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簡単に死ねるなんて思わないことね。

作者: 白昼夢
掲載日:2026/01/07

 ――私が死んだのは、公爵家の地下牢だった。


 錆びた鎖に繋がれ、骨の浮いた手首から血が滴る。

 最後に聞いたのは、義母の冷たい声と、妹のくすくす笑い。


「やっと片付いたわね。出来損ないの長女なんて、最初から要らなかったのよ」


 毒を盛られ、罪を着せられ、婚約者には裏切られ、領地横領の濡れ衣まで被せられて。

 公爵令嬢アリシア・フォン・グラントは、そうして誰にも惜しまれず死んだ。


 ――はず、だった。


 ◆


「……ここは……?」


 目を開けると、天蓋付きの豪奢なベッド。

 柔らかなシーツの感触と、朝の光。


 私は飛び起き、鏡を掴んだ。


「……十六歳?」


 そこに映るのは、まだ殺される前の私。

 運命の日より、ちょうど三年前。


 理解するのに時間はかからなかった。


 ――時間が、巻き戻っている。


 神の慈悲? いいえ、違う。

 これは私が奪い返すために与えられた猶予だ。


「ふふ……」


 喉の奥から、自然と笑いが漏れた。


「今度は、私の番ね」


 ◆


 前の人生で、私は“良い娘”を演じ続けた。

 義母に殴られても、妹に踏み台にされても、婚約者に蔑まれても。


 結果が、地下牢での孤独な死。


 ――だから、もう遠慮はしない。


 まず最初に潰すのは、義妹のリリアーナ。


 彼女は清純可憐を装い、裏で私の評判を落とし、最終的には婚約者を寝取った女だ。


 私は彼女の弱点を、全部知っている。


 貴族学院の試験問題の事前漏洩。

 裏で手を引いていた家庭教師との不適切な関係。

 そして、父の印章を勝手に使った横領。


 ある日の茶会。


「お姉様って、やっぱり地味ですわね」


 そう言って微笑むリリアーナに、私は優雅に微笑み返す。


「ええ。でも地味な方が、書類整理には向いていますもの」


 その翌週、父の机から見つかった不正書類。

 筆跡鑑定。証人。証拠。


 追い詰められたリリアーナは泣き喚いた。


「ち、違うの! お姉様が……!」


 私は彼女の耳元で、囁く。


「安心して。まだ“死なない”から」


「……え?」


「簡単に死ねると思わないことね」


 リリアーナは貴族籍を剥奪され、修道院送り。

 そこで何が待つか――私は、前の人生で聞いている。


 ◆


 次は義母。


 彼女は公爵家の財産を食い潰し、最後には私を“事故死”に見せかけて始末する女だ。


 だから今回は、合法的に、完璧に潰す。


 私は帳簿を改竄しない。

 改竄されている“本物”をそのまま提出するだけ。


 王都監査官が公爵家に踏み込んだ日。


「これは……横領と脱税の証拠ですね」


 義母は蒼白になり、私を睨みつけた。


「アリシア……あなた、何をしたの……!」


 私は首を傾げる。


「何も? ただ、真実を並べただけですわ」


 彼女は牢に入れられた。

 あの地下牢よりは、ずっとマシな場所だろう。


 ……感謝してほしいくらいだ。


 ◆


 最後は、元婚約者。


 王太子の側近でありながら、裏で賄賂を受け取り、私を切り捨てた男。


 彼は今回も、私を見下す。


「君のような女に、王都社交界は無理だ」


 だから私は、彼が“絶対に失えないもの”を壊す。


 忠誠。名誉。未来。


 王太子殿下に、静かに告げた。


「殿下。彼は、敵国と内通しています」


 証拠は山ほどある。

 前の人生で、私が処刑される直前に聞いた“自白”まで含めて。


 男は処刑台の前で叫んだ。


「アリシア……! お前が……!」


 私は群衆の中で、静かに微笑む。


 ――やられたらやり返す?

 いいえ。


 やられる前に、叩き潰すのよ。


 ◆


 全てが終わった後、公爵家は再建された。


 私は当主代理として、冷酷と評されながらも領地を立て直す。


 慈悲は、選別して与えるもの。

 敵には不要。


 夜、書斎で紅茶を飲みながら、私は呟く。


「一度死んだくらいで、終わると思った?」


 これは復讐譚であり、再生の物語。


 そして――


 二度目の人生を、誰よりも愉しむ女の話だ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

やられっぱなしでは終わらないアリシアの物語、楽しんでいただけたら嬉しいです。


この物語には、その後のエピソードを描いた連載版もあります。

少しでも気になった方は、ぜひそちらも覗いてみてください。

よければ評価やブックマークで応援してもらえると励みになります。


――白昼夢


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