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お茶請けは七不思議 1

『古都野の始まりは噂から』そんな風に言われているこの町、古都野町。『古い都が野になった』で『ふるみやのまち』なのだが、呼びやすさから『ことのちょう』と言われている。昔、都があったらしいその場所に、都の影は無く野になったと言われている。そんな何も無くなった土地の噂を聞きつけ、辿り着いた人達が村を作った。噂が噂を呼び、人が集まって村となった場所が、時が経つにつれて町となった。噂の上に成り立つ町、古都野町。この町の噂は眉唾物で、大半の噂はアテにしてはならない。大袈裟に脚色された噂は、元となった話とはかけ離れているため、聞いても同じ話とは気づかない。人から人へと噂が流れ、噂が姿を変える。この町の成り立ちすらもアテにはならない。そんな町に住む青年の話。

 

 退屈な授業が終わり、固まった体をほぐすため伸びをする。途中、船を漕いでいたが何とか最後まで起きていられた。今日も授業に勝った。勝ち負けは無いのだが気分は勝ち。提出用のルーズリーフに名前を書いておく。しかし、僕の名前である華篠八雲はなしのやくもって名前は画数が多くて書くのも面倒だ。

 さて、今日受けなきゃいけない授業もないし、家に帰ってもやる事がない。このまま帰っても暇で退屈だし、提出物を出した後、鞄に教科書をしまっていつもの場所へと向かう。春の穏やかな陽気が眠気を誘われながら欠伸を噛み殺し、見慣れた道なりに歩を進める。あまり無い知名度のわりに広いと言われているこの大学は、毎度何人か新入生が道に迷い行方不明になる。慣れた先生や生徒は大体行きそうな場所がわかる為、すぐに見つかる。入学式前に捜索隊を結成して探すのが最初の行事みたいになっている。『行方不明の新入生』と言う七不思議にもなっているが、内容がただの迷子であるため、オチとしては閉まらない何とも言えない話だった。何だったら在学生ですら迷う。七不思議として成立してるかすら怪しい。

 そんな事を考えながら階段を上がっていると、後ろから声をかけられた。振り向くと七不思議とは関係なく迷子になる人物がいた。


「おっす、相変わらず眠そうな顔しているね、華篠くんは。授業が始まったばかりとは言え、集中しないと置いてかれるよ。小見さんは心配だよ」


 僕と同じ学年である白無小見がいた。白が無いと書いて『しらない』、小さく見るで『おみ』と教えてもらった。本人曰く、『知らないおみさん』と言う覚え方をしてほしいらしい。

 眠そうな顔と言われたが、絶対に白無に言われたくはない。いつも眠そうにしていて溶けた顔をしている。常に寝不足だと言っていたが何をしているのだろうか。授業についていくために、勉強でもしているのだろうか。それなら納得がいく。

 シンプルな装いが好きだと本人は言って、Tシャツにパンツルックが多い。普段から着慣れている服装なのか、動きやすそうなその格好は彼女には似合ってる。整った顔には薄っすらと隈ができている。眠そうな印象が真っ先に出てくるだろう。肩に鞄を下げているが教科書でも入っているのだろうか。少し重そうである。

 鞄を持っているところから今から帰るところだろうか? もし帰るのならば、入り口までは送っていった方が良いかもしれない。何故なら、彼女は物凄い方向音痴でいつも迷子になるからだ。


「どうした、迷子の白無さん。帰り道でも分からなくなったか?」

「いえいえ、皮肉屋の華篠さん。私は用事があって彷徨いているのであって、決して迷子なんて不名誉な言われはないです」

「いつも用事があるって言っている気がするんだが、気のせいか? まあいい。白無が迷っているのであれば、入り口辺りまで送るが」

「ありがたい言葉だけど、用事があるのは本当だよ。この大学で探し物をしているんだけど、中々見つからないんだよね。ある意味、探し物しているせいで迷子になっているみたいな感じ。前にも言った事あったよね、噂を集めるアルバイトをしているって」


 思い出してみれば、白無と初めて会った時も探していた気がする。この大学にまつわる七不思議の噂を探していた時に、僕も付き合って一緒に先生の所に行ったんだっけ、迷子になるから。


「前に言っていたな。しかし、噂を集めるバイトって随分怪しい所だが大丈夫か? 普通に危ないバイトじゃないか?」

「まあ、この町ならではのアルバイトだと思うよ。噂で成り立つ町、古都野だからこそ成立するバイトだね。『成り立つ』だけにね」

「上手いこと言ったつもりかもしれないが、あんまり上手いこと言えてないぞ。お前って、割と言葉遊びが好きだよな。『知らないおみさん』って自己紹介を作ったりしてるし」

「最近は『おみちゃんのお見送り〜』って言うさよならの挨拶も作ったんだ、授業中に」


 もしも、今鏡で僕の顔を見たらきっと呆れた顔が映っているだろう。あるいは何をやっているんだ? こいつは、といった顔だろう。まあ、鏡で見る時にそんな顔をするのもおかしなことだけど。そう言えば、階段を登った踊り場に鏡が置いってあったのを思い出す。わざわざ顔を確認するために会話を切り上げるつもりもないが。


「危なくなければいいんだけど。まあ、協力できる様なことがあれば手伝うよ」

「そこまで困る事はないだろうけど、困った時はお願いするよ。今のところは大丈夫だから」

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