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お茶請けは七不思議 4

 さっきまでのふざけた雰囲気と違い、淡々と話を促してくる。毎度の事ながら切り替えが早さには驚かされる。ご丁寧にタブレット端末まで用意して、メモを取る準備万端である。

 まあ、確かに七不思議なんて手直なホラー、参考資料として申し分ない。幸い、白無に付き合って七不思議の話を教えてもらっている。協力は出来るだろう。


「僕も七不思議は又聞きだから、信憑性があるかは分からないけどそれでもいいなら。とりあえず、有名な話からするか。この大学にいれば一度は経験する、『行方不明の新入生』ってやつ。大学の入学式で行方不明になる新入生が数人いるという七不思議の一つ。これは花見技も知っているだろ?」

「それは私も知っています。必ず数人はいなくなるので、入学式前に捜索するのが恒例行事になってますから。でも、この噂って大袈裟ですよね」


 この七不思議『行方不明の新入生』は、入学式になると必ず数人の行方不明者が出るという噂だ。不思議な事に毎年必ず行方不明になる。そこまで聞くとちゃんとしたホラーなのだが、最後まで聞いてみると何とも言えないオチがある。

 

「確かに大袈裟だと思う。『行方不明の新入生』と言っているが、蓋を開けてみれば大学が広過ぎて迷子になっているだけなんだからな。案内看板を置いていても迷うってのは不思議ではあるけど」

「ここの大学、無駄に大きいですからね。裏の山も大学の私有地らしいですし、広過ぎて大学に通ってる間に行かない講義室が多く存在すると言われてるくらいですから」

「いや、それは割と普通の大学でもあり得るだろ。取ってない授業なら行かない教室もあるからな」


 とは言え、行方不明になる事自体問題だと思う。その対策として看板などで案内してるが何故か必ず迷う生徒が一定数いる。まあ、行方不明にはならないけど今だ迷子になってるやつもいるから、その生徒は元々迷子になりやすい性質を持ち合わせてただけなのかも知れない。

 この噂自体は調べるのが苦手な花見技も知っているくらい有名な噂だけど、七不思議の話をする上でこれを最初に語らないのは駄目だと思う。


「次の七不思議も有名……、ではないかもしれないがこの大学に居れば一度は見たことがある、大学本館の玄関ホールに取り付けられてる七不思議『動かない時計』だ。2つある時計の、故障中の札が付いている方。文字盤の数字が6までしか刻まれていない、止まっている時計。札が貼られている通り、壊れて動かないらしい。直そうにも校舎に直接埋め込まれているから取り外せないとか」

「ああ、あの働かない時計ですか。私、あの時計嫌いなんですよね。無駄にでかいのに働く事を放棄した時計。もしかして、警備員が深夜の見回り中、寝ぼけていた警備員が動いている所を見た事があるとかそんな感じですか? 寝ぼけてたから動いたと錯覚した感じですか?」

「その通りなんだが、オチを先に持っていくな。僕の見せ場がなくなるだろ」

「あ、合ってましたか。この七不思議知らないから、勘で言ってみただけなんですけど。まあ、あの時計の七不思議に時間を割きたくないですし、ちょうど良かったと考えましょう。時計だけに時間を割きたくないってね」


 上手い事言ったつもりなのが腹立つな。しかしこの後輩、時計に対して厳し過ぎるだろ。発言を考えるに、自分が勉強している時に働かない時計を逆恨みしている感じか。

 

「ただ、こう言う噂って謎ですよね。七不思議が『動かない時計』なのに、噂になっているのが『動いている』なのはおかしいと思います」

「『動いている時計』だったら普通の時計だろ。それのどこが七不思議だって感じじゃないか?」

「言いたい事は分かりますけどなんか納得できません。『時を刻む壊中時計』とかお洒落に決めてほしいものです」

「その感性は、どちらかと言えばお洒落じゃなくて厨二病だと思う」


 こう言う噂の名は時間が経つにつれて、言いやすいかったりしっくりきたものに変わっていく。その噂と微妙にズレていたとしても。その名前によって噂が少しずつ変化してしまうなんて落とし穴もある。この時計の七不思議がそうとは限らないが。


