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新社獣ハンター 外国人火葬ビジネスの闇を暴け!

火葬場を題材にした物語は、ずいぶん前から書きたいと思っていました。ですが、どうしてもアクションシーンがうまく描けず、筆が止まってしまっていたのです。とはいえ、いつまでも温めていると、構想そのものを忘れてしまいそうで……。そんな危機感もあり、今回は思い切って書き上げることにしました。おどろおどろしい舞台の中で、伊田裕美がどんな真実に向き合うのか、ぜひ見届けていただければと思います。

【登場人物】

社獣ハンター

伊田裕美いだ ひろみ

黒髪ショートカットの首領格。格闘技の天才で必殺技「飛燕真空回し蹴り」を操る。冷静沈着で頭脳戦・肉体戦を兼ね備える。

• 五十嵐いづみ(いがらし いづみ)

女優・山岸あや花を思わせる美貌。175cmの痩身で知的な雰囲気。黒縁メガネに仕込んだ小型カメラで敵の動きを記録。セクハラ社獣を罠にかけることを得意とする。

青島美香あおしま みか

若きアシスタント。伊田と五十嵐を尊敬し、彼女たちを支える存在。

• 暗号屋

情報工学の専門家。盗聴・盗撮を駆使し、最新情報を解析してハンターを援護。

• ドラゴン(龐統)

身長180cmの空手プロ。真ん中分けの髪が特徴。静かな呼吸の奥に爆発的な一撃を秘める。

• ブタッキー

政府の要人であり、社獣ハンターの司令塔。翁の能面をつけ、滝沢英明に似ていると豪語したことからこのあだ名で呼ばれる。

• モニター上のインターフェース

信頼性の高い通信システム。確実な情報を伝えるハンターの目と耳。


第一章:行方不明者続出

アメリカ西海岸。深夜零時を回ったキャンパスは、冬の冷気に沈み、街灯の光だけが濡れたアスファルトを照らしていた。遠くで救急車のサイレンが細く伸び、霧の中へ消えていく。

