十二 章
木戸がハンドルを握るエスティマは、黄昏時特有の、紅く染まる空の下、小樽へ向かう高速道路を法廷速度+αのスピードで走っていた。
エスティマの車内には、他に助手席の水城、後部座席にぼくとルクレツィアが乗っているのだが、誰もが無言のまま、疲れた顔で座っていた。荒れたアスファルトとタイヤが擦れあう音と、ボディが風を切り裂く音がやけにおおきく聞こえる。
せめてラジオくらいつけてくれないかな? ぼくは気だるげに考えた。ほとんど睡眠を取っていないので、身体がふわふわして心地よい眠りに誘われていく。黙り込んでいると睡魔に意識を乗っ取られそうだ。
みんなそうなのだ。昨夜の一件から、まともな睡眠など誰も取れていない。憂姫の行方を捜す為、全員で手掛かりを集めたのだ。そして夕暮れ近くに漸く場所を確定し、そこに向かう為にぼくたちは高速道路の上にいる。
身体は疲れているのだが、精神的に高揚しているのだろうか? 睡魔は、完全にはぼくを支配する事なく、最後の最後で意識は保たれていた。本当は今ぐらい寝ていたいのだが、木戸が一人で運転していると言うのに、そうそう寝てはいられない。
ルクレツィアだけは静かな寝息を立てている。昼の間中、その能力を積極的に使ったので、その疲労が溜まっているのだろう。もちろん、木戸も水城も彼女が睡眠を取っている事を非難する事はない。ぼくがその立場なら、容赦なく蹴りが入りそうだが……。
それにしてもぼくは、ルクレツィアが憂姫を救い出す作戦の為に、ああまで積極的に協力するとは思わなかった。疲労困憊して倒れるほどまで、ルクレツィアはそのサイコメトリー能力を駆使したのだ。
結局ルクレツィアは、憂姫の特殊な防衛能力──周囲の人間の保護欲を増大させると言う──によって、ぼくが憂姫を気にしていたという事を知り、もう憂姫への対抗心や敵愾心を無くしてしまったのだろう。
ぼくの隣で、シートに持たれかかって眠っているルクレツィアの安らかな横顔を見て、思わず微笑が浮かんでくるのを感じた。
彼女が傍に居る事が、ぼくにとっての清涼剤になってはいた。しかし、本音を言えば、ルクレツィアを現場に連れて行くのには反対だった。彼女があまりにもしつこくせがむので、仕方なく水城も了解したのだ。今となってはどうしようもない。
「ところでなぁ、あの娘の居場所がわかったのは良いとして、実際にどう言うプランを立ててるのだ? 俺は〈鬼〉なんて奴を扱うのは初めてだから良くは知らんが、そこは敵の本拠地だろう? こんな戦力で大丈夫なのか?」
高速を下りた後、静かだった車内に木戸の声がいきなり響いた。
「ああ、取りあえずいつもの通りの狩りになるんじゃないかな? 相手は一人だけだしな」
水城はフロントグラスの向こうに目を据えたまま、気だるげに答えた
。
「一人? あの女は一人でいるって言うのかい?」
ぼくは後部座席のシートから身を乗り出して二人の会話に加わった。
〈鬼の姫巫女〉と言う存在が従者も護衛も無く、ただ一人でいるなんて事があるのだろうか? もっとも、ぼくも〈鬼の姫巫女〉なんて存在を知っている訳ではない。それを知っているのは水城だけなのだ。
「〈鬼〉はヴァンパイアの〈貴族〉と違うのさ。力が強く、長い年月を生き続けた鬼神とまで呼ばれるクラスの鬼は、そのほとんどが孤独な存在になってしまうんだよ」
水城はそう言うと助手席のウインドウを少しだけ下ろした。秋が深まった事を思い知らされるような、乾いた冷たい風が車内に侵入してきた。
「なんで孤独になるんだ?」
木戸がマルボロに火を点けた。ライターの灯かりで一瞬だけ、渋面をつくったその顔が照らされた。
「闇の〈貴族〉は自分の眷属を、〈仔〉を創りだす事を本能として持っている。それは自分たちが一世代の生物である事を、遺伝子レベルで認識しているからだと言われている。それに〈貴族〉と呼ばれているだけあって、大勢の従者にかしずかれたがる奴が多いんだな。まぁ、その欲求は〈鬼〉よりもよほど人間的だと思うぜ。
〈鬼〉の中で上位に位置する鬼神は、自分以外の鬼を必要としないのさ。究極のエゴイズムに支配されているんだ。自分だけが存在できればいいんだ。
