6/10
フィデリオ
遠くで汽笛が鳴っている
田園風景の彼方に蒸気機関車の黒々とした肉体が走っているのが見える
太陽は真上にあって日陰となる場所はどこにもない
そこに見えている何かに向かって汗だくになりながら歩いている
誰が歩いているきっと僕が歩いている
ずっと前からそこにあるのに一向にたどり着けないのは何かに引きずられて思うように歩けないから
しばらく歩くうちに日が暮れて平原の只中に一人取り残される
黄色い顔をした月が僕のことを不憫に思って赤い顔をした太陽を起こして僕を導いてくれた
太陽は自分の光が眩しいからと仮面をつけてそっぽを向いてしまった
すると大きな青空も仮面をつけてしまってたちまち黒く厚い雲が空を覆ってしまった
ぽつぽつと降る雨に濡れながら僕は歩く
僕はようやく桃色の宝箱にたどり着いて紫の煙の中から何かを取り出した
それは白い光輝を放つ胎児だった