大学研究棟の一室だけが、夜更けにもかかわらず明かりを灯していた。

ハリー・マルテル教授――臓器移植統計の第一人者。白髪混じりの髪をかき上げながら、彼はモニターに映る数字の列を凝視していた。

「……合わんな」

低くつぶやく声が、静まり返った部屋に落ちた。

「世界的に、臓器提供者と臓器移植を受けた人数が一致しない。それも数人の誤差ではない。万単位だ」

教授は椅子から立ち上がり、窓の外の闇を見つめた。

「統計が合わない。これは偶然ではないはずだ……どこかに“供給源”がある。私はそれを疑っている」

その瞬間、部屋の照明が一度だけ瞬いた。

教授は気づかない。

彼の研究が、すでに“誰か”の監視下にあることを。

東京・品川区。桐ヶ谷斎場。

冬の朝の空気は冷たく、斎場の煙突から立ち上る白煙が、どこか不吉な影を落としていた。

職員たちの足音は妙に少なく、敷地全体が静まり返っている。まるで何かを隠しているかのように。

その日、また一つ、都内の民営火葬場が中国系企業に買収されたというニュースが流れた。

これで、東京の民営火葬場はすべてC国資本の手に渡ったことになる。

最初に中国人が日本の火葬場を買ったのは、わずか二年前。

だが、その時期と奇妙に重なるように、行方不明者が増え始めた。

最初は日本に来た留学生。

次に技能実習生。

そして今では、日本人の若者や単身者までもが、音もなく消えていく。

火葬炉の奥で燃える炎が、まるで何かを呑み込むように揺らめいた。

横浜市・学生向けアパート。

薄暗い廊下に、警察官の制服が二つ並んでいた。

家主・須田久子は、震える声で事情を説明していた。

「青山涼子さんが……急にいなくなったんです。前まで、今度の合宿で“日の出荘”に行くって楽しそうに話していたのに……」

警察官は淡々とメモを取り、形式的な質問をいくつかして帰ろうとした。

「もう少し探していただけないんですか……?」

「ええ、まあ、何かあれば連絡しますので」

その言葉は、捜査の打ち切りを意味していた。

青山涼子――

ラウンジのアルバイトを終え、帰宅する途中で姿を消した。

監視カメラにも映らず、目撃者もいない。

まるで、空気に溶けるように。

そして、彼女だけではない。

毎日、少なくとも一人が姿を消している。

都市の闇が、静かに、しかし確実に人々を呑み込んでいた。


第二章:政治家の関与

地方都市の冬の夕暮れは早い。

繁華街のネオンが灯り始める頃、駅前ロータリーには異様な熱気が満ちていた。

赤い選挙カー――《レッド・チャプ号》がゆっくりと停まり、スピーカーが唸りを上げる。

車の屋根に立つ男は、ひときわ目を引いた。

岡田岡也。

平成親切組の代表にして、かつては“二枚目議員”と呼ばれた男。

若い頃は、街を歩けば女性が振り返り、握手を求めれば列ができた。

だが今は違う。

歳月は残酷で、彼の顔はまるで粘土を無理にこねたように歪み、深い皺が刻まれていた。

身長は二メートル。

その巨体と崩れた顔立ちから、陰では“フランケンシュタインの怪物”と揶揄されている。

しかし、本人は気にする様子もない。

むしろ、その異様な風貌が群衆の視線を集めることを、政治的武器として利用しているようだった。

岡田はマイクを握り、腹の底から声を響かせた。

「皆さん、給料足りていますか? 生活は楽ですか? 物価は安いですか?」

聴衆の間にざわめきが走る。

買い物袋を提げた主婦、仕事帰りのサラリーマン、学生、老人。

誰もがその問いに心当たりがあった。

「これらはすべて与党の責任です。皆さんの生活が苦しいのは――皆さんのせいじゃないんです」

「そうだ!」

「その通りだ!」

怒りと共感が混じった声が飛ぶ。

岡田は、ゆっくりと群衆を見渡し、さらに声を低くした。

「悪は……誰とは言いませんがね。外国から金を貰って私腹を肥やす売国政治家です」