〈闇の種族〉の多くが、ただ年月を経るだけで力を増していくのに、〈鬼〉と言う〈デーモン〉だけは、他の〈鬼〉を喰らう事によって新たに力を増していく。共食いをするんだよ、奴らは。そうしないと力が弱いままで、他の〈鬼〉の餌食になってしまうからな。
だから、若い〈鬼〉にしか眷属はいない。力を強めていくうちに、次々に喰い殺していっちまうんだよ。同胞というべき存在を……。
まぁ、こういう事で、奴は一人で俺たちを待っていると思うんだよ」
水城は嘲笑じみた表情でそう説明すると、ホルダーの缶ジュースを口に運んだ。顰め面をしたのは、その缶の中身がぬるくて不味かったのだろう。
なるほどな。今まで〈鬼〉と言う〈デーモン〉を見たことがないし、その知識もほとんどないぼくは、素直に水城の知識に唸ってしまう。さすがに〈鬼専門ハンター〉の家系の出だけはあるな。それにしても、千年以上前からそんな職業があったとは……。
そう言ったきり、水城は何も言わなくなった。闇の向こうをひたと見据えていた。
山の中の林道を走る頃は、もう辺りは真っ暗になっていた。
人々に忘れられた林道は、長年手入れされていない為だろう、水の侵食によりでこぼこの荒れた道になって、鬱蒼とした木々がそれに覆い被さるように枝葉を伸ばしていた。
水城は右手の人差し指を前方に突き出した。ゆっくりとエスティマは停止した。
「ああ、あれだな。〈毅剋寺〉って廃寺は。しっかしこんな山奥に誰があんなところに住んでたんだ? まだ潰れちゃいないみたいだが、ぼろぼろじゃないか」
木戸はうんざりしたような声でそう言った。
月と星の、僅かな明かりで闇の中に浮かぶその影は、確かに不気味な雰囲気を伝えている建物だった。まだその朽ちたおおきな門から百メートルほど離れているのと、車のライトが届いていない所為もあり、はっきりとした姿は確認できないが……。
「車はここに置いていこう。さぁ、用意するんだ」
水城の命令により、ぼくらは嫌々ながらエスティマを降り、後部のハッチバックを開けて装備を取り出した。そして静かに身に着けると、ライトは点けず、月明かりのみを頼りに暗いでこぼこの道を歩き出した。
ぼくはベネリ・オートマティック・ショットガンM1を抱え、両肩からその散弾実包を各五十発差し込んだ弾帯をかけて、腰のホルスターにはパラ・オードの45口径カスタムとその十四連弾倉を四本、ショルダー・ホルスターには更に愛用の1911カスタムを収めていた。これだけの装備を身につけると、その重さで僅かに歩くだけでも辛い。
それに比べて他の連中は、なんと軽装備なのだろうか。木戸は重いライフルを抱えているとは言え、実際にはそれ以外に重たい物は持っていないし、水城は例の刀──あの女が〈鬼哭刀〉と呼んだ刀だ──を左手にぶら下げているだけで、ルクレツィアは大型のライトを持っているだけだった。
それでもルクレツィアは、さすがにこんなところまでは例の格好をしていない。それだけでもマシだろう。今のルクレツィアは、細身のブルー・ジーンズに、紺のパーカーを羽織っている。長い金髪は後ろで一本に纏められていた。
ぼくに比べて軽やかに歩いているルクレツィアは、ぼくの左に並んで足元を確かめてくれていた。
「ちゃんとピストルは持ってきてるんだろうね?」
ぼくは荒い息を吐きながら、下を向いているルクレツィアに尋ねた。
「ええ、もちろんよ。せっかく祐騎がプレゼントしてくれた物だもの」
ルクレツィアはそう言って、パーカーの前を開けて見せた
。
ジーンズのベルトには、ホルスターに納まったシグ・P239の9ミリ口径オートマチックが差し込まれていた。正直言って魔物にはそう大した威力は持たない9ミリ弾だが、気休めとは言え、何もないよりはマシだ。
やがて黒く煤けた正門に近づいた。門扉はとうに崩れて無くなっていた。
雑草に覆われたその奥には──朽ち果てた本堂だけが無残な姿で残っていた。
異様な雰囲気の中、ぼくはそれ以上進む事が出来なかった。地獄の底から響いてくるいくつもの怨嗟の声と苦痛の呻き声が、ぼくの頭の中に侵入してきたからだった。
頭の中が圧迫されて、激しい頭痛と眩暈がぼくを襲った。まるで頭の中に鉛の塊を押し込まれたみたいだ。
膝の力が抜けて、濡れた草叢に崩れ落ちた。呻き声が唇を割って漏れていく。
やめてくれ! ぼくの頭の中に入ってこないでくれ!