「文句があるなら、名前を付けた人に言え。次にいくぞ。七不思議『鏡の中の別世界』って言う噂。いくつかある階段の踊り場に鏡があるらしいんだが、時々自分が映らないとか言われている。違和感を感じた人が、その鏡を覗いてみたら鏡の中には、別の場所が見えたらしい」

「その話は聞いた事がありませんね。そして、今までの七不思議と違って、この七不思議はちゃんと七不思議らしい七不思議ですね。その鏡の中に入ったら出られないとか、鏡の中に妖がいて鏡の世界に連れて行かれるみたいな感じですか」

「興奮しているところ悪いがちがうぞ。なんでも新しく大学の別館を作ったときに、匠の遊び心で壁に穴を開けて鏡を取り付けたらしい。しかも、仕掛けがあるらしく、鏡部分が無くなるギミックが備わっていて道になっているとか噂されている。そのため鏡を見ると別の世界、つまり別館に繋がっているらしい」


 当然、鏡が無くなっているから自分は映らない。そう付け加えると、花見技はなんとも言えない表情をしていた。


「ようやくホラー展開のある話が聞けるのかと期待していたら、まさかのミステリー。いや、確かにミステリーギミックはロマンで小説のネタになるのですが、出来ればホラーのまま終わって欲しかった」

「この町の噂に対して、何を期待しるんだ? 一応、最初に言っておいただろ。くだらない噂から発祥しているって」

「それはそうなんですけど、もしかしたら本物があるかもしれないじゃあないですか。たまに本物が混じっていても分かりませんから。だって、この町には掃いて捨てるほど噂が転がっているんですから」


 確かにこの町は転がっているどころか、噂の上に成り立っている。町が無かった頃に噂に惹かれ、人が集まり、人が住み着いた。噂が噂を呼びそれが村に、時を経て町となった。古都野町の成り立ちは噂からと言われる由縁である。その噂の中に一つくらい、本物が混じっていても不思議じゃない。

 その考えも分かるが、探すのは無駄だと思う。探すにはあまりにも噂が多過ぎるのだから。


「それにしても、『動かない時計』からの『鏡の中の別世界』ですか。これ、元々は時計が一定の時間になると、鏡が動く仕掛けだったんじゃないですか?」

「もしかするとそうなのかもしれないが、今は確認しようがないからな。時計が校舎に埋め込まれているから、直すには大掛かりな工事が必要だし、その近くに掛け時計を吊るしてある事から大学側が直そうと思っていなさそうだ」


 校舎に埋め込まれたあの壊れた時計を直すにもお金が掛かる。大学の授業も止めないといけないだろうし、それなら別の時計を用意した方が楽だろう。


「次の七不思議は分ける意味があったのか『広がる大学』だな。七不思議の内容は学校が広くなっているなんだけど、これってただの錯覚だし、何だったら『行方不明の新入生』と似た噂なんだよな」

「華篠先輩、なんか雑になってます。もう少し勿体ぶった話し方とか、間を持たせてくれないとリアクションが取りずらいです」

「とは言っても、これって多分だけど『行方不明の新入生』が派生して出来た七不思議だろ?たまにある、噂の元を辿れば同じ物だったみたいな話。だからか、この七不思議って『行方不明の新入生』のせいでかなり影が薄いだよ」


 これもこの町に居れば、たまにある事。同じ噂の話をしているのに気付かずに別の話として会話をしているみたいな光景が繰り広げられていたりする。色んな人に噂を聞いてみると面白い事が起きたりする。


「ああ、枝分かれした派生する噂ですか。でも、あれって有名になった方が残る印象があるんですけど、そこのところはどうなんですか?」

「僕に聞かれても困るが、この大学はやたらと広い事で有名だし、その事が印象に残っていて七不思議へ抜擢されたんじゃないのか? 確証は無いけど」


 僕も詳しく知っているわけではない。他の人から聞いた話を花見技に話しているだけだ。今話している他の七不思議も、派生した噂の可能性だってある。それを言い出したらキリがない。

 すっかり温くなったコーヒーを飲む。目が醒めるような苦みが口の中に広がる。一息ついて別の七不思議を話す。

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