群衆の空気が一段と熱を帯びる。

「よくね、金をくれくれ言う政治家がいます。政党助成金が250円じゃ無理だ、5,000円くれればやっていける……そんなわけないんですよ!」

岡田は拳を振り上げた。

「私は政治家として貰っている給料だけで、生活も政治活動も行います!」

拍手が爆発した。

ロータリーの空気が震えるほどの音だった。

「国民に本当に寄り添っているのは……平成親切組……だけです!」

演説が終わると、岡田はゆっくりと《レッド・チャプ号》の階段を降りた。

その巨体が地面に降り立つと、周囲の空気がわずかに揺れたように感じられた。

そのとき――

「岡田先生!」

細い声が人混みをかき分けて近づいてきた。

肩までの黒髪、白い肌。

どこか病弱そうな雰囲気をまとった二十歳の女子大生が、息を切らしながら駆け寄ってきた。

池田裕子。

有名大学の政治学科に通う二年生で、平成親切組の熱心な支持者だった。

「先生……先生のお役に立ちたいんです。ボランティアで参加させてください」

岡田は、ゆっくりと池田を見た。

頭のてっぺんから足首まで、舐めるように視線を滑らせる。

その目は、政治家のものではなく、獲物を値踏みする捕食者のようだった。

「……いいよ。僕も助かるよ」

池田は顔を輝かせ、深く頭を下げた。

「ありがとうございます! 本当に……本当に嬉しいです!」

岡田は微笑んだ。

だがその笑みは、どこか歪んでいた。

「じゃあ、後でスタッフに案内させるから。少し待っててね」

「はい!」

池田は胸に手を当て、感激したように頷いた。

しかし――

その日を境に、池田裕子の姿を見た者は、誰一人としていない。

繁華街のネオンが瞬き、冬の風がロータリーを吹き抜けた。

人々の歓声が消えた後、そこにはただ、静かな闇だけが残っていた。


第三章:社獣ハンター出動

東京・新宿区。

雑居ビルが立ち並ぶ一角に、ひっそりと存在する十階建ての古いビルがある。

外観はくすんだコンクリート、看板もなく、夜になれば誰も気に留めない。

だが、その最上階――

そこに、国家の裏側を支える秘密組織《社獣ハンター》のオフィスがあった。

エレベーターが静かに開く。

重い足音とともに現れたのは、一人の巨体の男だった。

通称・ブタッキー。

政府の要人であり、社獣ハンターの司令塔。

翁の能面をつけ、肥満で揺れる体を包むスーツは、どこか窮屈そうだ。

本人は「滝沢秀明に似ている」と豪語しているが、能面の奥の素顔を知る者は少ない。

「……みんな、揃っているか」

低く響く声に、室内のメンバーが一斉に姿勢を正した。

黒髪ショートの首領・伊田裕美。

知性と美貌を併せ持つ五十嵐いづみ。

若きアシスタントの青島美香。

そして、モニター越しに常時接続されたAIインターフェース。

「揃っています、司令」

ブタッキーはゆっくりと会議卓の前に立ち、能面の奥から鋭い視線を放った。

「君たちに、臓器売買の組織を摘発してほしい」

その言葉と同時に、部屋の照明が落ち、巨大モニターが点灯した。

AIが映し出したのは、二人の男の写真。

一人は、中国人ビジネスマン・沮授そじゅ

もう一人は、平成親切組の代議士・岡田岡也。

伊田が眉をひそめる。

「……この二人が、つながっているの?」

ブタッキーは頷き、重々しく語り始めた。

「我々が調べた限りでは、岡田が政治的な便宜を図り、沮授が東京の火葬場を買い占めている。そして――人をさらっては臓器を抜き取り、火葬場で証拠ごと焼却している」

室内の空気が一瞬凍りついた。

AI先生が淡々と補足する。

「火葬場で使われている熱量が、通常の倍以上に増加しています。臓器摘出後の処理が行われている可能性が高いです」

五十嵐が眼鏡の奥で目を細めた。

「つまり……火葬場そのものが“処理場”になっているわけね」

「その通りだ」

ブタッキーは拳を握りしめた。

