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愛国の王女  作者: 小松しま
113/116

113

 その後訪れた一瞬の沈黙を経て、エリシア王女は強く宣言する。

「これよりは、わたくしがイルファールス王として、一切の責を担います」

 その声の厳かさに、揺るぎは皆無だった。

 これまでも暗黙の了解で、王の名代を勤め続けた王女だが、集う一同。皆、わかってはいたのだ。

 彼女こそが、国の主たる、真実の器だと。

 けれど、成文化された継承法の下、戴冠を許されない。

 よって、病弱のため政務もままならない兄王を隠れ蓑に、実質的な支配者として国の舵取りの制御を果たしていた。

 逆を言えば、首脳陣のいずれもが、表沙汰にならない不遇の計らいを見て見ぬふりし続けたのである。

 考えてみるまでもなく、もはや事態は裏からの暗躍で終えて良い状況でない。

 いや、もっと早く真の主が親政していれば、国の独立が危ぶまれる未来も避けられていたかもしれなかった。

 もう……何を言っても今更だが。

 法の改正を試みもせず、尽力を避けていた重臣たちの非は大きいと、彼らは改めて思い知る。

 エリシア王女の覚悟は強い。

 様々を充分考え、そして、決意したのだろう。

 ここに至って、誰にも否は告げられなかった。

 けれど、歴史ある名門、レガーリア家があってこそ、この先におけるイブリール帝国内での扱いが定められた現状、当座を凌いでも、今さえ乗り越えられれば良い問題でないのだ。

「お、お考え……誠に重畳であらせられます。な、なれど、殿下! お世継ぎは、お世継ぎは、いかがなされますのですっ?」

 筆頭大臣が、悲鳴にも似た叫びで、問いの形を用いて換言する。

 それは、一同の胸中を代弁するものだった。

 もちろん、エリシア王女にとっても、想定内の訴えだ。

 彼女は、扉の前に控えたままの侍従に目を向ける。

 予め言い含められていた彼は、すぐさまうなずいて、身体の向きを変える。

「ロクサーナ内親王殿下。お出ましくださいませ」

 その声を合図に扉が開かれ、奥から身分に相応しい、正式にて豪奢な装いを纏ったロクサーナ姫が現れた。

 髪もまた優雅に結い上げられており、志尊の王族としての姿で、一同を圧倒する。

「ひ、姫君っ」

「これは、何と……」

 円卓を囲む彼らは当然、ロクサーナ姫の性の真実を知る者ばかりである。

 しかし、常からエリシア王女をはばかるばかりでなく、目立たないよう留意していた彼女の、慎み深い姿に馴染んでいたため、咄嗟に現実を受け入れられなかった。

 ここにいるのは、どこからどう見ても、最上の貴婦人。

 その真実の性を看破する者など、断じておるまい。

 それほどまでに、ロクサーナ姫は完璧な淑女として、彼らの目の前にあった。

 言葉を失う一同を眺めて、エリシア王女は、最後の攻勢に出るべく喉を鳴らす。

 すると、この期に及んで、怖気づくなど情けない限りだが、腹の奥が震え出した。

 ……認めない訳にはいかない。

 恐ろしいのだ。

 神の定めに逆らうつもりはないが、それでも取りようによって、自分の選んだ道は、破戒に通じかねなかった。

 全ての人の理解を得られるなど不可能だと、重々承知しているものの、苦楽を共にしてきた一同に否定される可能性を考えるだけで、足がすくむ。


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