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「では、こちらでお待ちください」


 第三王太子妃侍女長のネイナに案内されたアンバーは、密会用に急遽整えられた部屋の中を見回して、ベッドが置いてあるだけの質素な内装に逆にあることを思ってしまった。


 口元に手を当ててニヤけるのを隠すと、それをなにかと誤解したのか、ネイナにそっと背を撫でられた。


「大丈夫ですよ。ブラル伯爵様はご立派な紳士でいらっしゃいます。アンバー様はすべてお任せしていればいいのですよ」


 提案されたその日の夜から早速というこの急な同衾司令に、おそらく唯一激怒してくれたのがネイナだった。御年五十、孫までいるベテラン侍女は、あまりに無茶苦茶な話に、納得できる説明がなければ協力しないと主にたてついたと言う。それでも最後にはこうしてアンバーの支度から、部屋の準備、人員の配置変更まですべて手配してくれた。


 そして、今はアンバーの心の心配までしてくれる。

 こういう人は大事にしないといけない。


「ありがとうございます、ネイナ様」


 なんとか笑ってみました風に感謝を伝えると、ネイナは優しくアンバーを抱きしめ、静かに部屋を出ていった。


 その気配が完全になくなるのを待って、アンバーは部屋の中心に置かれた大きなベッドに、よいしょと腰を降ろした。


 両のベッドサイドにはアロマキャンドルの明かりが揺らめき、腰かけた赤でコーディネートされたベッドは天蓋付き。元は衣装部屋だった窓には天蓋と同じカーテンが掛けられ、全身が見られる大きな鏡にはキャンドルの揺らめきが映りすべてを淡く浮かび上がらせていた。


 実際行ったことはないけれど、これってまるで、


「ラブホテルみたいだわ」


 つぶやいて、あとはベッドが丸くて回れば完璧、と思わずニヤけてしまう。


 アンバー・ポラドルが伯爵家の一人娘なのに結婚しない理由。


 それは、日本で生きた前世の記憶があるから。


 それも、旦那を看取ったあと七十八歳まで生き、四人の子どもに孫も六人いた、こと結婚に関してはやりきった感満載の人生を歩んだ記憶を持って生まれたからだ。


 そんな前世の記憶があるのに、今更自分の孫世代との恋愛など無理。ましてや、結婚してまた子育てなんてもう懲り懲り、なのだ。


 それに、同年代では珍しく大学まで進学した前世でやり残してた『自分の能力でどこまでできるか試したい』を実現したかったのも、理由のひとつ。前世では、女はお茶汲み要員以外の働きはさせてもらえなかったことが、ずっと悔しかった。


 孫の可愛さを知っているだけに現世の父の願いを叶えられないのは本当に辛いけれど、そのための行為の対象者が甘く見ても五十歳以上と言うのは、伯爵家としてはアウトらしい。


 なので、できない事はしない。したいことだけやることにしたのだ。


 今回だって、もし相手がブラル宰相補佐官でなければアンバーにとってこの行為は苦行だったかもしれない。

 ブラル宰相補佐官。年は確かに若いけれど、後頭部の薄さと、小さくて、笑うと消えてしまいそうな主張のない目。男やもめの哀愁漂うちょっとだらしない背中。


 これならありかも?


 そう思ったら、ちょっとドキドキし始めてしまった。


 それに、ブラル宰相補佐官がずっと自分との婚姻を望んでいることを、アンバーは知っていた。隠しているようで、隠せてない好意を、疎ましく思ったことはないかもしれない。


 でも、それを受け入れることは考えたこともなかった。


 それなのに、ドキドキはこうして支度を済ませて寝室に案内された今も続いている。


 そういえば、四十年ぶりくらいかしら?


 前世込みでのご無沙汰していた年数を計算し、また処女に戻ってることに不安半分期待半分。


 仕事だとか独身主義はこの際あっちに置いといて、アンバーはちょっとだけ浮かれていた。


アンバーの前世は戦後生まれくらいでしょうか?

次にお話は本当にちょっとだけ色っぽいシーンがあります。


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