「この件が表に出れば、政権が吹き飛ぶ。だからこそ、君たちに頼むしかない」

伊田裕美は静かに立ち上がり、首領としての覚悟を示すように言った。

「わかったわ。沮授と岡田岡也――二人の闇を暴いてみせる」

その声は、鋼のように冷たく、揺るぎなかった。

その頃、銀座。

夜の街にネオンが滲み、黒塗りの車が次々と高級クラブへ吸い込まれていく。

岡田岡也は、政党助成金を湯水のように使い、現役AV女優が在籍するという高級クラブ《峰》に入り浸っていた。

沮授と岡田は、店の女性を“お持ち帰り”した数を競い合っているという噂まである。

その裏で――

社獣ハンターの作戦が動き始めていた。

青島美香は、ブタッキーの政治力によって岡田の私設第三秘書として潜り込むことに成功。

五十嵐いづみは、黒縁メガネに仕込んだカメラを携え、《峰》へ潜入する。

伊田は、二人の動きをモニター越しに見守りながら、静かに拳を握った。

「岡田……沮授……必ず尻尾を掴んでやる」

東京の夜は深く、冷たく、そして静かに――

社獣ハンターの影が、闇の中へと動き出していた。


第四章:火葬場

翌日。

東京郊外にある火葬場は、朝の薄曇りの中に沈んでいた。

外観はどこにでもある公共施設のように見えるが、どこか空気が重い。

建物の奥からは、低く唸るような機械音が絶えず響き、周囲の空気を震わせていた。

その施設の裏口から、一人の青年が無言で入っていく。

身長一八〇センチ、真ん中分けの髪。

静かな呼吸の奥に爆発的な力を秘めた男――ドラゴンである。

彼は今日から“アルバイト職員”として潜入していた。

一般的な火葬場では、1日に10〜20体前後の火葬が行われる。

都市部の大規模施設では30体以上を処理することもある。

だが、この火葬場は明らかに“異常”だった。

朝から炉は休むことなく稼働し、作業員たちは疲れ切った表情で黙々と動いている。

ドラゴンはその様子を観察しながら、胸の奥に冷たいものが広がるのを感じていた。

その日、火葬されるのは一人の男性――倉田充雄。

身体障害者で、片足を失っていた。

本来なら、火葬前に家族が故人の顔を見て別れを告げる“最後の儀式”がある。

しかし、この火葬場ではそれが行われない。

理由を尋ねても、職員は「規則です」とだけ答えた。

倉田の家族は不安げに炉の前に立ち、静かに手を合わせた。

炉の扉が閉まり、機械音が一段と大きくなる。

しばらくして、骨上げの時間になった。

白い骨壺の前で、倉田の妻がふと声を上げた。

「……えっ? どうして……主人の足が、二本あるの?」

その場にいた親族たちは顔を見合わせたが、誰も言葉を発しなかった。

職員は淡々と作業を続け、説明を求めても曖昧な返事しか返ってこない。

ドラゴンはその光景を見て、確信した。

――この火葬場では、二つの遺体を“まとめて”焼いている。

深夜。

火葬場は昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

だが、その静寂の裏で、ひとつの影が動いていた。

暗号屋だ。

彼は遠隔操作で火葬場のセキュリティ・システムを一時的に狂わせていた。

大学時代、自分の大学のセキュリティを落として学内を騒然とさせたほどの腕前。

この程度のシステムなら、彼にとっては“遊び”に等しい。

「今だ、入れる」

暗号屋の声がインターフェース越しに響く。

ドラゴンは外で待機していた伊田裕美と合流し、火葬場の裏口から静かに侵入した。

薄暗い廊下を抜け、階段を降りる。

地下へ向かうほど、空気は冷たく、湿り気を帯びていく。

やがて、巨大な冷凍室の前にたどり着いた。

伊田が鍵を解除し、扉を押し開ける。

冷気が一気に吹き出し、二人の頬を刺した。

室内には、複数の遺体が吊るされていた。

どれも、火葬前の状態ではない。

ドラゴンはその中の一体を見た瞬間、息を呑んだ。

