アンジー
9話目
ーーー サイド アンジー ーーー
あの後、結局、廊下の突き当りの隠し扉は開ける事はしませんでした。
サーニンとマックスが2人してこの扉の向こうはヤバいよねと言い出したので、私も何と無く嫌な気がしたので、多分あの向こうはそう言う危ないモノなのでしょう。きっと。
感とかそう言うのは大事にしないといけません。
と言う訳で宿屋、【白虎亭】に帰って来ています。
これから、晩御飯を食べる処です。
今日のメニューは、熱々の焼きチーズたっぷり乗せドリアとポタージュスープ、ポテトサラダとお皿に山盛りのフライドポテト。デザートはチーズケーキです。
何か、かぶり被りしている気がしますが美味しかったので良いでしょう。量もたっぷりで十分と堪能しました。
相変わらずここの料理は美味しいです。
満足して眠れます。
お風呂入りたい。けど、もう少し我慢。
自宅から宿屋への帰り道で湯冷めしちゃうものね。
グレアム君、早く帰っておいで待ってるよ。
お休みなさい。
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ーーー サイド グレアム ーーー
グレアム君は今だに50階層に居ました。
レベル上げに勤しんでいます。
50階層はトカゲ系の魔物でした。
51階はリザードマン系で各種属性別の塊で襲ってきます。
素早く属性を見抜き攻撃する、魔法使いスタイルの訓練に最適です。
今も5匹のパーティーに十字路で、出合い頭に遭遇して乱戦に成っちゃって大慌てで魔法連発でしのぎました。
1匹目を倒せれば後は同じ魔法の発動だけなので余裕が生まれます。今回は上手く一発目の魔法で属性が合っていたので慌てる事も無かったです。
こんな風に一体多数の訓練を続けて居ます。
これが最も得意なスタイルです。
なにせ、元来はボッチ体質なのでパーティーを組んで戦うとか、ハーレムで自分以外は女の子なんて憤死モノですよ。
勇者様パーティーとか、そう言うの多いよね。強靭な神経してると思う。僕には無理、絶体の絶対無理ーっ。
別れる前のパーティーはある意味、非常に楽なパーティーでした。なにせ僕、スッゴク影の薄いモブキャラで居られたのですから。
モブキャラ良いよね。好き勝手に動いても誰にも注目されない、僕的には最高のパーティーだったんだけど。
まあ、アンジーには耐えられないだろうなあ。あの男達3人組馬鹿だったモノな、僕以上に空気読まない奴らだったからなあ。ある意味可哀想な子供たちだ。
でも、12歳の子供ってそんなもんだよね。
それが当たり前な筈なのに、僕たち4人が転生者な所為で彼らの歯車を狂わしちゃったんだろう。
12歳でこんな高ランクの冒険者に成ってしまって。
お金にも困らない生活。
ホントは良い事のはずが・・・。
もとが孤児院育ちの彼らが、教えられて来なかった事を出来る訳が無い。
教えられれば良かったんだけど、気が付いた時は僕の言う事でなんて聞く耳持たなくなっていた。
そりゃあそうだよね。空気でボッチでモブキャラの僕の言葉なんて誰の心にも響かないよね。
うん、落ち込んで来たから魔物に八つ当たりしよう。
その所為で、こうして、魔物を狩って狩りまくる事に為るのだった。
こうやってグレアム君の異空間収納スペースには大量の素材と、膨大な経験値を稼ぎ、ドンドンレベルアップして行くのだ。
八つ当たりされる魔物に合掌!
気持ちが浮上するまで、まだまだ、地上には戻れないグレアム君でした。
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ーーー サイド アンジー ーーー
私達は自宅のお屋敷に来ています。
本当は休みなので宿屋でまったりしたい所ですが、サーニンとマックスが行きたいと言うのでまあ、しょうがないのでお付き合いで付いて来てます。
2人は何やら屋敷の中を走り回っています。もう隠し部屋とかは、あの危ない地下の隠し扉しか無いと思います。
まさか?あそこには突撃しないよね。
2人もそこまで無謀じゃない。
と思いたい・・・。
今は、応接室でまったりしています。ふかふかのソファーに座って優雅に紅茶を飲んでお菓子をつまんでいます。
執事妖精さんが居てかいがいしくお世話をしてくれています。
こんなのんびりした時間が持てるなんて転生したばかりの頃は思いもしなかった。あの頃は死に物狂いであがいていてでもどうやっても生活が良くなることは無かった。
異世界の孤児院なんて生きて居られるだけ儲けものと言う状態でした。
現に私達と一緒に転生した勇者は赤ん坊の内に死んでしまいました。
勇者の居ない勇者パーティーなんてそれだけで失敗です。
私達は失敗したパーティーでした。
私はやる気も無くただ日々を生きるだけでした。
どうせ失敗したパーティーなのですからと。
変わったのはグレアム君が転生してからでした。
そう、あいつは遅刻して来た勇者パーティーの残りの一人だったんです。私たち3人が苦労していた間、ぬくぬくと天界でキャラクターメイキングをしていたのです。
グレアム君いわく、向こうでは5時間ほどしか経って居なかったとのことだが。
彼が転生する為にこちらの世界の住人が一人死ぬ事に為ったのだ。
まあ、本当は死ぬ運命だった者の中に転生しただけなのだが。私には彼が殺したようにしか見えなかったのだ。
一生懸命弱い体で日々を生きていたグレアム君。
生きる目的も無く日々生きていた私がサーニンとマックスとグレアム君が生きて居る支えだった。その一人を殺した。
許せなかった。
遅れて来て、ぬくぬくと生きて居るこいつが。
5年間も遅れて来て生き生きとして、積極的に生活を改善していくこいつが憎くて憎くて、私達はこの5年間ですり切れてしまっていると言うのに。
そんな苦しい日々を送りながら、ふっと、した拍子に見せる元のグレアム君らしさが胸を締め付けるのだった。
今のグレアム君の中に、確かにグレアム君が生きて居るのだ。転生するとその元の身体の記憶を追体験するとグレアム君が言っていた。前世の記憶と今世の記憶が混ざり合っていき一つの人格を創り出して行く。そんな感じだと言っていた。だから。アンジーもサーニンとマックスも僕の家族だよと照れくさそうに言われた時。
私は泣いて泣いて泣きまくった。
子供の様にわーんわーんと、その言葉はどう聞いても元のグレアム君の言葉にしか聞こえなかった。
それからは私も変わった積極的に生きる事にした。
私もその時は8歳に成っていた。
3年も無駄にしていたのだ。憎しみに曇った日々を過ごして、でも取り返して見せる。必ず、と誓った。
それから4年。まあ、頑張って居ると言えるでしょう。
きっと。
・・・・・。
もうちょっと頑張ろうかな。
と思う今日でした。
お疲れ様です。
ありがとうございます。
次回から転生してすぐの孤児院編を始めたいと思います。