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愛国の王女  作者: 小松しま
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 実際、諸刃の剣だ。

 国防の一切を不定期採用の傭兵に委託するのは、任期修了者より内部情報が漏洩するリスクと隣り合わせとなる。

 詳細な部分について、短期間で改定を繰り返す対策を講じてはいるものの、基本は不動。機密を知る存在が国外にあまたいる状態に甘んじるなど、尋常とは思えない。

 だが、そうしたリスクを負ってまで、「武力の放棄」を訴えたい王国側の考えも、また一理ある。

 覚悟の上の現状なのだから。

 もちろん、歴代の傭兵たちの倫理観に頼る部分も多々あるが、「そうあっても構わない」との姿勢を諸外国に見せ付けるのが目的に相違ない。

 要は、決死のパフォーマンスだ。

 列強側も、丸腰を主張する相手に理不尽な侵略は、はばかられる。

 ……が、それも平時の常識であり、人としての理性が重んじられてこその戦法だ。

 手段を選ぶ余裕のなくなる有事に通用する考えではない。

(凄まじい……政治の駆け引きだな……)

 トーリアスは改めて思考を組み立て直す。

 軍を持たない建前に反して、レガーリア王国における傭兵たちへの処遇は最上の域にあった。

 さすがに最下級とされる兵卒レベルは大部屋に押し込められるが、それでも最大数で四人。狭いながらも、各々壁に面する角が与えられているのだから、充分すぎる恩寵である。

 また、寝台にしても他国では良くて寝袋が支給される……大抵は雑魚寝の扱いながら、ここでは二段仕様や組み立て式でなく、固定の備え付けを宛がわれる。

 充分な休養が保障されているのだ。

 そして、待遇に応じて仕様こそ異なるものの、一定以上の役職の者には一人一人に個室を用意され、他にも浴場、鍛錬や怪我の治療のための施設や食事処までが完備されている。

 次期取り締まり候補であるハルバートとその片腕たるトーリアスは、中でも別格の扱いで、幹部用のかなり広めの部屋を用意されていた。

 王の側近くを任せられる者として当然の待遇と言えばそれまでだが、悪い気はしない。

 それどころか、就業意欲がそそられる。

 つまり、人の使い方を心得ている訳で、これは大いなる財産と言えるかもしれなかった。

 小国ならではの、ある種の処世術なのだろうか。

 強烈な中央集権でなく緩やかな連帯での自治が果たされるレガーリア王国の代表となったのが、現王家だ。

 構成領域の調度中央部分に位置し、且つ、最も古い歴史を誇る名門として支持された。

 系譜をさかのぼるのがほぼ不可能とまで言われる伝統は、伊達でない。

 遥かな時代に興った、ローディアナ大陸最古の王国と称されたソルトレイドの滅亡よりしばらく、各地に多くの国が乱立する中、領主たちの推挙によって、時の当主は王冠を賜り、レガーリア王を名乗ったと伝わる。

 であっても、治める地は、レテオラとその周辺を取り囲む実に狭い領域……原始「レガーリア」に変わりはなかった。

 更に、その四方八方に国の重鎮となった貴族たちの領域がひしめき合いながら連なり、国の体裁を整えていた。

 名こそ、レガーリア王国と表しはしたが、実質は何も変わらず、それぞれの流儀での自治が果たされたまま、今に至る。

 王家の暮らしぶりも、質素倹約を旨にし、豪奢を嫌ったため、慎ましい限り。

 結果として、周辺諸国の警戒心を和らげるのに一役買ったので、幸いだろう。

 国力を高める努力を、官民一体となって放棄したかの姿勢に見えたに違いないのだから。

 実際のところ、強力な支配力を発揮しなかったのは、功罪つけがたし……と言ったところだ。

 イブリール帝国発祥の「度量衡の一致」にも、レガーリア王国は倣っていない。

 列強こぞって国是として追随する中、実に呑気な……いっそ不見識な態度を示したのだ。

 おかげを以て、レガーリア王国は、大陸でも有数の通商圏外に追いやられている。


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