ぼくは心の中でそう叫んだ。それでも頭の中で蠢いている奴らは、嘲笑い、ぼくを責め苛むように、自分の辛さや恨みを撒き散らした。
薄れゆく意識の中で、水城がぼくに走りよりながら何かを叫んでいるのがわかった。
額に冷たい感触を感じて、ぼくは弾かれたように身を起こした。
辺りは真っ暗で、目が見えなくなったのかと思い、激しい恐怖が心臓の鼓動を激しくさせる。息が詰まりそうな絶望が心に降りてきた。
「大丈夫、慌てないで! もう大丈夫だから──」
ルクレツィアの押し殺した声が聞こえた。ライトが点り、その眩しい光によってぼくは目に痛みを感じた。目を細めてルクレツィアの姿を追う。
「ここよ」
ルクレツィアはそう言ってぼくに触れた。恐慌に陥りそうだったぼくは、おおきな溜め息を吐いて、やっと落ち着きを取り戻す事が出来た。
「ここは? ぼくは一体どうしたんだ? それに水城は?」
矢継ぎ早の、ぼくの質問を聞いたルクレツィアは、ぼくの手を握った。
「ここは寺の本堂の近くにあった伽藍とか言うものの中よ。圭たちは外で待機しているわ。結界が何重にも張ってあって、それを破らないと本堂まで辿り着けないの。
あなたは襲われたのよ。圭がそれを追い払ったみたいだけど……」
「襲われた? 誰に──いや、何に? どうやって襲ってきたんだ?」
「〈鬼〉の怨霊ですって──圭が言ったのよ。わたしは何が何だかわからないけど、あなたはこの寺に封印されていた、〈鬼〉の怨霊に精神攻撃を受けたらしいの」
「〈鬼〉の怨霊? 何だよそれは──水城がどうやってそれを撃退したのさ?」
「さぁ──何かわからない呪文みたいなものを唱えていたけど……」
ルクレツィアは困った顔をした。多分彼女も、多くは知らないのだろう。
多少の頭痛はするが、ぼくは立ち上がって、半分崩壊した扉に近づいた。
「まだ休んでいた方がいいわ。そんなに長い間、意識を失っていた訳じゃないのよ」
ルクレツィアが慌ててぼくの後を追ってきた。
ぼくは、鈍い痛みの残る頭を押さえながら、かまわずにその狭く暗い場所を出た。空は不気味なほど青白く、明るかった。月が凍てついた光を放っていたからだ。
水城は荒れ果てた本堂の前に立ち、抜き身の日本刀を振り回し、なにやら呪文のようなものを唱えていた。すこし離れて木戸が、神妙な顔つきでその姿を見つめていた。
空中を切り裂いている水城の長い刀は、月の光を受けて青く輝いていた。その幻想的なまでに美しい刃を見ていると、頭の中が清冽な気によって浄化されたような気がする。鈍痛もいつの間にか消えて行った。
水城はぶつぶつと呪文を唱えるのをいきなり止めた。そして青い刃を上段に構えると、短くも甲高い叫びを上げ、一気にその日本刀を振り下ろした。
それは凄まじい斬撃であった。水城の手にした〈鬼哭刀〉の刃は、何も無い空間を断っただけではなく、そこに存在している〈なにか〉も切り裂いたのがわかった。ぼくを苦しめた怨嗟の叫びが、苦痛と悔しさに呻きながら去っていったからだ。
水城は肩を上下させ、荒い息をしながら振り返った。その額には、この寒さだというのに滝のように汗が流れ落ちていた。
「上手くいったのか?」
木戸が胡乱な眼つきで水城に訊いた。その指はそわそわとマグナム・ライフルの銃床を撫で回し、きょろきょろと視線を空中に彷徨わせている。ああ、木戸はぼくを襲ったというモノを見る事が出来たのだ。〈鬼〉の怨霊とか言う代物を──。
「なんとかな。取りあえずはこれで前に進めるようになった──お、気がついたみたいだな? もう歩けるほど回復したのか?」
水城はぼくに気づくと、額の汗を拭いながら近づいて来た。
