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愛国の王女  作者: 小松しま
112/116

112

 翌日。

 レガーリア王国最後の閣議が執り行われる。

 議場の円卓には、国の首脳陣が揃い踏みした。

 エリシア王女出奔のあの日。

 イルファールス王より、翻意の自由を容認された諸侯だが、結局、離脱者は皆無。

 それぞれ思惑はあったのだろうが、最後の最後まで、構成領域一同、レガーリア王国としてのまとまりを維持したのである。

 この議場にて、イルファールスより退位宣言が発せられ、王国の歴史に幕を下ろす次第。

 以降、イブリール帝国へ主権を禅譲し、版図に加わる。

 その正式な儀式は、後日、帝国発祥の地、「永遠の都」の異名を持つイブリンにて執り行われる。

 しかし、当座の受け渡し……仮調印が閣議の直後、場所を大広間に移して披露される手筈が整えられていた。

 そちらには、滞在中であるエイリーナ斎王が、イブリール皇帝名代として臨席する。

 皇族や重職にある貴族などを名代として派遣する計らい自体は珍しくないが、斎王が請け負う場合、大きな意味があった。

 有事の際、斎王は皇帝の代行者となる資格を有しているものの、その逆は許されていない。

 つまり、別格の貴人たる彼女が臨席する仮調印は、特別な格式の場であると、大陸全土に喧伝している訳である。

 その他に、周辺諸国からも、立会人たる王族や、大使及び領事等公使一同を筆頭とした賓客たちが招待されていた。

 国際的な調印。最高の格式で披露されるそれは、レガーリア王国にとって最後の外交の場となる。

 まだ開始予定時刻まで余裕があるが、そちらにも続々と列席者が集まり出しているらしい。

 宮城中を支配する、緊張感に満ちた興奮のさ中、閣議の場では、レガーリア王国首脳陣が円卓を囲み、主君の到来を待ちかねていた。

 ただ、常ならぬ点も一つ。

 まだ空の玉座の後方に、いつもは設えられている両内親王のための席がない。

 今日に限って異例の扱いになるのか、あるいは今日だからこその計らいなのか……。

 国の終焉に際して、本来、責務を負わないはずの王女たちにまで立ち合わせるのは、酷だからだろうと、面々は顔に同情と悔恨を滲ませていた。

 実際、エリシア王女にも、ロクサーナ姫にも、この国はあまりにも多くの役目を押し付けてきた。

 正当な評価も与えず、暗黙の了解の代理として、だ。

 最後の幕引きまで影の立役者……あるいは、影の殿を強いるのは、あまりにも非道である。


「国王陛下、御出座であらせられます」


 侍従の奏上に続いて扉が開き、君主が入室した。

 立ち上がった一同は王を迎え入れるべく礼を正したのだが、直後、驚愕の息を詰める。

 誰もが……否、玉座の次席に立つエネルプ神官長以外の者が、ざわめいた。

「一同、大儀である」

 現れたのは、見慣れた少年王であり、そうでない。

 ばっさりと、長く美しい髪を断ち切り、王の正装に身を包んだエリシア王女だったのである。

 同じ顔だ。

 けれど、差異は明らか。

 見慣れた面々が、間違えるはずもなかった。

「で、殿下っ!」

「そのお姿は、一体っ?」

「陛下はっ、陛下はいかがなされましたっ?」

 口々にわめきたてるのも無理はない。

 エリシア王女は静かな笑みで首脳陣を見渡し、眼差しで着席を命じた。

 そして、自らも腰を下ろす。

 さすがにお歴々たちも従った。

 と言うか、茫然自失で、他にどうしようもなかったのかもしれない。


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