「……池田、裕子……?」

銀座で岡田に声をかけた、あの女子大生。

政治学科の二年生で、平成親切組に心酔していた少女。

彼女は、すでに命を奪われていた。

身体には“何かを取り除かれた痕跡”があり、血の気が失われた肌は冷たく硬い。

伊田は唇を噛みしめ、静かに言った。

「……ここで、臓器を抜き取っているのね」

ドラゴンは拳を握りしめた。

怒りが胸の奥で燃え上がる。

この地下では、誘拐された人々の臓器が摘出され、

翌日には別の遺体と“抱き合わせ”で焼却されていた。

証拠はすべて、火葬炉の炎の中に消える。

だからこそ、誰も気づかない。

伊田は冷静にカメラを構え、室内の様子をすべて録画した。

ドラゴンも周囲を確認しながら、証拠となる映像を確実に押さえていく。

「これで十分。戻るわよ」

伊田の声は低く、しかし確固としていた。

火葬場の地下に広がる闇は深く、冷たかった。

だが、その闇の中に、社獣ハンターの光が確かに差し込んだ瞬間だった。


第五章:銀座クラブ「峰」

夜の銀座は、冬の冷気を押し返すように光を放っていた。

舗道に落ちるネオンの反射は、宝石のように細かく震え、通りを行き交う人々の影を長く引き伸ばす。

その中心に、ひときわ落ち着いた佇まいで立つクラブがある――銀座クラブ「峰」。

扉を開けた瞬間、外の喧騒はふっと遠ざかり、柔らかな照明と深いワインレッドの絨毯が客を包み込む。

低く流れるジャズ、磨き上げられたグラス、香水と煙草が混じり合う大人の匂い。

ここは、欲望と虚栄が静かに交差する場所だった。

その夜、「峰」はいつも以上にざわついていた。

五十嵐いづみ――新人ホステスの“初ひろめ”の日だったからだ。

カウンターの奥から現れた彼女を見た瞬間、空気がわずかに揺れた。

山岸あや花を思わせる、透明感と妖艶さが同居した顔立ち。

切れ長の瞳は、笑うと柔らかく弧を描き、しかし奥に何かを隠しているようにも見える。

そのアンバランスさが、男たちの視線を一瞬で奪った。

その中でも、ひときわ大きく反応した男がいた。

両脇にホステスを抱え、上機嫌で笑っていた岡田である。

「おいおい、なんだあの子は……」

いづみが近づくにつれ、岡田の目は獲物を見つけた獣のように光り始めた。

いづみが軽く会釈すると、岡田はもう完全に心を奪われていた。

そして案の定、夜が更ける前に岡田は言った。

「いづみちゃん、ちょっと付き合ってよ。いい店、知ってるんだ」

いづみは微笑み、逆に囁いた。

「あたしのほうが、もっといい夢を見れる場所を知ってますよ」

その声は甘く、しかしどこか冷たい。

岡田は気づかない。

彼女が案内した先が――ラブホテル『サイバー』。

社獣ハンターが経営し、客の情報がすべて筒抜けになる、あのホテルだということを。

ホテルの一室。

バスルームからシャワーの音が響く。

岡田は湯気の中で鼻歌を歌いながら、得意げに言った。

「君も入れよ。遠慮すんなって」

シャワーを止め、バスタオルを巻いた岡田は、ベッドに座る女性の肩に手を置いた。

「恥ずかしがるなよ……」

その瞬間、女性がゆっくりと振り向いた。

「えっ……誰だ、お前……?」

岡田の顔から血の気が引く。

そこにいたのは、いづみではない。

しかし、いづみと同じほどの美貌を持つ女――伊田裕美だった。

裕美はにこりと笑った。

「えへへ……お前でいいや」

「な、なんだよそれ……」

「――御生憎様」

次の瞬間、裕美の身体がしなやかに跳ね上がる。

美しい軌道を描いた脚が、風を裂いた。

『飛燕回し蹴り』

乾いた衝撃音が部屋に響き、岡田の身体はベッドに叩きつけられた。

意識が落ちるまで、ほんの一瞬だった。


第六章:影、動き出す

翌日の朝、沮授の事務所には薄い霧のような緊張が漂っていた。

机の上の暗号化端末が震え、C国からの密報が届く。

――臓器売買を探る一団が、日本国内で動き始めている。