「どうやら大丈夫のようだな。間に合わないかと思ってたぜ」
ぼくの頭に右手を翳し、暫くしてから水城は破顔した。
「どういう意味だよ? それに〈鬼〉の怨霊って何の事なんだ?」
「おまえは精神感応力者だから、肉体が滅んで行き場の無い〈鬼〉に、憑依されるところだったんだよ。まぁ、俺が払ったから大丈夫だ」
「憑依? このぼくが?」
ぼくは吃驚して大声を出してしまった。慌てて辺りを見回して、何も変化が無いのを確かめた。ホッと胸を撫でおろし、水城の言葉を考えた。
ぼくは〈デーモン〉の精神攻撃を無効化する能力者だ。それが霊に憑依されるところだっただと? 喩えそれが〈鬼〉の怨霊だとはいえ、そんな事がある訳はない。
「〈鬼〉は特殊な〈デーモン〉なんだよ。怨霊が集まっておおきな塊になり、それがある条件に叶った人間の肉体に憑依して生まれる〈デーモン〉なんだ。
おまえのような強力なテレパスは、一番好まれる依代なのさ。何と言ってもいつだって人間の悪意や怨恨を味わえる存在だからな」
「でも、ぼくは完全に防御を張っていたぞ」
腑に落ちないぼくは、そう水城に食って掛かった。
「だから〈鬼〉は特殊なんだよ。肉体を持った〈鬼〉は、〈闇の種族〉と変わりない精神攻撃しか持たないが、怨霊はそうじゃないんだ。奴らはどんな人間にも憑依する事が出来る。そう、人間である限りは、な。奴らも元々は人間だったのだから……」
水城はそう言って哀しげな眼差しで朽ちかけた本堂を見た。そこに居ると思われているものは──。
「それじゃあ、憂姫も危ないんじゃないか? もしかしたらもう……」
「いや、あの娘は大丈夫だ。そんな亡者どもにくれてやるほど、〈綺堂院の宮〉も酔狂な〈鬼〉じゃないからな。あの〈鬼の姫巫女〉自身が守っているだろうさ。
それにしても、こうまで亡者どもが集まってきているとはな。どうも厭な気分だ」
それがどういう意味か良くわからなかったが、もう一つ質問があったので、ぼくは素直にそれを口にした。
「あんたは霊能力者だったのかい? 怨霊を払ったりする事が出来るって事は、そうなんだろう?
」
水城はぼくをまじまじと見て、唇に薄い笑いを浮かべた。
「そう言いたいんなら、どうぞ。確かに俺は、この世ならぬ者──いや、〈デーモン〉もそうなんだけどこれは別の話だ。そう、俺はおまえの言う怨霊とやらを見る事も、追い払う事も出来る。そう言う意味で俺の事を霊能者だと言うのならな」
「怨霊って──本当にそんなものがいるのか?」
ぼくは正直言って驚いてしまった。そんなものが本当に存在しているなんて。
「当たり前だ。ヴァンパイアも居るし、悪魔もやって来た。人狼も〈鬼〉も存在しているのに、怨霊だけが存在していないなんて莫迦な話はないだろう?」
水城は呆れたような口調でそう言うと、急に鋭い眼つきになり、鞘に戻してあった〈鬼哭刀〉をもう一度抜き放った。ひんやりした空気が辺りに立ち込めている。
「来るぞ! 結界を破られた事に気づいたようだ」
水城が叫ぶと同時に、ぼくはべネリ・ショットガンのオペレーティング・ハンドルを操作し、薬室にOOバック・マグナムを送り込んだ。直径八ミリの大きな鉛玉が、合計十二粒も入っている散弾だ。至近距離で発射されたその散弾は、ライフル弾よりもおおきな破壊力を持ち、人間の頭など消失してしまうほどのものだった。
ルクレツィアが走りより、緊張した面持ちで辺りを見回した。ぼくのプレゼントした、シグ・P239オートマチックを両手で握っている。
木戸はサコー・ライフルを肩づけし、真っすぐに、本堂のくすんだ色の扉に狙いをつけていた。木戸には──何かが見えるのだ。
