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愛国の王女  作者: 小松しま
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 一方のトーリアスはロクサーナ姫の姿を思い返す。

 改めての驚きだが、とても同性とは信じられない。

 ほっそりとした、中性的な美しい貴婦人だった。

 だが、それを言ったら、イルファールス王とて同様だ。

 ドレスを纏えば、充分王女で通用するだろう。

 何せ、横に同じ顔の妹がいた。

 病弱が理由だろうが、体格もさほど違わない。

 あの、生命力のきらめきに満ちたエリシア王女と逆であれば……と、きっと、周囲の誰もが惜しんでいるに違いない。

 いや……もしかしなくとも、誰よりも当人が……。

 本当に、彼らが反対に生まれついていたら、憂慮の多くが意味をなさなかっただろう。

 歴戦の猛者である彼らをして、エリシア王女の風情は、たまらない親近感を抱かせた。

 予め聞いていた「噂」がある程度の先入観の元となったが、男らしさだの、女らしさだの……それこそ、思い込みの基準に過ぎないのかと、ひどく混乱してしまう。

 であっても、見抜いた事実が一つあった。

 エリシア王女とロクサーナ姫。

 間違いなく、あの二人は剣の使い手だ。

 それも、かなりのレベルの。

 更に言うなら、短い邂逅でも畏怖を禁じえなかった、ロクサーナ姫のあの威厳。

 正直、よくも身震いを抑えられたものだと思う。

 隣の親友や、上司となったルゴール。

 それに、あの場のお歴々方。

 皆、平然と堪えきっていたのだから、感服する。

 …………気付いていないなど、あり得まい。

 それこそ、まさか……だが……。

「噂以上に、あの王女さん。……それに姫さんの方も、剣を扱うようだが?」

 そう指摘したのは、トーリアスだ。

「おお、良くわかったな」

 ルゴールは表情を和らげる。

 蛇の道は蛇、

 同業者にはその物腰で一目瞭然だ。

 王の両脇を守っていた内親王二人。

 いずれも、只者でない気配が漂っていた。

 姿勢や、所作から、ひとかどの者なら、充分察知し得る域である。

「やはり……か」

 ハルバートも肯首する。

 じゃじゃ馬姫の噂の中に、真実も潜められていたようだ。

 軽佻浮薄な上辺だけのごっこ遊びでなく、彼女たちの乗り越えた鍛錬は本物だ。

 騎士の勘が、そう告げている。

「前王の御遺言でな。王女殿下と姫君には、イルファールス王と同様の教育を課すよう命じられたんだ。通常の王子が修めるべき勉学の全てをな。剣術もその一環だったが、これが驚くほどの逸材でな」

 ルゴールも、大陸全土に剣の腕で名を知られた騎士だ。

 優れた人材を委ねられ、教育に熱が入るのは無理もない。

 前王も、世継ぎとして心もとないイルファールスの助けとなるように、最も近しい身内である王女たちに、片腕たらん能力をつけるのが最善と判断したのだろう。

 そしてそれは、いずれ市井に下るロクサーナ姫にとって、貴重な財産となるはずだ。

 金銭は消費すればなくなるが、身についた教養や学問、鍛錬は、決して裏切らない。

 生涯を共にする武器となるのだから。

「生憎、陛下はあの通りご病弱だったため、基礎の基礎をどうにかこなしただけだったが、お二人ともすっかり執心されて、特に王女殿下は今でも訓練場にほぼ日参されるほどだぞ」

 つまり、ロクサーナ姫はそうでない訳だ。

 けれど、エリシア王女の剣の鍛錬が現役なのには納得である。

 世間をにぎわせる「噂」の裏付けにもなろう。

「騎士たちも、すっかり殿下に心酔しきっていてな。あの方を歓迎しない者などおらん。お前たちも、いずれ手合わせの機会があるだろうが、姫君のお遊びだと油断せんことだな」

「ほう? 叔父上がそこまで言う腕前とは……」

 ハルバートも興味を抱いたようだ。

 トーリアスは、軽く肩を竦める。

 ルゴールの言葉を疑うつもりは毛頭ない。

 きっと、それだけの腕を有しているのだろう。

 であっても、自分たちの相手になれるかは懐疑的だ。

 どれほど尽力したところで、経験の差のみならず、年齢と男女の違いは大きい。

 ……と、そこまで考えて、ロクサーナ姫が今は剣から距離を置いている理由を察する。

 そして、奇妙な符合に得心した。

 エリシア王女の存在は、イルファールス王にとってもロクサーナ姫にとっても重畳だろう。

 彼女がいるからこそ、「あらゆる不自然さ」から、人の目が避けられているようだ。

 不躾を承知で言えば、何とも「面白い」現状だった。

(……退屈、せずに済みそうだな……)

 レガーリア王国で過ごすこれからの日々に、期待が高まる。

 トーリアスは、ルゴールの後継者候補であるハルバートと違って、この地で長く過ごす義理はなかった。

 武者修行の旅の途中、隊商の護衛として夜盗と切り合っていた彼の窮地を救って以降、無二の友となり、行動を共にしているが、未来の約束などあるはずもない。

 気の向くまま好きに動くのが信条なので、道を違えたところでまた一興。

 今回は、特に他の仕事もなかったため、誘いに応じて同道したが、なかなかどうして面白い経験ができるかもしれない。

 奇妙な予感があった。

 そしてそれは、遠くない未来。思いがけない形で的中する。

 


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