

何だか馬鹿馬鹿しくなって、自分のしていることが本当に無意味なことなのだと気づいた。


俺は無言で自室に帰り、電気も点けずにベッドに寝ころんだ。制服がしわになることもわかっているしお腹もすいている、だけど今はそんなことはどうでもよかった。

静寂すぎて耳鳴りがする。


ふいに姉の言葉が蘇ってきた。

母の入院費用なんて俺が払えるわけがない。そんなことは分かっている。だけどあの横暴を許すことの理由になるのか?

入院費さえ払っていたら見舞いにもいかなくていいのか?

入院の手続きを事務的におこない病室に行くこともなく、仕事があるからと言って仕事に行った親父の後姿を俺は許すことができないだろう。


いったいあの二人はおふくろを何だと思っているのだろうか。家族というものとは一体何なのだろうか。たくさんの疑問が俺の中に渦まいていた。


こんな家に退院して帰ってきたとしても、直ぐに体の調子が悪くなることなんて馬鹿でもわかる。

なんで家族そろってみんな協力しないんだよ・・・。

お袋がいないことをバネにして団結しなければならない筈なのに、家の空気は死んでいる。


俺からあの二人に歩み寄ればいいのか?

俺が何とかしなければならないのか?

どんなに良い方向に考えたとしても上手くいく景色が見えなかった。


いつからこんな家族になってしまったのだろうか・・・。

母の入退院の繰り返しが理由なのは何となく理解できている。そのことを理解できている自分が本当に嫌で仕方がなかった。

そして、家族の崩壊をその理由の責任にしようとしている自分自身がいることが本当に悲しかった。


「じゃあ。いったいどうすればいいんだよ・・・。」心の声がでていた。

何もできない自分自身に対して苛立ちと悔しさと悲しさが込み上げてきた。


学校や彼女の前で粋がっている俺が、実はとんでもなく弱虫だなんて知られたらあいつ等は、きっと驚くだろうな。そんなことを考えたら笑えてきた。


「くだらないことは考えないようにしよう。きっと何とかなる。さあ寝るかな」自分自身が前向きな言葉をウソでもいいから言わないと不安で押しつぶされてしまうことを理解していた。


自分で自分を誤魔化すのだ。


今日一日でいろいろなことがありすぎた気がする。目を閉じると一日を振り返る暇もなくストンと眠りに落ちる気がした瞬間に

「お兄ちゃん‼」耳元で物凄く元気な女の子の声が聞こえて俺は飛び起きた。

「うわあ!誰だよ!」驚いて目を開けると今日学校で見た夢の中のいた<ゆうか>が満面の笑みで俺を覗き込んでいたのだった。

周りの景色も一変して俺は俺の部屋に居なかった。

「なんだよ。またおまえかよ。」


言葉とは裏腹に正直本当はうれしかった・・・。


両手で顔を覆い照れを隠し、はにかみながら言う。


指と指の間からみえた<ゆうか>の顔はものすごく優しそうでまるで太陽のように明るい笑顔だった。


お久しぶりです!家に帰りたくない時はとことん帰りたくない時ってありますよね まだまだ続きます!きっと楽しみにしている人がいると信じて頑張ります!

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