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「神の御加護を___接続」
* * *
椅子に座り、ぼーっと一点を眺めていると、隣人のいびきが聞こえてきた。
壁に視線を移し、うるさいな、と心の中でボヤく。
寮生活を初めて今年で5年目。
わりと長期間ここで生活しているというのに、隣人のいびきには慣れそうにない。
こんなことなら寮ではなく、一人暮らしを選ぶべきだったと今更ながらに後悔した。
当然、これまで苦情を入れようとしたことは何度もある。
しかし、隣に住んでいるのは俺より10年以上も先輩の兵士なのだ。
苦情を入れようものなら、後で何をされるか分かったものではない。
兵士というのは、それほどまでに上下関係がはっきりしている職業なのだ。
寮の監督者に頼んでもう少しだけ壁を厚くしてもらおう、などと考えながら俺はため息を吐いた。
ふと、壁に掛けられている時計を見た。
時刻は24時を超え、長針は2の数字を指し示そうとしている。
「……連絡なし、か。普段ならこんなことないんだけどな」
俺は手のひらサイズの……しかし高価な魔道具を眺めながら首を傾げた。
この時間___24時。
俺は恋人と魔道具を介して会話をする約束をしていた。
これは、二人が人前で会うことは難しいからと交際当初から決めていた事だった。
交際を初めて約1年、この約束が破られたことはない。
時間に遅れることは何度かあったが、その時は必ず事前に連絡があった。
しかし、今日はその連絡がない。
普段はクールな俺でも、心配になるのは仕方のないことと言えよう。
俺はチラリ、と机に置かれた魔道具に目を向ける。
離れた場所でも会話することができるという、王国内でもなかなかお目にかかることができない魔道具だ。
当然、一般の……それも下っ端の兵士に支給されるものではない。
買おうものなら、常人には想像もつかないような莫大な富が必要となるだろう。
それこそ、巨大な城を建設できるくらいの金額である。
俺であれば、休むことなく一生をかけて働いたとしても、購入することなどできないだろう。
では、何故俺のような兵士が……もとい下っ端の兵士がそんな高価なものを所持しているのか。
理由は至極単純、貰ったからである。
恋人であり、そしてこの国の頂点に君臨する国王の娘から。
恋人の名はリン。
リン=エドワード。
リンは、このエドワード王国の王女様である。
可憐な見た目もさることながら、「剣姫」と呼ばれるほどの剣の腕を誇る。
金髪碧眼の、まるで物語の世界から出てきたかのような彼女は、王国内外で支持を得るほどの人気っぷりだ。
聞いた話によると、彼女のファンクラブ、なんてのもあるらしい。
なぜ、お前みたいな下っ端の兵士が王女様と付き合えたのか。
どういう流れから、交際へと発展したのか。
これは、リンと俺の交際を知っているごく一部の者からはよくされる質問だ。
大変失礼な質問で不服なのだが、納得できてしまう部分もあるため、俺は何も言い返すことができない。
正直に言ってしまえば、交際できたのはただの流れなのだ。
訓練場で自主練習をするうちに顔見知りになり。
会えば挨拶をするようになり、会話をするようになり。
一緒に練習をするようになり、たまにお忍びで出かけることもあり。
「ねえねえ、私と付き合わない?」
「……え? ああ、まあ、いいけど」
そして、交際が始まった。
これがちょうど一年くらい前の話だ。
魔王を倒して絆が深まった後に結ばれただの、何か大きな障壁を乗り越えた後に結ばれただの、そういうわけではない。
この世界の魔王は既に病死してしまっているし、交際を特に公表もしていないので今のところ障壁もない。
相手は王族であり、俺は王国兵士。
交際を公表するわけにはいかない。
だから、こうして魔道具を駆使して、毎日、この時間くらいは恋人の時間を作ろうということになったのだ。
俺は再び時刻を確認した。
___24時23分。
約束の時間から、既に20分以上が経過していた。
何かあったのだろうか。
何の連絡もないと、やはり心配になる。
そういえば、最近のリンの様子もどこかおかしかった。
いつも通りと言われればそうなのかもしれないが、話していて違和感を感じるのだ。
元気がないというか、テンションがいつもと違うというか……。
回転するタイプの椅子を回し、部屋を見渡した。
ちゃぶ台の上にある、新聞紙が目につく。
その新聞のちょうど開かれていたページ。
それを見て、俺はハッとした。
「……もしかして、あの噂のせいか?」
現在、王国内をざわつかせている噂話がある。
信憑性などないが、国民が興味を持つのは当然の話題だった。
___奴隷の大量虐殺。
その犯罪を、王族が主体となって行っているというのだ。
俺は本や新聞を読むのは苦手なので、記事もそこまで熱心に読んだわけではない。
だが、そんな俺でもある程度の内容を把握しているくらい、王国内はこの話題で持ち切りだった。
奴隷といえど、当然殺人までは認められていない。
もしそんな犯罪を本当にしているのだとしたら、王族は国民からの支持を一気に失うことになる。
王族が失墜するかも、という話もあるくらいだ。
ともかく、王族は今その対応に追われ、忙しい。
弁解するため、王族は今必死になって動いているのだろう。
通話ができないのも、仕方がないのかもしれない。
もう寝るか、と席を立った瞬間。
「……っ」
パリン、と音がして、玄関に飾ってあった花瓶が割れた。
ひび割れたのではない。
破片を辺りに散らかし、バラバラになっていた。
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