『風の行方』 第二話 偽り・虚像・幻影…
たった一人の少女の犠牲によって創られた偽りの舞台。
傍から見れば酷く滑稽で、何も知らない者達にとっては幸せだったのかもしれない、創りあげられた虚像。
だからこそ創りあげられた幻影を壊すことが出来るのは、陰ながら少女を支えた一人の仕掛け人だけなのではないだろうか…
「どうして貴女がここにいるの!ここは、貴女なんかがいていい場所じゃない!」
会ってもらいたい人がいるからと和臣に案内されて来た場所で出会った人物は、彼らが誰かとわかった瞬間彼らに牙を向けた。
彼らの存在の全てを否定するかのような叫びに、和臣に案内されて来た四人は呆然としながら少女の言葉を聞いていた。
「えっと、落ち着いて。君は誰なの?」
「あんたなんかに教える名なんてない!」
最初に会った時には、嬉しそうに微笑みながら自分に近づいてきた小さな少女が、何かに気づいて突然自分に触らないでと叫び出したために少女に落ち着いてもらおうと声をかけた華音だったが、少女は自分に触れようとした華音の手を弾き落とした。
「いくら何でも、それは言いすぎだろう」
「一体、貴女は何に怒りを向けているの?」
「うるさい、うるさい、うるさい!何であんた達がここにいるのよ!」
頑なに自分達を…その中でも特に華音を拒絶する少女の姿に、樹と皐月は少女を説得するために優しく声をかけたが、少女は聞く耳を持たないと言うかのごとく泣き叫んだ。
「玲亜、言いすぎだ」
「だってお父さん、こいつらはお姉ちゃんを!」
『はっ?お父さん!?』
叫び続ける玲亜に対して和臣がかけた言葉に反応した玲亜の言葉を聞いて、華音や樹はおろか彼の幼馴染であった蓮や皐月すらも驚いて玲亜と和臣を交互に見回した。
「玲亜…ちゃん…なの?」
「和臣、本当にこの子が玲亜ちゃんなのか?玲亜ちゃんは一体…」
「気安くあたしの名前を呼ばないで!」
玲亜と和臣の会話に皐月と蓮は華音や樹達とは違って玲亜のことは知っていたが、どうしてほとんど会ったこともない玲亜にこれほどまでに嫌われているのかと和臣に尋ねようとしたが、二人の言葉に嫌悪感を抱いた玲亜の怒鳴り声にかき消された。
「あんた達なんて嫌い!大っ嫌い!あんた達なんかいなくなればいいのよ!」
「お前、本当にいい加減にしろよ。いくら子供だからといって、和臣さんの子供だからといってしまいには怒るぞ」
触れることさえ汚らわしいと言うがごとく叫ぶ玲亜に、樹は相手が子供だからと怒りを抑えながら玲亜を叱りつけようとした。
だが、玲亜は樹の言葉に樹を…その場にいる四人を睨みつけた。
「お姉ちゃんを拒絶したあんた達に、あたしの言葉をとやかく言う権利なんかない!」
「お姉ちゃん?…それって一体、誰のことなんですか?えっと、玲…亜ちゃん?」
「呼ばないでって言ったでしょう!お姉ちゃんと同じ顔で、お姉ちゃんじゃないくせにあたしの名前を呼ばないで!」
彼女を今の自分の態度よりも酷い言葉と態度で、その存在すらも認めようとしなかったあんた達に怒る権利があるのかと玲亜は力の限り叫んでいた。
自分にとって何よりも大好きな少女を傷つける彼らは、まだ小さな玲亜にとって何よりも許せない存在だった。
「…華音と同じ顔だと?和臣…どういうことなんだ…」
「…言えば、蓮さんと皐月さんは絶対に彼女に会おうとしなかったでしょう?」
泣き叫ぶ玲亜の言葉の中に一人の存在を見つけた蓮は、自分達に会わせたかったのは玲亜ではなかったのかという思いを込めて尋ねた蓮の言葉に、和臣は全てを言わずにただ蓮の言葉に静かに肯いた。
もうわかったでしょうという想いを込めながら、蓮とそして呆然と自分達の会話を聞いていた皐月に対して和臣は二人の考えを肯定した。
「玲亜、いい加減にしなさい。ここは病院なんだぞ」
「…ごめんなさい、お父さん。どうしても、許せなかったの…」
未だに怒りは納まらなかったが、今自分がいる場所を思い出して玲亜はうつむきながらごめんなさいと和臣に謝った。
和臣が四人を連れて来た場所は病院で、本来そこで騒ぐのはいけない場所だと物心ついた頃からずっと言われていたのに、それなのに騒ぎを起こしてしまってごめんなさいという想いを込めて。
「…この人達は、依音お姉ちゃんの苦しみを知らないくせに、優しさを知ろうともしないくせに、自分達が被害者の顔をして依音お姉ちゃんを傷つけているんだもの…」
依音が望んでその能力を手にしたわけじゃないのに、好きでそんな悲しい能力を持って生まれたわけじゃないのに依音を残酷なまでに傷つけてきた四人に対して、玲亜は怒りを堪えるようにうつむきながら静かに呟いた。
「俺達が被害者のふりをしているって何言ってんだ。あいつは化け物なんだぞ!」
「…どうして依音お姉ちゃんが化け物になるの?」
玲亜の言葉に樹は玲亜の肩を掴みながらお前は依音に騙されているのだと告げたが、玲亜は顔を上げずうつむいたまま小さな子供が発する声とは思えないくらい暗い声で逆に樹に問いかけた。
何を持って依音を化け物と呼ぶのかと…
「お姉ちゃんは何もしていない、お姉ちゃんが悪いわけじゃない。ただ、人とはちょっと違った能力を持っていただけに過ぎないのに…」
『………』
どうして依音お姉ちゃんのことをわかってあげようとしようともしないのと、うつむいて泣き出した玲亜に、四人は答えることが出来なかった。
彼らには玲亜がどうしてそこまで依音のために泣くことが出来るのかと、玲亜のことがわからなかった。
「…あのさ、人の闇を強制的に見せつけられている依音が苦しんでいないと、貴方達は本気で思っていたの?」
玲亜の問いかけに誰も答えることが出来ず、重たい空気が漂っている中で聞こえてきた声は冷たい怒りを伴なっていた。
玲亜とは正反対の冷たい雰囲気で、玲亜と同様に何もわかろうとしなかった彼らに怒りを込めて。
「華音ちゃんと樹君は久しぶり。んでもって、そっちのおじさんとおばさんは初めましてかな?依音の親友の八嶋 暁って言います」
「八嶋…さん?どうしてここにいるの?」
明るく自己紹介をしながらも、自分達に冷たい視線を送る暁に対して、暁がここにいる理由がわからなくて怯えながらも華音は暁に尋ねていた。
ある意味、最も愚かで馬鹿馬鹿しい質問を華音は暁に尋ねていた。
「あたしはずっと依音の側にいるって約束したの。だからここにいるんだよ」
「俺がみんなに会わせたかったのは、玲亜や暁君でもない。依音に、会ってもらいたかったんだ…」
何でそんなことを聞くと言うが如く答えた暁の言葉に続けて、和臣は四人を連れて来た目的を語った。
ここに連れて来た自分を憎んでも怨んでもかまわないから、依音に会って欲しいと和臣は願った。
その行為が、依音の想いを壊してしまうとわかっていても。