沮授は眉をひそめた。

それだけではない。昨夜から、岡田とまったく連絡が取れない。

あの男が黙って姿を消すなど、あり得ない。

「最初に疑うべきは……ドラゴンか」

沮授は呟き、次に銀座クラブ「峰」の五十嵐いづみの名を思い浮かべた。

峰のママ、大方正恵からの報告――岡田がいづみを“持ち帰った”という。

岡田という男は、性交の後、相手を臓器提供者にしてしまうことで知られていた。

もう一つの可能性は、気に入りすぎて性奴隷にすることだが……

沮授は鼻で笑った。

「岡田にそんな度胸はない」

その頃、ドラゴンは無言でスマホを閉じた。

画面に表示されたのは、ただ一行のメッセージ。

――地下室に来い。

挑発とも、命令ともつかない短い文。

だが、送り主が誰かは分かっていた。

ドラゴンは表情を変えず、ビルの裏手にある非常階段へ向かった。

夜気が冷たく、金属の手すりがひんやりと掌に吸い付く。

階段を降りるたび、足音がコンクリートに吸い込まれていく。

地下へ続く扉を開けると、湿った空気がまとわりついた。

蛍光灯は時折ちらつき、薄暗い廊下に影を落とす。

ドラゴンは何も気づかないふりをしながら、ゆっくりと歩を進めた。

廊下の奥。

一本だけ明かりが灯る部屋の中央に、沮授が立っていた。

「来たな、ドラゴン」

その声は静かだったが、底に冷たい棘が潜んでいた。

ドラゴンは無言で一歩踏み出す。

「呼び出しとは珍しい。何の用?」

「とぼけるな。お前が何を探っているか、もう分かっている」

沮授の目が細くなる。

その瞬間、空気がわずかに震えた。

――次の瞬間、戦いが始まった。

ドラゴンの動きは、影が跳ねるように速かった。

沮授が懐から何かを取り出すより早く、ドラゴンの足が床を滑り、距離を詰める。

沮授は反射的に身を引き、机を蹴って間合いを取った。

「ちっ……!」

沮授は舌打ちしながら、壁際に置かれた金属棚を倒して進路を塞ぐ。

だが、ドラゴンは迷いなくその上を踏み越えた。

蛍光灯の光が揺れ、二人の影が壁に大きく伸びる。

「逃げ場はない!沮授」

「ふん……そう思うか?」

沮授はポケットから小さな筒を取り出し、床に叩きつけた。

瞬間、白い煙が広がり、視界が一気に曇る。

ドラゴンは咄嗟に後退し、煙の中の気配を探った。

だが、沮授の足音はすでに遠ざかっていた。

「逃げ足だけは速いね……」

煙が薄れていく中、ドラゴンは静かに息を吐いた。

沮授は闇に紛れ、地下室から姿を消していた。


その日の夜。

五十嵐いづみは、いつもと変わらぬ笑顔で「峰」を出た。

だが、駐車場に入った瞬間、五人の男が影のように現れ、彼女を囲む。

「今日は俺たちがお前を“お持ち帰り”だ。性奴隷にしてやるよ」

いづみは小さく笑った。

「ふふ……奴隷になるのは、どちらかしら」

男たちが一斉に動こうとした瞬間――

風が切れ、ひとりの女が姿を現した。

伊田裕美。

次の瞬間、殺陣のような鮮やかな動きが駐車場に広がった。

裕美の蹴りと拳が、影のように男たちを薙ぎ倒していく。

五人は抵抗する間もなく地面に転がった。

その中に、臓器摘出を担当していた医師・高橋欣三の姿があった。


*夜の神戸港。

外国へ渡る船が静かに波を切り、甲板には潮風が吹き抜けていた。

葉巻ハバナをくゆらせながら、沮授は海を眺めていた。

「あと数時間で日本ともお別れだ……」

その背後に、影が落ちる。

「それは、むりあるあるよ」

沮授は振り向き、目を見開いた。

「き、貴様……ドラゴン!」

「降りてもらうわね」

その声と同時に、もう一つの影が跳び上がった。

伊田裕美だ。

彼女の脚が弧を描き――

飛燕回し蹴りが沮授の側頭部を捉えた。

沮授の身体は、甲板から海へと吸い込まれるように落ちていった。

「ちょっと……乱暴にしすぎたかしら」

裕美は肩をすくめた。