酷く軋んだ音を立て、墨を吹きかけたような色合いの、観音開きの扉がゆっくりと開いた。その奥は光の差さない真の闇だった。しかし、その奥から進んで来るものたちは、ぼくの目にもはっきりと映っている。闇に浮かぶ五つの奇妙な影……。
それは──一見したところは人間のようであった。青白い裸身には、乱暴に縫い合わせた無数の傷が有り、手足の長さがばらばらで、そして……。
筋骨隆々の身体に痩せた老婆の顔が乗っており、豊満な乳房を揺らしたその首に、獰猛な顔つきの男の顔が、繋ぎ合わせてあったりしていた。
「──まさか〈反魂の法〉なのか……?」
水城が唾を飲み込んで、そう呟いたのが聞こえた。
マグナム・ライフル独特の、腹に響くような衝撃を発する、激しい轟音が響き渡ると同時に、闇から現れた奇妙な人物の頭が消し飛んだ。木戸が発砲したのだ。
「こいつら生きてる人間じゃねぇ! 頭を吹き飛ばすんだ!」
木戸はそう叫ぶと、ライフルのボルトを慌しく操作して、すぐさま次の目標に狙いをつけた。
ばらばらの四肢を持つ、フランケンシュタインもどきの化け物たちは、無言のまま一斉に飛び出してきた。月明かりに照らされたその表情には、何の感情も浮かんでいない。
「あいつらはゾンビみたいなものだから、脳髄を吹き飛ばさなければ動きを止めないぞ!」
水城はそう言って〈鬼哭刀〉を両手で握り締めた。正眼に構えて、半眼に目を閉じた。その化け物を迎え撃つつもりだ。
人形のようにぎこちなく動くくせに、妙に素早く移動してくるその化け物を見て、ぼくは多少なりとも怖気が走った。恐怖ではなく、生理的な嫌悪感にも似た感情だった。
べネリを構え、ダット・サイトの光点を、音も無く近づいてくる、少女の顔を持つそれに合わせた。引き金を絞ると、心地よい反動で銃床が肩を蹴り、OOバックのマグナム・ロードが発射された。まだあどけない少女の顔が、次の瞬間に肉塊のようになった。
惰性で動いていた脚がもつれ、水っぽい中年腹の白い巨体が倒れこんだ。その衝撃によって、四肢と顔の消失した首が、ばらばらになって散乱した。
ぼくはそれを横目で見ながら、次のターゲットを探した。それはぼくの頭上に跳んでいた。時間差攻撃だったのか?
ルクレツィアの悲鳴が上がった。べネリの銃身が上がるのがノロノロと感じて仕方が無い。ああ、もう間に合わない……!
さっと水城が飛び出した。裂ぱくの気合と共に、青い光が目の前を横切った。
水城の刀が薙いでいったのだ。ぼくに襲いかかったフランケンシュタインもどきが、空中で爆発して消失した。ぼとぼとと落ちてくるのは、細かく砕けた白骨だった。
何が起こったんだ? あの刀は何をしたんだ?
「気をつけな。奴らはただのゾンビじゃないんだ。ヴァンパイア並みの動きをするぜ」
水城はそう言って刀を一振りした。別に血糊など、その輝く刀身に付着している訳では無いのだが、それは水城の癖なのだろう。
ぼくは何も答えずにべネリを持ち上げた。そして水城の背後で跳躍した、少年の細い身体に、おおきな中年女性の顔のついたバランスの悪いその化け物に、ベネリを二連射した。
空中で、大粒散弾を身体に浴びせかけられたそれは、雑草が伸び放題の地面に激突した。それでもすぐに立ち上がるところを、さらにぼくは銃撃を加えた。もちろん、ぼくの放った散弾群は、その締まりの無い顔を吹き飛ばした。
同時に木戸のライフルの銃声が響き、
「やったぞ! これで最後だ!」
と言う歓声が聞こえた。取りあえずは一息つけそうだ。
悔しそうな顔つきの水城に、ぼくは微笑みを浮かべて答えた。
「あんたも気をつけなよ」
色々とあって更新が遅れました。
申し訳ありません。