岡田は、目を覚ました瞬間に状況を理解した。

暗闇。狭い空間。木の匂い。

――棺の中だ。

背中に触れる冷たい板の感触で、全身が一気に冷えた。

縛られた手足は動かず、息を吸うたびに胸が圧迫されるような錯覚に襲われる。

「う、うそだろ……ここ、火葬場じゃねぇか……」

声は木の壁に吸い込まれ、外には届かない。

岡田は必死に身をよじったが、棺はびくともしなかった。

隣の棺から、くぐもった声が聞こえる。

「おい……誰か……助けろ……!」

沮授の声だ。

さらに別の棺から、震える声が続く。

「ま、待ってくれ……こんな終わり方は……」

高橋欣三だった。

三人の声は互いに届いているのか、届いていないのか分からない。

ただ、棺の中の暗闇は、彼らの恐怖を静かに増幅させていった。

岡田は必死に叫んだ。

「おい! 沮授!高橋!誰でもいい、助けてくれ!

このままじゃ……焼かれちまう……!」

返事はない。

代わりに、遠くで機械が動くような低い音が響いた気がした。

岡田の喉がひゅっと鳴る。

自分の呼吸の音が、やけに大きく聞こえる。

「いやだ……いやだ……!」

棺の中で、三人の恐怖はそれぞれの形で膨らんでいった。

暗号屋が沮授と岡田のアカウントを完全に乗っ取り、量子コンピュータで解読したパスワードを使って、彼らの悪事をSNSに一斉公開した。

ネットは瞬く間に炎上した。

• 「外国人が火葬場を買い取ったのは、臓器売買した死体を処理するためだった」

• 「岡田の“行方不明女性リスト”がヤバすぎる」

• 「沮授の裏金ルート、完全にアウト」

• 「医師・高橋欣三、臓器摘出の黒幕だった」

• 「社獣ハンターが動いた理由がこれか……」

火葬場の扉が開き、警察官たちが駆け込んできた。

棺の蓋が一つずつ外されると、全員、蒼白な顔で転がり出てきた。

助かった安堵よりも、これから訪れる現実への恐怖のほうが濃かった。

警察は淡々と彼らを引き起こし、手錠をかけた。

抵抗する力など、もう残っていない。

――解放されたあと、彼らが向かった先はただ一つ。

刑務所。

棺の暗闇で味わった恐怖は、終わりではなく、

これから始まる長い報いの序章にすぎなかった。


吉高、物語の締めとしてとても美しい情景だね。

激しい章のあとに、静かな余韻を残す“呼吸の場面”として完璧に機能する。

あなたの世界観に合わせて、エピローグを小説風に整えてみたよ。


エピローグ

午後のスターバックスは、柔らかな陽光に満ちていた。

ガラス越しに見える街路樹が、冬の風にかすかに揺れている。

窓際の席で、伊田裕美はカフェラテをゆっくりと口に運んだ。

その向かいでは、五十嵐いづみが小さなカップのエスプレッソを指先で転がしながら、静かに香りを楽しんでいる。

「最近は我々が思いつかない悪が次々と現れるわね」

裕美がカップを置きながら言うと、いづみは微笑んだ。

その笑みは、銀座の夜とは違う、素の表情だった。

「そうね。でも……私たちが頑張らないとね」

二人の視線が交わり、言葉以上のものがそこに流れた。

戦いの痕跡はどこにもない。

ただ、日常の中に溶け込んだ“影の守護者”たちの静かな決意だけがあった。

店内に流れるBGMが、ゆっくりと曲調を変える。

外では、夕暮れが街を金色に染め始めていた。

――そして、物語は静かに幕を閉じる。

(完)

現在、構想中の作品がいくつかあります。ひとつは「社獣ハンター」で、殺人サプリメント《満汁まんじる》をめぐる物語。そしてもうひとつは「佐藤さわりシリーズ」。人生相談を装いながら、人々を地獄へと導く魔女・須田久子スーダが登場します。どちらも、現代社会の歪みを鋭く描き出す作品になる予定です。今後も、読者の皆様の心に残るような物語を紡いでいければと思っています。

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